セブンの命!エースの命!


データ

脚本は田口成光。
監督は山際永三。

ストーリー

公園で友達と遊ぶダン。
しかし一人だけ逆立ちが出来ず馬鹿にされる。
ダンが公園で一人逆立ちの練習をしていると北斗が来て話しかける。
「姉ちゃんと2人のクリスマスはつまんなかった」とダン。
北斗は「すまなかった」と言い、クリスマスプレゼントのチョッキを渡す。
ダンは「今日はいいことばっかり続くなあ。死んだと思ってたおじさんが来るんだよ」と言う。
北斗とダンがアパートに戻った時子供が階段から落ちそうになっていた。
助けようとする北斗だが何者かが「手を握るんだ」と言い、ちょうど落ちてきた子供をその男と一緒にキャッチする。
その男はダンのおじさんの三郎。
腕には腕輪をしていた。
三郎はダンと香代子におみやげを渡す。
「身寄りがあって嬉しい」と香代子。
その頃TAC基地では新兵器シルバーシャークの完成が間近に迫ったのを受け、非常警備体制を敷いていた。
秘密研究所に行っている竜と吉村以外の隊員たちは近辺のパトロールに出る。
すると山中、美川が何者かに襲われ、パンサーは敵の投げ込んだドラム缶により炎に包まれてしまった。
パンサーを離れ応戦する2人。
銃声を聞いた北斗、今野も駆けつけ応戦する。
北斗は山中らの援護で接近し敵に傷を負わせるが、逃げられてしまう。
しかし現場には見覚えのある腕輪が落ちていた。
翌日アパート近くの公園で待ち伏せする北斗。
そこへ足を引きずった三郎が現れる。
「これあなたのじゃないですか?」腕輪を見せる北斗。
「その足の傷は?」追い詰める北斗。
「あなたはTACを襲った。お前は宇宙人だ」。
鉄道の停車場の間を逃げる三郎。
連絡を受けた山中らも駆けつける。
北斗らは三郎を追い詰めるが三郎は正体を現し超獣ファイヤーモンスを呼び出した。
北斗はファイヤーモンスの吐く炎の中TACガンで応戦するが、とうとう炎に包まれてしまう。
「ウルトラターッチ」エースに変身する北斗。
優勢に戦うエース。
しかし三郎は炎の剣を取り出しファイヤーモンスに渡す。
劣勢に立たされるエース。
メタリウム光線も炎の剣に吸収されてしまう。
何とか炎の剣の猛攻を凌ぐエースだったが、とうとう足を滑らせエースの胸を炎の剣が貫く。
「エースが死んだ」勝ち誇る三郎はファイヤーモンスを撤収し一旦休ませる。
カラータイマーが途切れ途切れになるエース。
薄れ行く意識の中、ウルトラセブンがエースに呼びかけた。
「エースよ。弟よ。負けるでないぞ。ウルトラの若い命はお前のものだ。こんなことで燃え尽きてはならん。お前にはまだ地球でやらねばならないことが沢山ある。未来に向かって命の炎を燃やせ。1人で生きるのは辛い。しかし頑張らねばならないのだ。エースよ立て」。
「北斗さん。死んじゃやだよ」。
病院のベッドに横たわる北斗の意識の中にダンの声が呼びかける。
北斗は意識を取り戻した。
医者が診ると心臓は正常に動いているという。
山中にあのことは話したのかと聞く北斗。
山中が首を振ると、北斗はダンと香代子に三郎が宇宙人であることを話した。
「嘘だ」とダン。
その時隊長からシルバーシャーク完成の報が届く。
すぐ隊長の下へ向かう山中だが、北斗は香代子が三郎から貰ったペンダントが盗聴機になっているのに気づいた。
無理を押して山中の後を追う北斗。
「本当のことを確かめる」とダンと香代子も北斗について行った。
一方盗聴でシルバーシャークの完成を知った三郎は再びファイヤーモンスを登場させシャークを積んだジープを攻撃する。
北斗は再びエースに変身しファイヤーモンスに挑むが今度も炎の剣により苦戦を強いられる。
一方ダンと香代子も三郎に捕らわれエースは大ピンチに。
しかしファイヤーモンスの隙を突きTACの新兵器シルバーシャークが炸裂する。
粉々に粉砕されるファイヤーモンス。
追い詰められた三郎はファイヤー星人になり巨大化。
炎の剣でエースに襲い掛かる。
エースは鉄塔を使いその攻撃を凌ぎ、逆にファイヤー星人の手を狙い炎の剣を奪い取った。
剣を星人の頭に刺すエース。
最後はメタリウム光線で星人を粉砕し、逆立ちとバック転をするサービス。
それはダンに対して「負けるな」と言うメッセージでもあった。
友達の前で見事逆立ちをするダン。
喜ぶダンを微笑ましく見る北斗と香代子であった。

解説(建前)

ファイヤーモンスについてはファイヤー星人が連れて来た超獣ということで問題ないであろう。
怪獣とどう違うのかと問われれば答えに窮するが、怪獣というカテゴリーの中に超獣があるとすれば、怪獣でもあり超獣でもあるという振り分けは可能と思う。
一応生まれてから手を加えられ別の生物になったのが超獣、生まれつき怪獣なのが怪獣とでもしておこうか。
異論はあると思うがとりあえずそういうことにしておく。

ダンはクリスマスは姉と2人と言っていたがクリスマスは孤児院に行っていたのではないのか。
これは孤児院に行ったのがイブで翌日のクリスマスは3人でする予定だったということだろう。
北斗はスノーギラン戦の残務処理にでも追われていたのだろうか。

ファイヤー星人は何故ダンのおじさんのことを知っていたのか。
これは北斗について調べていた星人が梅津姉弟のことを知り、役所にでも行って戸籍等を調べたのではないかと考えられる。
その時偶々ダンらが子供の頃、外国に行ったおじの存在を掴んだのだろう。
ダンらはおじの顔を知らなかったので、星人は適当な人間に化けて上手くダンらを騙すことが出来た。

子供を助けるパフォーマンスは星人が仕組んだものと考えられる。
あまりにもタイミングが良かったので偶然とは考えにくい。
自分がいい人だと北斗らに信じ込ませるためのパフォーマンスであろう。
しかし逆効果な気もしないではないが。

星人が山中らを襲ったのは何故か?
これでは「シルバーシャークを狙ってます」と相手に知らせるだけではないのか。
これは事前にTACの隊員を何人か倒して、警戒網を緩める作戦だと思われる。
ドラム缶を爆破させたり銃で応戦したり、明らかに隊員殺害の意図を感じる。
思ったよりTACが強くて作戦が失敗したのだろう。
しかしダンに近付いたりTACを襲ったり、かなり手の込んだことをする星人である。

北斗はエースが胸を刺されたことにより自らも胸を負傷していた。
これはどういう傷を負ったのだろうか。
剣に貫かれた傷だと北斗がエースだとばれることになる。
外傷がそのまま北斗に移った例もあるが(サボテンダー)、胸を貫かれれば北斗は流石に死んでしまうので外傷自体は大したものではないと考えるべきだろう。
外傷のショックで心臓の機能が低下したというとこだろうか。
あの奇跡的な回復力はエースのおかげなのは言うまでもない。

シルバーシャークは凄い威力だが1発しか撃てなかった。
これは相当エネルギーを食う代物ではないのか。
以後ほとんど登場しないことからもエネルギーの入手が難しいか、よほど高価かいずれかと考えられる。
エネルギーの充填にもかなり時間が掛かるのかもしれない。

感想(本音)

正統派なヒーロー物の話。
強い敵、迎え撃つTACと北斗。
田口氏らしい骨太な作品である。
そして何事も諦めずに挫けない。
それはセブンからエースへのメッセージであり、エースからダンへのメッセージでもある。
加えて人を頼らず強く生きて行こうとする香代子。
ヒーロー物の王道を行きながら、ドラマツルギー、テーマ主義も結実している非常に良く出来た作品である。
個人的にも評価の高い作品である(つまりお気に入り)。

以下チェックポイントを。
エースの逆立ちについては久しぶりに見たときは馬鹿馬鹿しく思ったのだが、じっくり見てるとこれが非常に重要であることがわかる。
この話のテーマは前述のように何事も諦めず挫けないこと。
如何にも教育的なメッセージであるが、最近そういう基本的なことがおろそかになっている気がする。
我ながらこの歳になってそういう精神の大事さを思い出させてもらった。
加えてあの逆立ちで重い話が一気に明るくなるという効果もあり、演出面でも重要であった。

個人的に印象に残ったのが鉄道の間で三郎を追跡するシーン。
子供の頃見た記憶が残っているほど印象深いシーンである。
山際さんはエレドータスのときも鉄道を使っており、こういうシーンは得意なのであろう。
絵的に面白かった。
今回も変身は「ウルトラタッチ」。
またダンは北斗を「北斗さん」と呼んでいる。
この辺りは監督の意向なのだろう。
しかし田口氏はダンを使うのが上手い。
この辺り子供向けをやりたかったと言っているだけはある。
他の脚本家は子供を使うのがイマイチ上手くなかった。

ファイヤー星人はナマハゲほどではないがなかなかテンションが高くていい味を出している。
あの顔で「ファイヤーッ、モーンス」はかなりインパクトがあった。
そしてファイヤーモンスがやられた時の悲しそうな顔はモンスに生物兵器以上の愛情を注いでいるのが感じられる。
エースを倒した後休ませたり、モンスが子供の頃からペット同然にかわいがっていたのだろう。

ダンと香代子は寂しいからって簡単に騙されすぎ。
ファイヤー星人は2人の母親のことまで調べて2人を安心させたのだろうか。
しかし北斗にそのことを教えられたダンは「嘘だ!」。
さっきまであれだけ心配してたのに、病人に向かってその言い方はきつくないか。
よほどショックだったのだろうが。

炎の剣という発想は如何にも子供の嗜虐心を刺激するもので、田口氏が子供のニーズを捉えるのが上手いのがよくわかる(学習誌と提携して調べていたのだが)。
ブロンズ像には敵わないが、あの手この手で敵の武器を考える田口氏は子供にとってはありがたい脚本家だ。
カラータイマーが途切れ途切れになる演出はなかなかショッキング。
止まれば初代マンの二の舞だったが、セブンの励ましで復活。
やや根性主義的でもあるが、病は気からで精神が肉体に及ぼす影響というのは科学的にも認められており根性主義とは違うであろう。

30分に3回もの戦闘シーン。
そのためダン姉弟の話は駆け足気味だが、それでもしっかりと展開されており内容はてんこ盛りである。
本当は45分くらいでやった方がいいのだが、これを纏め上げた脚本、監督の仕事は賞賛に値するだろう。
惜しむらくはこれがシリーズ前半のエースキラーやヒッポリトの後に来た点。
流石にあそこまで凄いのを見せられると、インパクトが小さくなるのは致し方ない。
この話自体の出来の良さとは裏腹にあまり評判に上がらないのはその辺りにも起因すると思われる。

しかし普通にヒーロー物としても面白く、バランスを失しない程度のドラマ性といい田口氏がいよいよ本物になっていくのがわかる作品である。
ドラマに偏った中期の脚本家(長坂氏等)とは裏腹に第2期後期を支えた石堂氏、田口氏の手になる38,39話。
それぞれの持ち味を発揮した良作であるとともにウルトラが、金城・佐々木、上原・市川から田口・石堂へと世代交代していくのがよくわかる作品である。
田口氏がいなければタロウもレオもなかった可能性もあるので、個人的にはもう少し氏の功績を評価すべきだと考えている。


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