宝石は怪獣の餌だ!


データ

脚本は田口成光。
監督は筧正典。

ストーリー

光太郎はさおりの誕生日前日に、エジプトのおばあさんから貰ったという宝石をプレゼントする。
光太郎はおばあさんからこの宝石を東洋に持っていって欲しいと頼まれたという。
宝石には古文書がついていたが、何が書いてあるかはわからなかった。
「素敵なお守りだわ」とさおり。
健一は友達の分もと、小さな宝石を2つ貰う。
そして健一は宝石の一つを犬のポチの首飾りに。
その夜ポチが異常に吠えるのを聞き庭を見るさおり。
すると窓枠に巨大なナメクジがいた。
ほうきでナメクジを追い払うさおり。
ポチはナメクジに向かって吠えるが、ナメクジが吐き出した酸を浴び消滅してしまう。
さらにナメクジは壁を溶かし、健一の部屋に忍び込む。
そしてゴミ箱を溶かすと床に置いてある宝石を食べてしまった。
翌朝健一は宝石がないと大騒ぎする。
ゴミ箱が溶けているのに気付いた光太郎。
さらに光太郎は壁に穴が開いているのに気付き庭に出て調べる。
するとポチが首輪だけ残して姿を消していた。
光太郎は文書をZATのコンピュータに掛け翻訳する。
文書は古代エジプト語で書かれておりそれによると「この石は幸運を運ぶ石だったが、ジレンマが現れてからは悪魔の石になった。ジレンマは満月の夜に現れ、石を食べ成長し、光を…、巨大化し町を焼く」とのことだった。
伝説といえど馬鹿に出来ないと荒垣。
隊長も同意し、カレーを食べてない者に白鳥家の調査を命ずる。
白鳥家の庭を調べるZATは、溶けてボロボロになった雨樋を持ち帰ろうとする。
しかし雨樋は触っただけで崩れてしまった。
ペンダントを調査のため持ち帰ろうと、さおりにそれを貸してくれるよう頼む北島。
しかしさおりはそれを拒んだ。
「これはお守りです。私伝説なんて信じません。第一エジプトにいるジレンマがどうやって日本にやって来るのですか」とさおり。
東が頼んでも「私このペンダントがそういうものでないことを証明して見せます」とさおりはペンダントを渡さない。
結局荒垣は光太郎にさおりの警護を命じ、基地に引き上げた。
光太郎が家の前で待機していると、庭からさおりの叫び声が聞こえた。
光太郎が駆けつけると、そこには巨大なナメクジが。
光太郎がZATレーザーでナメクジを攻撃すると、ナメクジは巨大化してしまう。
街を破壊し始めるジレンマ。
さおりを連れて避難する光太郎。
ジレンマは逃げる2人を追いかけてビルまで迫ってきた。
ビルの地下に逃げ込む2人。
しかしビルはジレンマによって破壊され怪獣は地下に迫る。
光太郎はさおりにペンダントを捨てるように言う。
「これは私の誕生日の贈り物よ」とさおり。
伝説によると怪獣は宝石を狙ってやって来たと光太郎。
しかしさおりは「これは私を守ってくれるお守りよ」といって捨てようとしない。
遂にジレンマは地下にまで舌を伸ばしてきた。
ジレンマの舌に絡め取られる光太郎。
そこへホエールとコンドルが飛んできた。
攻撃の隙にビルを脱出する2人。
ナパーム攻撃を仕掛けるZAT。
しかしジレンマにはナパームも通用しない。
光太郎はさおりに今度こそペンダントを捨てるように説得する。
しかしさおりはそれを聞かず、ペンダントがお守りであることを証明すると言って怪獣の方に近づいて行った。
光太郎は怪獣に近づくさおりを引きとめ、さおりを平手打ちした。
さおりは「これが伝説通りのエジプトの石なら、光太郎さんはZATからも皆からも悪者扱いされてしまうわ。私の方からジレンマに近づいたのなら、私が死んでも生きてもあなたに迷惑は掛からないと思ったの」とその真意を説明する。
「ありがとう、さおりさん。でも俺は自分のまいた種は自分で刈るんだ」と光太郎。
ペンダントを受け取る光太郎。
そこへ瓦礫が崩れ下敷きになる2人。
その時光太郎の腕のバッジが輝いた。
タロウに変身してさおりを助けるタロウ。
タロウはジレンマの消化液を浴び苦悶する。
そこへホエールがやって来てスーパーアルカリ液をタロウに吹きかけた。
ジレンマの酸は中和されタロウは復活する。
タロウはジレンマを放り投げるとストリウム光線でジレンマに止めを刺した。
大破するジレンマ。
さおりは脚を怪我したが、松葉杖がなくても歩けるくらい回復する。
全快祝いとしてエジプトの宝石をプレゼントする光太郎。
さらに健一にはポチという子犬をプレゼントした。
ポチを抱えて喜ぶ健一。

解説(建前)

ジレンマはどうやって日本に来たのか。
見たところジレンマには飛行能力は備わっておらず、動きもかなり緩慢である。
やはり自力で日本に来たとは考えられないだろう。
それでは宝石を追って、日本行きの船舶か航空機に紛れてやって来たのだろうか。
しかしジレンマが宝石の行き先を知ってるとは考え辛いし、日本行きの船舶等をチョイスするのも難しいであろう。
また同じ船に乗って来たとしても、白鳥家まで追いかけてくるのは難しい。
やはり光太郎の荷物に紛れてやって来たというのが一番可能性高そうである。

すなわちジレンマはまだ小さい時に光太郎の荷物に紛れ込んだ。
ジレンマは成長するまでは酸を出すことも出来ず、宝石を食べることも出来なかったのであろう。
日本に来たジレンマは白鳥家の庭に住み、少しずつ成長していた。
そしてある程度の大きさになったところで、宝石を狙うに至ったのであろう。
このように考えると、ジレンマが何故光太郎のお土産の宝石を真っ先に狙ったのかを素直に説明できる。

ジレンマが巨大化したのは何故か。
これは伝説によると光=レーザーを浴びたのが原因と考えられるが、古代エジプトにレーザーがあったと考えられないことから疑問が生ずる。
それでは古文書に書いてあった光云々とはどういうことなのだろう。
まず考えられるのが太陽光だが、ジレンマは実際太陽光を浴びても変化がなかったので、その可能性は低い。
次に考えられるのが月の光。
しかしこれはジレンマが夜行性というだけで巨大化とはあまり関係あるまい。

難しいが、これはやはり炎の明かりと考えるしかなさそうである。
おそらくジレンマは光というより熱の方に反応するのであろう。
すなわち熱エネルギーを吸収すると巨大化するのである。
ジレンマはナパーム攻撃に耐えたように耐火性は強い。
古代の人はジレンマを倒そうとして火をつけた結果、逆に巨大化を招いたのではないか。
そのような戒めから光云々の伝説を残したのである。

では古代人はジレンマをどうやって倒したか。
ジレンマはタロウでも苦戦する強敵である。
やはりこれはジレンマの自然死を待つしかあるまい。
ジレンマは巨大化すると案外寿命が短いのではないか。
食料となる宝石に限界がある以上、急激な巨大化は自らの命を縮めるのであろう。

では今回現れたジレンマは何物か。
過去に巨大化したジレンマと同一個体とは考えられないので、ジレンマは現在でも少しずつ生息してるようである。
ジレンマ自体は宝石が近くになければそれほど害がないのかもしれない。
おばあさんはそれを慮って宝石を遠ざけたが、光太郎がエジプトを放浪するうちに偶々ジレンマを持ち帰ってしまったのではないか。
エジプトではジレンマが発見されると、その個体が死ぬまで隔離するなどそれなりの対処法があるのであろう。

感想(本音)

かなり凄い話。
とにかくさおりの思い切りの良さには度肝を抜かれる。
自分から近づいて宝石ごと食べられても光太郎の責任にならないという発想は常人では理解できない。
これを子どもじみていると否定していいのか、究極の愛情として評価していいのか。
正直子どもの頃この話を見た印象は、ナメクジが不気味、犬が溶かされるシーンが怖いといったもので、さおりさんの行動についてはあまり印象に残っていない。
低年齢向けと言われるタロウにおいて、この話を持ってくるセンスには驚かされる。

この話を見てまず気になったのは、やはり光太郎が原因でジレンマが巨大化した点だろう。
宝石を持ってきたのも光太郎ならば、ZATレーザーを照射して巨大化させたのも光太郎である。
これは正義の味方としては間が抜けすぎてるのではないか。
ましてこれでさおりが犠牲になってたなら、光太郎に対する非難は相当なものになったであろう。
まあ全て不可抗力ではあるのだが、正義のヒーローが街が破壊される原因を作ってしまうのはさすがにどうかと思う。

この話と似た話に帰ってきたウルトラマン第26話「怪奇!殺人甲虫事件」が挙げられる。
この話の場合もエジプトから持ち帰った口紅が原因でアキがノコギリンに狙われるのだが、口紅自体は郷のプレゼントでも持ち帰ったのは南で、郷本人が原因を作ったわけではない。
またノコギリンについても偶然宇宙から飛来した昆虫であり、ジレンマのように口紅とセットで語られる怪獣ではなかった。
その点郷の落ち度は光太郎の比ではないであろう。
またこの話ではMATがレーザーでノコギリンを巨大化させてしまうことも共通している。
こうして見ると、本エピソードは多分に新マン26話を参考に作られている。

では何故田口氏は新マン26話を参考にこの脚本を書いたのであろうか。
これはやはり新マン26話が郷とアキの恋愛を中心に描いた点にあると思われる。
すなわち田口氏はここでさおりと光太郎の恋愛を描いておきたかったのである。
ここまで光太郎とさおりの恋愛に関する描写はそれとなく散りばめられていたものの、クローズアップはされてこなかった。
第1話ではタロウ誕生を描き、2,3話は母の活躍とタロウ怪獣の面白さ、4,5話は怪獣保護が描かれてきた。
しかしタロウの主要なテーマはそれだけではなかったのである。
この6話という早い段階でこの話を入れてきたところに、恋愛を軸にドラマを展開させようというライターの意志が感じられる。

それでは田口氏は2人の関係をどのように描きたかったのであろうか。
タロウを見てると、2人の関係は典型的なヒーロー光太郎にさおりがついて行くといったイメージが強い。
それは2人の普段の関係からも感じられるのだが、本話では田口氏はそのようには描かなかった。
さおりは光太郎の不始末を庇うために自らの命を犠牲にしても良いと考えたのである。
これは一見すると女が男のために犠牲になるという古典的な関係にも見えなくもない。
しかし原因を作った光太郎がだらしないだけに、さおりが保護者的な立場にいるようにも感じられるのである。

さおりは普段はどちらかというと頼りない。
それはナメクジを怖がる描写にも表れている。
しかし本来さおりは2人姉弟のお姉さんであり、母親のいない白鳥家の母代わりである。
この辺りアキに通ずるところもあるが、アキの場合常に坂田が家にいることからも、さおりの方がしっかりしなければならない環境にいるのは間違いないであろう。

田口氏が描きたかったさおりの性格とは、おそらくそういう女性としての強さ=母性ではないか。
光太郎の失敗はそれを強調するために必要だったのである。
結局、光太郎は自らの力で苦境を乗り切るが、さおりの思いはしっかり届いた。
さおりを守ろうとする光太郎、光太郎を守ろうとするさおり。
そこには男女の対等な関係が存在している。

光太郎にとって母親はかけがえのない存在である。
こう書くとややマザコンじみてしまうが、光太郎がさおりの姿から母の面影を感じ取ったとしても不思議ではないであろう。
そしてそれは2人の恋愛成就のための大きな伏線ともなるのである
結局2人の恋愛については演じるあさかさんの降板により路線変更になってしまった。
しかし新マン、エースと失敗した恋愛の成就がタロウのテーマになっていたとしたら、それはとても興味深い。

2人の関係についてはそれくらいにして、他に気になった点。
ジレンマは前述のようになかなか気持ち悪いルックスである。
そして強力な酸は見ててちょっと怖い。
光太郎やさおりが酸を浴びないか心配になってしまうが、それはお約束なのでスルーしておこう。
しかしタロウが酸を浴びて苦しんでいるところにアルカリを吹きかけるZAT恐るべし。
ZATは胡椒を始め、物資の調達が異常に早い。
様々な装置も持っており、かなり優秀な技術スタッフを擁しているのが推察できよう。

今回もカレーを食べたか否かで調査する隊員を決める隊長。
こういういい加減なことをしているから暫く姿を消したのであろうか(笑)。
まあ単に名古屋さんのスケジュールの都合なのだが、こういうコミカルな組織は見てて楽しくなる。
一方でZATはちゃんと雨樋を分析して前述のアリカリ液を用意しており、調査はTACよりもしっかりやってるようである。
まあZATの場合は怪獣が相手なので、科学が通用するというのもあるのだけど。

新しいポチに無邪気に喜ぶ健一君。
死んだポチがかわいそうだが、さおりの容態から事件からは暫く経っているようなのであまり責めないことにしよう。
あの年頃って案外あんなもんじゃないでしょうか?
部屋の壁が溶けてるのに言われるまで気付かない健一君。
ちょっと近視眼過ぎる気が。
まああの年頃は案外あんなもんだということで(汗)。

宝石を東洋に持っていってくれというおばあさん。
まあ、光太郎にちゃんとエジプト語で事情を説明したのでしょうが、やはり無責任すぎだと思うぞ。
ZATレーザーで巨大化する怪獣。
MATシュートに負けず劣らず怪獣を製造する武器である。
街中にナパームを大量投下するホエール。
派手に家が燃えていたが、住民は避難させてあるんだろうな。
まあ出動までに時間が掛かっていたので避難が終わってから出動したと解釈しよう。

意外と強いジレンマ。
ZATの援護がなかったらタロウは負けていたかも。
しかしウルトラ一族の体は頑丈だ。
光太郎がさおりを平手打ちするシーン。
田口脚本ではお馴染みビンタだが、女性を殴るのは珍しいであろう。
さおりが悪いのは明らかだが、予告の4連発もあり少しギョッとするシーンである。
ジレンマの舌に絡め取られる光太郎。
さおりの前だからバッジが輝かなかったのであろうか。

さおりの行動にイマイチ納得できない本話。
ただその動機の深さはある意味究極ともいえるであろう。
大人になった今ならある程度は理解できる。
とは言え、この話を子どもに理解せよと言うのはやや難しいかもしれない。
その辺りタロウという作品からは少し逸脱しているであろう。
全体的にはさおりさん役のあさかさんの演技がまだまだ未熟なこともあり、もう一歩消化不良な印象が残るエピソードである。


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