データ 脚本は田口成光。 監督は山際永三。 ストーリー 怪獣ムルロアの吐き出す黒煙は全地球を覆いつくした。 東京では電力の使用制限令が出され、食料品のみならず水道の水さえ不足する事態に陥った。 光太郎が行方不明のまま、対策を検討するZAT。 そこへ村石岬の灯台に蛾が群がってると連絡が入る。 出動するZAT。 灯台に着陸した隊員たちは群がる蛾と格闘する。 灯台守に灯台の灯を消すように指示する北村。 しかし灯台守は船の安全のために灯を消すことはできないとそれを拒否した。 そこへムルロアが現れる。 蛾に纏わりつかれて苦戦する隊員たち。 蛾に襲われた上野はバランスを崩して灯台から転落してしまう。 暴れるムルロア。 ムルロアは溶解液で灯台を破壊し、そのまま姿を消した。 基地に戻ったZATはフランスの航空宇宙局の目撃者によるスケッチから、灯台に出た蛾が宇宙蛾であると断定する。 宇宙蛾と行動をともにすることから、怪獣も宇宙から来たものと推定する北村。 「やはりトロン爆弾の実験でムルロア星の生物が突然変異を起こしたんでしょうか」と上野。 「怪獣は本能的に光を嫌って発光するものを次々に破壊してしまうんだ。そして発光するものを見つけて怪獣を誘導するのは蛾の役目なんじゃないかな」と北村。 「大変だ。じゃあ、光のあるところが襲われるぞ」と上野。 「心配するな。全世界に向けて、光は全て消すように指示を出した」と荒垣。 問題はどうやってあの怪獣を倒すかという北村に対して、上野はAZ1974を使うよう提案する。 AZ1974は水爆の3倍の威力があるが、まだ発射装置も起爆装置も完成していない。 しかし上野は時限爆弾を使って誘爆させればいいと反論する。 「我々はこの地球に再び朝を呼び戻さねばなりません。このまま厚い雲に覆われた地球は異常な高温となり人類は死滅するかもしれません。そのピンチを救うにはまず、あの怪獣を倒すことです」と上野。 僕にやらせてくださいという上野。 しかし荒垣は「まだAZ1974を使うときではない」と申し出を却下する。 負傷した腕の傷を病院で見てもらって来いと荒垣。 その頃両親を失った岩森家では、水道が出なくて飲み水にさえ困っていた。 冷蔵庫にあった最後のお茶を分けるよう支持する一郎。 しかし、お茶を取り出した四郎が転んでお茶が半分こぼれてしまう。 残ったお茶を皆で分け合う岩森兄弟。 長男の一郎は白鳥家の井戸から水を貰ってくるという。 その頃タロウは愛犬ラビドッグに迎えられウルトラの国へ到着していた。 ゾフィからウルトラタワーで待つとサインが出る。 再会を喜び合うタロウと兄弟たち。 ウルトラの国の歴史を皆に語るゾフィ。 今から3万年前、太陽が爆発し、ウルトラの国は暗黒に閉ざされ多くの人々が死んでしまった。 その後ウルトラの長老を中心とする研究団によって人口太陽プラズマスパークが作られウルトラの国は明るい光を取り戻し、再び平和が蘇った。 そのウルトラの国が怪獣軍団を支配するエンペラ星人に襲われた。 ウルトラの父は大活躍して傷ついたが命は助かりウルトラの母に出会ったのである。 かくしてウルトラ警備隊が創設され、解放の戦いを記念してウルトラタワーが建てられた。 その命の炎と呼ばれる炎の中心に宇宙のあらゆる平和を作り出すといわれるウルトラベルが納められた。 今我々は6兄弟の第二の故郷、地球を救うためにウルトラベルを手に入れなければならない。 ベルは兄弟の気持ちが一つに合わさったとき、手に入れることが出来るのだ。 「ウルトラオーバーラッピング。ウルトラシックスインワン」。 ウルトラ6重合体により、高い密度の体を作り出す兄弟たち。 灼熱のウルトラの炎を通り抜けるには高い密度の体が必要であった。 ウルトラベルは兄弟たちの気持ちが純粋なものであることを感じ取った。 だが、ウルトラタワーの中には6人の命を集めてもわずか一分しかいられなかった。 ウルトラベルを持って地球へ急ぐ兄弟たち。 白鳥家で水を貰う一郎。 健一と一緒に岩森家に戻る一郎。 道路にはZATの命令を無視してライトを点けたトラックが。 トラックはどこからか水を持ってきて売っているという。 「皆が困ってるときにお金儲けしようなんて、酷い人だ」と一郎。 そこへさっきのトラックが迫ってきた。 蛾にまとわりつかれ視界を失う運転手。 運転手は操縦を誤り、一郎をはねてしまう。 ZAT中央病院へ運ばれる一郎。 心配する兄弟たち。 電気がないので手術もできないと医者。 「僕たちの血でも何でも使ってください。お兄ちゃんを助けてください」と兄弟たち。 困惑する医者。 そこへ上野が通りがかる。 「早く電気が来るようにしてください」と健一。 事情を聞いた上野。 「ZATも全力で怪獣の行方を追ってるんですけど」と上野。 上野は健一からトラックにも蛾がまとわりついていたと聞く。 一方コンビナート近辺をパトロール中の南原は明かりを煌々と点けた工場を発見する。 宇宙蛾を発見した南原は明かりを消すように言うが、 「突貫工事で工場再建を図らなければ、他の企業に先を越されちまうんだ」と社長。 「アニマルだよ、アニマルになって頑張らないと、日本は駄目になってしまうんだ」と社長。 その時ムルロアが姿を現した。 出動するZAT。 AZ1974を怪獣にセットして時限爆弾で爆発させると上野。 「僕ならそれができます」と上野。 「自信があるんだな」と荒垣。 「ホエールに積み込んである」と荒垣。 ホエールで怪獣に近づくZAT。 AZ1974を準備するZAT。 「しっかりやれよ。いいか、ちゃんと命だけは持って逃げるんだぞ」と荒垣。 AZ1974を持って怪獣に飛び移る上野。 ムルロアに爆弾をセットする。 その頃地球へ到着したウルトラ兄弟たちは、ウルトラベルの鐘をならし始めた。 ベルの音とともに黒煙が晴れていく地球。 光を憎む宇宙怪獣ムルロアは死に物狂いで暴れ始める。 後3分で爆破しますと上野。 パラシュートで飛び降りる上野。 しかしパラシュートが怪獣に引っかかり脱出できない。 あと30秒で爆発するというその時、タロウが現れた。 タロウはムルロアと格闘し、最後はムルロアを宙へ放り投げた。 大破するムルロア。 ウルトラ兄弟を見送って地球へ戻るタロウ。 パトロールする光太郎は岩森兄弟に遭遇する。 一郎の怪我も治り元気に登校する兄弟たち。 解説(建前) ムルロアは何故光を嫌うのか。 これは元々光が嫌いだったというのもあるだろうが、やはり爆発の影響であろう。 すなわち、光自体があの爆発を思い出せるため復讐の対象となっていた。 そのため光るものを片っ端から破壊したのである。 では、スペースモスは何故光を好むのであろうか。 スペースモスも爆発に巻き込まれたならムルロア同様に光を憎んでも不思議はない。 ただ、スペースモスは蛾であることから、そこまで知能は発達していないのであろう。 爆発に巻き込まれても本来の習性である光に群がる性質は変わらなかった。 そのため結果的に怪獣を光のあるところに誘導する役割を担ったのである。 電力使用制限例が出されたのは何故か。 世界が黒煙に包まれても火力発電や原子力発電に影響はないと思われるので問題となる。 これはやはり資源の備蓄が足りなくなるのを憂慮しての事前の策であろう。 一日中暗闇ということはそれだけ電灯など、電力の使用が多くなる。 また冬になれば当然暖房のためエネルギーが必要となる。 緊急事態だけに、とりあえず一時的な対策として電力の使用を制限したのであろう。 ただ病院の電力まで足りなくなる事態になったのはいただけない。 この辺りは今と違ってスムーズに輪番停電ができず、結果的に水が不足するなどの混乱も生じたものと思われる。 両親をなくした岩森家の子どもたちはその後どうなったか。 普通に考えれば保護者がいないと施設に入らないといけない。 ただ、彼らは6人兄弟でもあり、長男はもうすぐ中学生とそれなりにしっかりしている。 親戚が移り住んできたとも考えられるが、結局は近所の人や施設の人が訪れることでそのまま元の家に暮らしたのだろう。 それが現在の日本の法体系で可能かはともかく、この世界では可能であったと解釈すれば特に問題はない。 金銭面に関しては貯金や生命保険、親戚の仕送りなど最低限のものはあったのだと思われる。 もちろん、6人も兄弟がいればそれも限界があろうが。 その辺りは行政の助けが必要となるだろう。 感想(本音) 小学館の雑誌などでは既に設定されていたウルトラの国について初めて語られるという点で歴史的な回である。 私は第三次ブームのときにこの話を見たので内山まもる氏の漫画に違和感はなかったが、昔のメディア展開を知らない今の人が見たらおそらく違和感を覚えるだろう。 それはともかく、当時の子どもたちにとってこの漫画を使ってのウルトラの歴史紹介はとても印象に残った。 何か男塾の敵キャラのような顔のわからない長老など、その印象はプラズマスパークとともに今でも残っているほどである。 バードン編で死んだはずのゾフィがさり気なく復活してるのも子どもとしては嬉しい。 というか、これくらいのお約束は当時の子どもたちにはお馴染み。 ウルトラは死んでも生き返るというのは既に定番であったし。 とにかく戦闘面では散々の実績を誇るゾフィではあるが、兄弟たちにウルトラの歴史を語るシーンはなかなか名シーンである。 もちろん兄弟たちも既に知ってる話なのだろうが、大きな身振り手振りで兄弟たちを鼓舞する姿は久々に隊長らしい威厳を感じさせた。 ゾフィの語るところによると、ウルトラ一族は元々は普通の人間であったようだ。 人口太陽プラズマスパークの設定は我々後追い世代にはお馴染みだが、リアルタイムで見てた人たちには相当なインパクトであったろう。 思うにプラズマスパークは自然の太陽に比べ特殊な成分がより多く発せられたのだろう。 だから、兄弟たちはウルトラの星では常に変身状態でいられるのである。 地球ではその成分がウルトラの星に比べて少ないため3分程度しか変身状態でいられない。 普段は人間の姿であるのも体力を温存するとともに、その特殊な成分を体に蓄積しているのであろう。 エンペラ星人は何者か。 突然解釈のようになったが、エンペラ星人は本編でチラッと紹介されただけなので正直よくわからない。 後にメビウスにも出てくるが、一人で怪獣軍団を率いるなど謎の多い人物である。 あるいは、元はウルトラ族で長老との争いに破れ復讐を誓ったなどの裏設定も考えられなくはないが、いずれにせよ皇帝=エンペラーを名乗るだけあってウルトラの国を脅かす力のある人物なのは間違いないであろう。 昭和のシリーズには出なかったが、昭和のウルトラはあくまで地球人が主役なので賢明な判断である。 ウルトラベルを取りにいくシーンはかなり幻想的。 しかもウルトラ六重合体はかっこよすぎる。 このウルトラベルの性質はよくわからないが、地球を危機から救える能力があるのは凄い。 今回は偶々黒煙を吹き飛ばしたが、もっと他にも神秘的な力を秘めているものと思われる。 ウルトラキーと並んで、ウルトラの星の最重要アイテムなのは間違いないであろう。 いずれにせよ、ウルトラ兄弟でもどうしようもないレベルの黒煙を除去できるのは、ヤマトのコスモクリーナー並に凄いアイテムだと思う。 地球が核の冬状態となり、電力の使用が制限されるというのは今回の震災を思い出させる。 しかし病院まで電気が使えないとか、水もないとか、ちょっと行政側に問題が多すぎないか。 ムルロアが光を嫌うからという理由でZATが全世界に光の使用を控えるように要請するのも話が大きすぎ。 もちろんZATの命令ではなく助言みたいなものであろうが、帰ってきたウルトラマンのプリズ魔の回ではスタジアムだけ明るくして怪獣を誘き寄せたので、ちょっと策がなさすぎであろう。 まあ、その展開だと被ってしまうので仕方ない面はあるが。 今回は東がいない分、上野が何故か主役並の大活躍。 上野はちょっとジャニーズ系でかわいい感じなので人気もありそうだが、その辺りが見込まれて東の穴埋め的に活躍したのであろう。 しかし、毎度毎度行方不明になる東についてはZAT内でも黙認状態なのか? バードン編ではウルトラの母に助けられたと無茶なこと言ってたが、今回は何も問題なく上野と一緒にパトロールしており帰還の場面すらなし(笑)。 もうお約束を描くのは面倒なのであろうか(笑)。 上野の活躍も目立ったが、荒垣の指揮官としての活躍も今回は描かれていた。 正直腕を怪我してる人間に与える任務ではないが、身体能力では恐らく東と上野が双璧なのだろう。 その東がいないのだから、上野にその役割を与えるのは当然の帰結だ。 地球の平和のために上野に命がけの任務を与える荒垣。 しかし、「命だけは持って逃げるんだぞ」と上野の体を慮る荒垣。 こういうちょっとしたセリフの中にも荒垣の人間味が溢れてて良いシーンである。 この大事に今回も隊長の出番はなし。 というか、長らく隊長は戦いの指揮を執っていない。 この辺り結局理由は語られずじまいだったが、解釈としては病気で休養くらいしか考えにくいだろう。 隊長はかつての長官のように戦闘に出ないという考え方もあろうが、現実にはホエールで出撃などしているので、現場にいないというのはやはり無理があるからである。 無理に理由を作れば、人手が足りなくなった他の部署の救援で暫くZATを離れなくてはならなくなった。 そのために急遽一般人の光太郎をスカウトしたとも解釈できるが、この際理由などどうでもいい。 荒垣がいればチーム的には問題ないので、大したことではないからである 。 今回は水を高値で売る業者が悪人として描かれていた。 しかしこの辺りは正直疑問もある。 水がないというのは人間にとって致命的。 岩森家のように水に困る家も出ているのだから、本来なら行政が水を配るべきである。 それを民間の業者が代行してるに過ぎないのに非難されるのは正直気の毒。 ただし、トラックを運転するにはライトを点けなくてはならない。 この点で行政も給水車を出せないとするなら、一応批判も正当性を有するか。 結果的に宇宙蛾にまとわりつかれ一郎を轢いてしまうのだから、あまり擁護はできない。 今回はその他にも灯台の灯りを必死で守ろうとする灯台守や、自分の工場だけ早く復旧して利益を挙げようとする会社社長など自分のことしか考えられない人間が結構登場していた。 まあ、灯台守は自分というより船の航行を守るという職業的使命で光を点けていたので一緒にしてはいけないが、工場長に関しては「アニマルだよ」というセリフに象徴されるように、当時の日本人のエコノミックアニマル的な状況が重ねられていたのは間違いない。 結果的に工場長だけが犠牲になったのも、そういう金儲け主義に対する批判がこもっていたのであろう。 この辺りは脚本なのか演出なのかわからないが、個人的にはやっぱり山際さんの演出かなと思う。 本話は正直多少の粗は感じられるが、社会批判や文明批判も盛り込みつつ、ウルトラの国を登場させ、ZATの活躍も描くなど娯楽作品としてかなり完成度が高い。 子供向け作品として非常に良質なレベルの作品に仕上がっており、個人的にはかなり評価している一本だ。 客演ものとしても兄弟たちの活躍がしっかり描かれ、いわば噛ませ的な役割になってない点も評価できる。 兄弟の絆というテーマもよく描けているし。 もちろん、初期のウルトラからはかけ離れた内容になっているのも事実である。 その辺りは一期ファンから見れば違和感が大きいのは仕方ない。 しかし、メディア展開と上手くミックスさせ、なおかつウルトラらしさは失っていない本話は、ウルトラの新しい可能性を広げるに十分な嚆矢となったのは間違いないであろう。 個人的にはあまりこの路線を行き過ぎるのは好みではないが、ウルトラのシリーズ展開としては悪くない。 本話はその辺りのバランスが上手く取れており、新しいタイプのイベント編として十分な成功を収めた好例として評価できるであろう。 |