データ 脚本は阿井文瓶。 監督は深澤清澄。 ストーリー 八幡神社のお祭りに賑わう街。 健一は一緒に下校中の竹雄を祭りに誘うが、竹雄は家に帰って勉強すると言ってそれを断る。 「僕は東大に行って、お父さんのように会社の社長になるんだ」と竹雄。 2人は小学生が中学生の集団にいじめられてる現場に出くわす。 「下を向いて通るんだぜ。目が合うと因縁をつけてくるからな」と竹雄。 目を合わさないようにこっそり脇を通り過ぎる二人。 その時中学生の一人が小学生からタロウのお面を奪い投げ捨てた。 健一の目の前に落ちるお面。 それを拾い上げる健一。 「健ちゃん、帰ろう」と竹雄。 しかし健一は中学生を睨み付けると 「弱いものいじめはやめろ」と一喝する。 中学生に囲まれる二人。 「僕は関係ない。ただ一緒に歩いてただけだからね」と竹雄。 しかし健一は一人で中学生3人に掴みかかる。 健一は奮闘するも多勢に無勢で中学生に組み伏せられてしまう。 「ちぇっ。忠告したのに。無茶するからだ」。 傍観する竹雄。 そこへ紙芝居屋のおじさんが通りがかった。 「こら。何をしてるんだ」。 怒鳴りつける紙芝居屋。 逃げ出す中学生たち。 「父ちゃん」と竹雄。 紙芝居屋は竹雄の父だった。 「竹雄。友達がやられてるのに、なぜ黙って見ているんだ」。 「父ちゃんは僕に喧嘩をしろって言うのかい?そんなこと教えたら、先生に怒られるぜ。第一相手は中学生じゃないか。やったって負けるに決まってるよ」。 そこへパトロール中の光太郎がやってきた。 「どうしたんだ、健一くん」。 「転んじゃった」と笑う健一。 心配する北島に、「大丈夫だよこのくらい」と健一。 お面を拾い上げ小学生に返す健一。 「あのお面を見なければ卑怯者になるところだった」。 呟く健一。 「それより光太郎さん、なんでここに来たの」。 パトロールの途中と言う光太郎に竹雄の父は、この辺に怪しい気配でもあるのかと心配する。 「この先の八幡さまは今日お祭りなもんですからね」と竹雄の父。 「子供の集まってるところで怪獣に出られちゃ困りますからね」と北島。 「後で竹雄と一緒に八幡さまにおいでよ。あそこでおじさん、紙芝居をやってるからね」と竹雄の父。 「紙芝居」と驚く健一。 「紙芝居、僕大好き。きっと行きます」と健一。 自分で話を作って自分で絵を描いていると竹雄の父。 「夢のあるいいお仕事ですね」と北島。 「父ちゃんが会社の社長だって嘘ついたこと笑っているんだろ」と竹雄。 「紙芝居屋だって立派な仕事だよ」と健一。 「君が自分勝手にウルトラマンを気取って無茶な喧嘩をするからこうなるんだ。大体僕は怪獣と喧嘩ばかりしてるタロウなんて大嫌いだ」と竹雄。 「僕が謝るから、機嫌直して八幡さまに行こうよ」と健一。 子供たちを集めて大ムカデの紙芝居を演じる竹雄の父。 紙芝居屋がかっこ悪いと嫌がる竹雄。 健一に連れられ紙芝居を見る竹雄。 ムカデがあざ笑う様子を実演する竹雄の父。 笑う子供たち。 しかし竹雄は「ムカデが笑ったりするわけないじゃないか。第一こんな大きなムカデいるもんか」とケチをつける。 それでもムカデの笑いを演じ続ける竹雄の父。 すると急に黒雲が広がり辺りは真っ暗になった。 狛犬の目が光る。 すぐ晴れ間が戻り、紙芝居を続ける竹雄の父。 しかし急に山が崩れたかと思うと、巨大なムカデのような怪獣が出現した。 「父ちゃんが怪獣を引き付けてくる。その間に小さい子供を連れて逃げろ」と竹雄の父。 父が心配で後を追う竹雄。 神社からお守りの槍を取ると怪獣に向かう竹雄の父。 「父ちゃん、やめろ、勝てっこないよ」と呼びかける竹雄。 子供たちを逃がした健一は竹雄にも逃げるように呼びかける。 しかし「父ちゃんをほっとけないよ」と竹雄は逃げようとしない。 そこへ到着した光太郎と北島。 怪獣を攻撃する光太郎。 しかし竹雄の父は怪獣の吐く糸に全身を包まれ動けなくなる。 さらに怪獣の吐く炎でやけどする父。 光太郎は健一、竹雄と一緒に竹雄の父を抱えて木の陰に移動する。 神社の本殿を破壊する怪獣。 「竹雄、よく聞くんだぞ。男には自分の損になるとわかっていても、人のために働かなきゃならん時ってもんがあるんだよ。そんな時に決して逃げないのが本当の男なんだ。わかるか?」 「わかんないよ。人の役に立ったって、自分が死んじゃうんじゃ仕方がないじゃないか」と竹雄。 北島に背負われ病院へ運ばれる竹雄の父。 「竹雄くん。君も病院へついていきなさい」と光太郎。 しかし怪獣がやられるのを見てるんだと竹雄はその場に残る。 コンドルとホエールで攻撃するZAT。 首つり作戦を決行するZAT。 紐で怪獣の首を絞めたまではよかったが、怪獣は自らの首を切断し紐から抜けてしまった。 再び首をくっつける怪獣。 怪獣の鞭状の手で叩きつけられて墜落するホエールとコンドル。 パラシュートで宙を舞う新垣と南原に近づいてくる怪獣。 それを見た光太郎は自ら怪獣を引き付けようと攻撃する。 すると健一と竹雄も光太郎の方へやってきた。 怪獣の吐く炎で倒れる竹雄。 竹雄を抱えて避難する光太郎。 そこへ隊員たちも合流。 街へ進撃する怪獣。 「虫は触角がダメになれば進めなくなります」と光太郎。 怪獣の前方へ回って攻撃しようとする光太郎。 塔に上って攻撃する光太郎。 しかし怪獣の吐く糸に絡め捕られてしまう。 光太郎を助けるためスプレー銃を持ち出すZAT。 しかし怪獣に気づかれずに塔を登るのは至難。 自分なら柱の陰に隠れて登ることができると健一。 仕方なく健一に頼む荒垣。 しかし竹雄は健一から銃を奪うと塔の方へ走りだした。 塔を登る竹雄。 竹雄は光太郎にスプレー銃で泡をかけると糸が溶け光太郎は意識を取り戻す。 しかし怪獣は頭を塔の下に潜らせるとそのまま塔を持ち上げてしまった。 さらに塔を弾き飛ばす怪獣。 投げ出された二人だったが、間一髪で光太郎はタロウに変身して竹雄を助けた。 タロウは頭部と胴体を二つに分けたムカデンダーに苦戦する。 しかしタロウが頭部を宙に投げるとそれを追ってムカデンターの胴体も頭部を追いかけて空を飛んだ。 すかさずストリウム光線を浴びせて頭を破壊するタロウ。 さらに落下する胴体も破壊する。 やけどの包帯を巻いて紙芝居に復帰する竹雄の父。 父を手伝って柏木を叩く竹雄。 竹雄は順番を守らない悪ガキに注意する。 それを聞いて掴みかかる悪ガキ。 組み合う二人。 竹雄は悪ガキを組み伏せる。 「参った」と悪ガキ。 それを見ていた光太郎と南原。 照れくさそうに笑う竹雄。 解説(建前) ムカデンダーは何物か。 ムカデンダーが出現する前、突如空が暗くなり神社の狛犬の目が光った。 ムカデンダーが執拗に神社を破壊していたことからも、やはり大昔に山に封じられたムカデの化け物と考えるのが妥当であろう。 狛犬は言わばムカデンダーの監視役のような役割を負っており、封印が解けたことを察知し目が光ったのである。 ではなぜ封印が解けたか。 これも竹雄の父が演じたムカデの笑い声のせいなのはほぼ間違いない。 竹雄の父の演じた笑い声にはある周波の音波が含まれており、それがムカデンダーに伝わり封印が解除された。 おそらく大昔、霊能力者か何かがムカデンダーを眠らせて山に封印した。 竹雄の父の声にはムカデンダーの安眠を妨げる何かがあったのではないか。 感想(本音) 阿井文瓶氏のウルトラデビュー作でもあり、脚本家としてのデビュー作でもある。 正直話の出来に関しては特別出来がいいというわけではなく、とりわけ作家の個性が出ているというわけでもない。 デビュー作らしく、タロウらしいオーソドックスな話といったところだろうか。 そういうタロウテンプレ的な話であるためアンチには「僕にもウルトラマンタロウの脚本は書ける」的に馬鹿にされることもあるのだが、子供番組的にはドラマは割としっかり書けているので、誰にでも書けるというレベルではない。 プロットなら思いつくという程度のことであろう。 本話のテーマは父子の情愛と子供の成長。 ただ、このパターンは確かに定番すぎて何番煎じかすらわからないという面は否めない。 その辺り同じテーマを描くにしてももう少し捻りは欲しかったというのは正直なところだ。 また、2期ウルトラにおける片親率の高さも気になり、当時ってそんなに片親の家庭って多かったのかなと疑問に思う。 この辺りは当時を知らないと何とも言えないが、現代の視点からは古さは否めないだろう。 またタロウ世界ではお馴染みの槍で怪獣と戦う一般人。 これも今となってはやはり違和感はある。 そして親の復讐のため怪獣に立ち向かう少年。 これに関しても普通に考えたら頭がおかしいとしか言えないであろう。 ただ、その点を捉えて子供だましだとか、理不尽だとか批判するのもまた筋が悪い。 タロウはそもそもそういうコンセプトで作られてる話なのである。 奇しくも本話は人間が大ムカデを倒すという民間伝承をテーマにしているが、ヤマタノオロチの神話に代表されるようにこの手の話は昔から普通にあったのである。 鬼を倒す桃太郎しかり。 そもそも大怪獣が暴れまわる世界。 人間がある程度戦えてもそこまで理不尽とは言えまい。 もちろん神話とドラマは別物ではあるが、この辺りはあくまで精神の具現化というドラマ的な演出なので、それに目くじらを立てていては特撮ヒーローものなんて真面目に見ることは不可能であろう。 とはいえ、ドラマ的な問題点はやはり竹雄があっさりと強い子になってしまうところだろうか。 時間の制約があるから仕方ないとはいえ、竹雄が父親の命がけのメッセージに覚醒して危険を冒して光太郎を助ける件はやはり急な感じは否めなかった。 父一人子一人の絆の強さというのはわかるし、竹雄が何だかんだ捻くれてても父親が大好きなのは見ててわかるのだが、描き方が拙速すぎるとやはり感動も今一つになるのは仕方ないであろう。 同じ子供の覚醒を描いた帰ってきたウルトラマン「故郷地球を去る」と比較すれば、その深みの違いというのは感じざるを得ない。 その辺りも含めて、良くも悪くもタロウテンプレ話といったところか。 その他気になった点。 タロウのお面を見て気合が入る健一君は当時の視聴者である子供の代表という感じ。 この辺りは子供番組の王道でよろし。 健一君は放送中に声変わりするなど体も大きくなっているので、中学生相手にもそれほど引けを取らなかった。 竹雄役は二期ウルトラでお馴染み高橋仁くん。 西脇くんと並んで子供ゲスト双璧だが、高橋君の方がより演技力を要求される重要な役が多い。 エースでは超獣役から始まり、タロウ、レオでは結構ヘタレな子供役が増えていった。 一癖のある役をこなせる子役として重宝されていたのであろう。 竹雄の父親はご存じ江戸屋猫八。 演技の方はもう一つという感じもしたが、紙芝居の場面はさすがにうまかった。 特にムカデンダーの封印を解いてしまう笑い声のシーンは物語の重要なキーとなっており、展開に説得力を持たせるのに成功している。 竹雄は父を社長と嘘をついたが、ある意味紙芝居屋は個人事業主であり社長といえなくもないのでは? まあ、従業員ゼロでは無理か。 しかし、竹雄の父親は紙芝居だけで生計を立てられているのか? 子供に駄菓子を売るにしても限界があると思うのだが、昔の紙芝居屋ってどれくらい儲かったのだろう。 まあ、儲からないから減ったのであろうが。 話は変わるが、当時のウルトラに出てくる大人、特に親世代は戦中派が多いはず。 怪獣と戦うのは戦争を経験した軍人にとってはそれほどハードルが高いことではないのかもしれない。 竹雄の父は子供たちを守るために自ら犠牲になろうとした。 今の基準で馬鹿にはできないものがそこにはあるのではないか。 今回はさおりさんの登場はワンシーンのみ。 しかも何故か森山隊員と一緒に車に乗ってきて思わず笑ってしまった。 いくら身内でも一般人を危険なところに連れてきてはダメでしょ。 いくら出番がないからって(笑)。 ムカデンダーは伝説の大ムカデがモデルというわかりやすい怪獣。 ただムカデの生態的な特徴を生かして頭がもげても死なずに胴体と別行動というのは新しかった。 ZATの首つり作戦(凄いネーミング)は珍しく成功したかと思いきや、ムカデンダーの思わぬ体質のため失敗。 しかしさおりさんを連れて来たり、健一君に危険な任務を負わせたり、この辺りはいくらなんでも無茶。 どうせ竹雄がやるのなら、森山隊員から銃を奪う展開でよかったのではないか。 こういうのは子供に迎合すぎる気もするが、考えてみればザラブ星人からハヤタを助けたのも星野少年だったし、ある意味伝統かもしれない。 今回の変身シーンはさすがにバレバレでは? この辺りは例によって竹雄が気を失っていたとでも解釈するしかあるまい。 でもZAT隊員は確実に光太郎が死んだと思っただろうな。 本話のテーマは前述したように父子の絆と子供の成長。 如何にもウルトラマンタロウらしいテーマだ。 竹雄は父親の苦労を見て育ったせいか、自分はああはならないと勉強熱心で理屈っぽい子供。 父親が会社社長だと嘘をついたように、健一の父親が船長というのに憧れを持っている。 また、他人のために頑張って自分が傷つくのは馬鹿らしいと思っている。 どういう生活をしていてそういう現実主義的な子供になったのかはわからないが、これもおそらくお人よしの父親を見てのものだろう。 ただ、描かれてはいないが、昔からそういう子供だったかというと、それも違うのではなかろうか。 やはり竹雄も小さいころは父親が大好きで紙芝居も大好きだったのであろう。 そして父の紙芝居には自分が損をしてでも他人を助ける勇気というものが描かれていた。 健一がタロウのお面を見て勇気を取り戻したように、怪獣と戦う父を見て勇気を取り戻す竹雄。 脚本家デビュー作ということもあり、その辺りがしっかり描けていたかは疑問もあるが、テーマとしてはまさにタロウの王道とでもいうべきものであろう。 そしてそのメッセージが当時の視聴者である現代っ子たち(当時その呼び名があったかはわからないが)に向けられていたのは間違いあるまい。 |