データ 脚本は田口成光。 監督は山際永三。 ストーリー その日、ヨーロッパのある国が人類終末兵器と言われるトロン爆弾の実験を、地球を離れること2億キロメートルのムルロア星で行った。 放射能の被害を恐れたための宇宙実験であった。 しかしその爆発に一匹の怪獣が巻き込まれる。 怒った怪獣は地球に向かって進む。 その頃ZATには、実験に反対するフランスの宇宙船が実験区域外で原因不明の爆発を起こしたとの連絡が入る。 同船が最後に残した通信はスペースモス、すなわち宇宙蛾というものであった。 岩森兄弟と下校していた健一は、買い物袋の中身をぶちまけてしまったさおりに出会う。 買い物袋の中身を拾い集める岩森兄弟たち。 しかしエースと言われる4男の四郎は自分は悪くないと手伝おうとしない。 そこへ通りかかった光太郎。 光太郎は健一から岩森兄弟を紹介される。 岩森兄弟は6人兄弟でウルトラ6兄弟と言われていた。 その夜、岩森家では結婚後初めて2人で旅行に行く両親が、子供たちにそれぞれ言い置きをしていた。 相変わらず反抗的な四郎。 四郎は寝坊を注意され、ふて腐れながら「わかったよ」と言う。 それぞれへの言い置きを録音して出かける岩森夫婦。 しかし2人が乗った旅客機は怪獣ムルロアに襲われ墜落してしまう。 事故の連絡を受け調査に向かう東。 しかし東は怪獣の仕業ではなさそうだと本部に連絡する。 その帰途コンドルのフロントガラスに例のスペースモスが張り付いた。 本部に戻った光太郎はスペースモスの件を報告する。 搭乗者名簿から岩森夫妻の遭難を知る光太郎。 その頃岩森家には興味本位のマスコミが大勢押しかけていた。 両親の言い置いたテープを聞き、兄弟で力を合わせようと長男の一郎。 しかし自分が反抗的な態度を取ったことに罪悪感を感じる四郎は思わず家を飛び出す。 四郎を探す兄弟たち。 心配して駆けつけた健一と光太郎も四郎を探す。 その時、コンビナートに蛾が集まる。 「この蛾だ、コンドルのフロントガラスに止まった奴と同じだぞ」と光太郎。 するとムルロアが姿を現した。 ムルロアは溶解液を吐きだし、コンビナートの建物を溶かしていく。 本部に連絡する光太郎。 光太郎は岩森兄弟を呼び集めて逃げるように言う。 泣いて謝る四郎。 夜が明けてコンドルで攻撃するZAT。 しかし、ムルロアの溶解液で機体を溶かされ脱出する。 さらにホエールもムルロアに破壊され墜落する。 光太郎はタロウに変身し、ホエールを救出。 さらにムルロアを投げ飛ばし、優勢に戦いを進める。 しかしムルロアは突如全身から煙を噴出した。 煙に巻かれ視界を失うタロウ。 さらにムルロアの溶解液を浴び劣勢に陥ってしまう。 叩きのめされ変身を解除するタロウ。 ムルロアはさらに煙を拡散させ、その煙はとうとう地球全体を覆ってしまった。 暗闇に閉ざされる世界。 昼の12時でも真っ暗な街。 両親を失った岩森家はさらなる不安に包まれる。 気を失ったままの光太郎。 そこへウルトラの星から一筋の光が。 「タロウ、起きなさい。起きなさいタロウ。立つのです。この闇に覆われた地球を救えるのはあなただけしかいないのです。地球を闇から解放するための物。それはウルトラの国にあります。あなたたち兄弟、力を合わせ、それを手に入れるのです」。 変身する光太郎。 タロウは光に導かれ遙か300万光年の彼方、ウルトラの国目指して飛んで行った。 ウルトラの国へ辿りつくタロウ。 子供のころからかわいがっていたラビドッグに迎えられるタロウ。 ウルトラの母が瀕死のタロウに教えた物。 それはウルトラの国のどこにあるのか。 タロウは果たしてそれを見つけることができるのだろうか。 解説(建前) ムルロアは何者か。 まずムルロア星にいた生物がトロン爆弾の放射能により突然変異したとも考えられるが、正直あの爆発では生物が生き残るのは難しいだろう。 それにムルロア一匹だけというのも不自然。 おそらくムルロアは宇宙を飛行していて偶々実験に巻き込まれた怪獣ではないか。 ムルロアの呼称は宇宙大怪獣。 ムルロア星獣ではなく宇宙大怪獣と呼ばれている時点で、元々から怪獣であったことがわかる。 地球に向かったのは星を壊された復讐というより、爆弾の巻き添えになった復讐であろう。 ムルロア星は見た感じあまり大きな星ではなさそうなので、あれだけの巨大怪獣が住んでたとは考えにくい。 もちろん放射能で巨大化した可能性も否定できないが、ムルロアに関しては素直に宇宙怪獣と解釈する方が無難であろう。 一方、スペースモスだが、こちらはムルロア星に住んでいた蛾とも解釈できる。 すなわち住処を失ったスペースモスが新たな居場所を求めて地球にやってきた。 しかしこれでは、こちらがムルロアと呼称されなくては不自然になる。 やはり単なる宇宙の蛾。 ムルロアと行動を伴にしていたため爆発に巻き込まれ、その結果一緒に地球に復讐に来たのであろう。 では、そもそもなぜムルロアとスペースモスは行動を伴にしていたのか。 ムルロアの外見は、蛾とも蚊ともつかぬような恰好をしている。 元々ムルロアとスペースモスは同じ種族だったのでは。 言わばスペースモスの王のような存在がムルロアだったのであろう。 しかしそのように解釈するなら、素直にスペースモスのうちの一匹が放射能による突然変異で大きくなったとする方がテーマ的には合ってるのではないか。 しかし、一匹だけあそこまで大きくなるというのはやはり不自然。 かと言ってアリンドウのように複数が合体したというのも無理があるので、私は元々ムルロアは大怪獣だったという解釈を取らせてもらう。 ただ、ムルロアが放射能の影響を受けてないのかというと、それもまた違うであろう。 あの黒煙はやはり放射能を含んだ物質を吸い込んだ結果、身についたのではないか。 地球を覆い尽くす黒煙というのはとてつもない量の煙である。 おそらくムルロアは相当の量の放射性物質を吸い込んでいたのであろう。 それを一気に吐き出したからこそ、あれだけの威力になったのである。 感想(本音) 自分の星を核で爆破された怪獣が仕返しに来るというプロットは、どうしてもセブンのギエロン星獣を思い出す。 しかし前後編見る限り、あそこまで明確に反核のテーマは打ち出していないであろう。 その辺りを捉えて、この話を「超兵器R1号」の劣化版と捉える人もいる。 しかし、プロットが似ているだけで本話のテーマはそこにはないので、そういう比較はあまり的を射ているとは言えない。 本話のテーマはタロウではお馴染みの兄弟愛、家族愛なので、あまり核兵器ばかりに捕らわれるのは本質を見誤るだろう。 とはいえ、本話が核実験を批判しているのは間違いない。 しかも、それは「超兵器R1号」よりさらにストレートにである。 何と言っても星の名前が「ムルロア星」。 フランスが核実験を行っていた「ムルロア環礁」そのものズバリである。 いくら子供番組とはいえ、いいのかと思いたくなるほどストレート。 しかもご丁寧に番組上ではフランスが核実験に反対する国として名指しで挙げられている。 おまけにフランスの宇宙船が破壊されるし、この辺りはリアルタイムにこれを見ていた大人がビックリしたのではないか。 あたかも、今、アメリカのアニメかなんかで核怪獣「FUKUSHIMA」が暴れるようなものである。 まあ、そこまでタイムリーではないが、いずれにせよこれをフランスで放送するのはかなり勇気がいるだろう。 本話の脚本は田口成光。 私見では、田口氏はあまり思想的なものは脚本に出さないと思っているが、この話は序盤からかなりテーマが出ている。 これは田口氏の思想が出たのか、単に設定上核を持ち出したのか。 本話は基本的に、ウルトラの星を出すためのイベント編である。 とすると、やはりスタッフ間の話し合いでこのようなプロットが決められた可能性が高いであろう。 したがって、田口氏がフランスの核実験に対する批判をテーマに盛り込んだとはちょっと考えづらい。 となると、ムルロアという名前やフランスの登場は、やはりスタッフの意図。 特に、監督である山際さんの志向が出ているように感じられる。 山際監督はどちらかというとスタンス的には左の人である。 このように露骨にフランスに対する批判を持ち込んだのも、監督の意向が強いであろう。 ただし、1期ウルトラのように露骨な政府批判や科学文明批判になってないのは、やはり子供向けをしっかり意識していたためではなかろうか。 この辺りはやはり山際監督のポリシーなのだろう。 本話で地球が黒煙に覆われるという件は、やはり核の冬を意識したものである。 太陽の光が閉ざされた後の気温の低下までは触れていないが、これもおそらく自己抑制。 すなわち、あくまで核は副次的なテーマなのであろう。 ウルトラマンタロウのテーマはあくまで家族。 あのバサラの回も家族がテーマだったし、あまり科学文明批判を入れるのはタロウのコンセプトからは外れてしまう。 まあ、ウルトラの国とウルトラ6兄弟を出さないといけないので、必然的にテーマは家族や兄弟になってしまうのだろうが。 繰り返してきたように、本話のテーマは兄弟愛。 ウルトラ6兄弟と岩森兄弟がパラレルなのは明らかである。 この辺りのテーマは後編で語ることにしたいが、しかし、相変わらずタロウでは親が亡くなるエピソードが多い。 戦後かなり経ってる時期なので戦争孤児なんてのはあまりいないはずなのだが、この辺りはややワンパターンと言えなくもないだろう。 まあ、怪獣災害が頻発する時代なのであるいは戦時下とも言えなくもないが、この辺りはウルトラ全体のテーマ。 機会があればいずれ改めて語りたいと思う。 本話では岩森夫婦は旅客機の墜落事故で亡くなっている。 昔のウルトラは頻繁に旅客機が爆発されるが、これも今となっては規制の対象であろう。 本話はおまけに放射能とか核とか出てくるので、原発がこの状態の今ではかなり放送しにくいエピソードではないか。 まあ、放射能の雨が放映できたから大丈夫かもしれないが、いずれにせよ最近のウルトラでは描きづらいテーマである。 ところで、岩森家の父親を演じるのは、ウルトラシリーズの脚本家の石堂氏。 岩森は石堂から来ているのであろうか? ムルロアは解説でも書いたが蛾とも蚊ともつかないデザインをしている。 まあ、1期ファン辺りからは造形的に批判されそうなデザインではあるが、個人的には面白いデザインなので好きな怪獣。 それに一部で言われてはいるが、このムルロアは相当強い。 肉弾戦ではタロウ優勢であったが、溶解液は強力であっという間にタロウをノックアウトしてしまった(因みに光太郎は明け方戦ったので、朝から正午くらいまでずっと気を失っていたことになる)。 加えて地球全体を覆うほどの黒い煙。 核の被害を受けた怪獣が黒い煙を出して地球を核の冬にするという、ある意味ギエロン星獣よりストレートな核批判であるが、それはともかくここまでスケールの大きい敵は今までいなかった。 その辺りのことは次回にもう少し語るが、とにかく一匹の怪獣が地球を黒煙で閉ざすという発想はなかなか大胆で面白い。 本話はまだ前篇なので詳しいことは後編に譲るが、テンポ良く話を進め、かつテーマもイベントもしっかり盛り込むというなかなか手堅い作りになっている。 この話は子供の頃見ても面白かったし、今大人になって見ても、新しい発見があってなかなか面白い。 例えば、岩森家に押しかけるマスコミなどは子供ではちょっと理解できないであろう。 フランス云々もしかりである。 もちろん子どもにストレートにテーマを訴えかけるのもいいと思うが、子供向けは子供向けというスタンスを保ちつつ、さり気なく文明批判などを入れるやり方もまた正しいだろう。 子どもが一杯出てきて、お涙頂戴で、ご都合主義で。 確かにタロウにはそういう側面はある。 しかし、タロウをしっかり見ていたら、意外なほど大人向けであること、大人と子供両方が楽しめる作りであることが理解できる。 少なくとも子供だましというのは全く見当違いの批判であるのは、本話などを見ればすぐわかるであろう。 |