データ 脚本は斉藤正夫。 監督は筧正典。 ストーリー 「お母さ〜ん」。 山の上で一人叫ぶ少女。 「いつ帰ってくるの〜。カオルもう11になったのよ。4年もお母さんと離れて暮らしているのよ。カオルもう嫌だ」。 「お母さ〜ん。いいわ、カオル我慢する。4年も我慢してきたんだもん。でも、一言だけ何か言って。カオルに何か言って」。 少女が叫んだその時、空が曇り、狐火が光った。 その頃麓の村では、不審火による被害が多発していた。 村には九尾の狐の伝説が残されており、村の人たちは狐火が原因ではないかと考える。 また村の人たちはカオルが山から降りてきたと聞き、カオルに不審を抱いていた。 作文がなかなか書けずテレビばかり見てる健一。 それをさおりに咎められ、健一はへそを曲げる。 そこへ光太郎がやってきた。 作文のテーマは「僕のお母さん」。 光太郎は健一に「日本中にはお母さんのいない子は一杯いるんだ。第一さおりさんだって同じことが言えるじゃないか。そのさおりさんに駄々こねたりして、お姉ちゃんどんな辛い思いするかわかっているのかい」と言う。 それを聞いて反省する健一。 光太郎はさおりのことを書けばいいとアドバイスする。 一方、カオルは麓の遊園地でクラスメートの男子にいじめられていた。 「あいつのお袋、狐の祟りで死んだんだって。気持ち悪いよなあ」とクラスメートの少年。 閉園後の遊園地に一人残るカオル。 遊園地の管理人はそんなカオルをメリーゴーランドに乗せてやる。 カオルの母は狐火の被害に遭い行方不明になっていた。 管理人はそんなカオルを不憫に思い、世話をしていた。 翌日、村の自警団に不審火で車が燃えたと連絡が入る。 那須岳からカオルが下りて来たのが目撃されたことから、自警団はカオルを捕まえることにする。 その頃カオルは例の少年たちに狐憑きといじめられていた。 「九尾の狐、九尾の狐、お前のお袋、九尾の狐」と少年たち。 調査に来た光太郎と上野はいじめられているカオルを偶然見つける。 遊園地の管理人に話を聞く光太郎。 光太郎と上野はカオルに何故那須岳に登っていたのかと聞く。 「お母さんに会いに行ったのよ」とカオル。 「九尾の狐って見たことある」と光太郎。 カオルは九尾の狐は見たことはないが、火が燃えた後に生臭い息がするという。 そこへ自警団の面々がカオルを捕まえにやったきた。 逃げるカオル。 それを助ける管理人。 遊園地の中を逃げ回るカオル。 カオルはゴーカートで山を下る。 それを追う光太郎。 カオルはロープウェイに乗って山頂へ向かう。 「皆集まれ。山狩りだ。奴は人間じゃない。狐の仔だ」と自警団の団長。 「お母さん教えて。カオルは何故みんなに意地悪されるの。カオルもう一人で生きるのは嫌、お母さんの所に行きたい。お母さんはもう帰ってこないの。本当に死んじゃったの」。 そこへ光太郎がやってきた。 すると生臭い臭いとともに、狐火が走る。 「始まるんだわ、あれが暴れ出すのよ」とカオル。 山に残るというカオルに光太郎は 「君のお母さんは4年前に死んだ。目を覚ますんだ。殺したのはそこにいる奴だ。そいつが君のお母さんを殺し、君の幸せを奪ったんだ」と言う。 光太郎の言葉を素直に聞いてロープウェイで山を下りるカオル。 見えない怪獣の足がめり込み陥没する地面。 入れ違いにやってきた村の人々は狐火に襲われる。 さらにロープウェイの施設も狐火により爆破された。 ロープウェイに取り残されるカオル。 救出作戦を展開するZAT。 しかし再び狐火が走り作戦は失敗する。 その時怪獣の唸り声らしきものとともに、怪獣の姿が見えた。 しかし怪獣はすぐに姿を消す。 見えない怪獣がいると光太郎。 ロープウェイに必死に掴まり救援を待つカオル。 諦めそうになるカオルに母の声が聞こえた。 「カオル、頑張るのよ。決して諦めてはいけません。カオルは強い子だったでしょ。お母さんが一番よく知ってる。もう少しの辛抱。頑張るのよ、カオル。お母さん、ずっとカオルを見てますからね」。 勇気付けられるカオル。 一方ZATは見えない怪獣に苦戦。 光太郎はスプレー作戦を提案する。 スプレーが吹きかけられ姿を現す怪獣。 しかし怪獣は炎を吐いて暴れ、カオルの乗るロープウェイに火がついた。 それを見てタロウに変身する光太郎。 タロウはミエゴンをパンチで吹っ飛ばすとカオルを救出。 さらにミエゴンの吐く炎をタロウバリアーで防御し、最後はキックを浴びせミエゴンを自爆させた。 誤解が解け、謝るクラスメートの少年。 カオルはその少年にビンタを浴びせ「これでおあいこよ」と言う。 一方健一はさおりのことを書いた作文を先生に誉められ上機嫌。 「健一、今頃まで何処に遊びに行ってたの。お夕飯前にお風呂に入らなきゃて、言ってあるでしょ」。 とさおり。 解説(建前) ミエゴンは何物か。 素直に考えると伝説の九尾の狐ということになろうが、体が透明であったり巨大であったりとただの妖怪とも考えにくい。 最期も炎で爆破されたりと普通の怪獣なので、単に狐に似ている怪獣と考えるのが妥当であろう。 隕石に乗ってきた宇宙生物が巨大化した、狐が宇宙線により突然変異をした、古代の狐形怪獣の生き残りなど色々考えられるが、とにかく妖怪の類ではないのは確かであろう。 ただしこの怪獣が元で九尾の狐の伝説が生まれたと考える余地は十分にある。 感想(本音) 九尾の狐の伝説をそのままモチーフに作られた作品。 タイアップ先の遊園地の映像もふんだんに使われており、無難にまとまった話であろう。 ただタイアップ先にありきの話なので、物語はありきたりにならざるを得ない。 タロウお馴染の親のいない子という点、村人に虐待される孤児という設定などオリジナリティにはやや欠ける。 ただ最後ハッピーエンドで終わるのがタロウらしさといえばらしさであろうか。 本話は完全にカオル中心に描かれている。 こういう話はメインライターである田口氏お得意なのだが、今回はタロウ初参加の斉藤氏という点興味深い。 斉藤氏はエースではキングカッパー編やオリオン星人編、帰ってきたウルトラマンではメシエ星雲人編にキングボックル編と幅広いジャンルの脚本を手がけてきたが、逆にそのことにより個性が見えにくい作家であるのも事実である。 まあ、それは作品数が少ないことに起因しているのであるが、ただその中でもメシエ星雲人編の白鳥エリカと次郎たち、本話のカオルといじめっ子たちといった子ども同士の心の交流についてはしっかりツボを押えていた。 斉藤氏のタロウへの参加は本話だけであるが、そういう意味では斉藤氏とタロウは比較的相性が良かったともいえるであろう。 本話ではカオルは狐の子として村人に迫害される。 これは雪ん子として迫害された、ウルトラマン第30話「まぼろしの雪山」のユキを思い出させる。 同話ではユキは結局村人の手により帰らぬ人となるが、ウー自身も姿を消したように、ウーはユキと一心同体に描かれていた。 一方カオルとミエゴンは完全に別物であり、カオルにとってミエゴンは母の仇である。 怪獣と一心同体の少女の運命が決して幸せなものではないだろうことは容易に想像できるが、同様に本話においてカオルが立直るのもその設定からすると必然であった。 ラストをカオルのビンタで仲直りさせるというセンスは良質な児童文学だと思う。 ミエゴンは正直よくわからない怪獣であるが、炎を吐く以外は大した能力もなくタロウに一方的にやられていた。 まあタロウが強すぎるのもあるが、イマイチ存在感はなかった。 被害も結構小さいし。 ただ炎を浴びせられた自警団の人は大丈夫だったのだろうか。 カオルを狐の子だと言って鉄砲まで用意してた連中なんで同情する気にはなれないが、とは言え光太郎がカオルの心配ばかりするのもどうかと思う。 悪い人でも助けてやらないと。 カオルのお母さんを演じたのはエースの美川隊員こと西恵子さん。 セリフは少なかったがいいお母さんぶりはなかなか板についており、もっと息長く活躍して欲しかった女優さんである。 改めて西さんの美人振りがよくわかった。 カオル役の子は何処となくキムヨナに似てるような。 演技がやや固い気もしたが、子役なのでこれで十分としよう。 本話以外ではあまり見た記憶はないが、どれくらい活躍してたのか、気になるところではある。 当時は子ども向け番組が乱立しており、それなりに子役の需要も高かったと思われるし。 今回は巨大なタロウの飛び人形がインパクト抜群であった。 正直円谷の飛び人形はエースがビックリした鶏みたいに見えたり、ちゃちいことこの上ないのだが、このタロウ人形は比較的まともに出来ていると思う。 ただアップにするとやはり失笑は禁じえないので、今のCGを見慣れてる世代にはかなり辛い画面であろう。 まあ我々ミニチュア世代からすると逆にCG全開はアニメチックで見てられないのだが。 本エピソードのテーマはズバリ母親。 健一とさおりの関係を母子に準えるなど、それははっきりと描かれている。 本当の母親はいない健一、天涯孤独なカオル。 しかし健一には姉のさおりが、カオルには空から見守ってくれる母親がいる。 タロウではやたら親のいない子どもが出てくる。 この点を捉えてお涙頂戴のワンパターンと批判する人もいるだろう。 しかし親のありがたさ、大事さをわからせるには親がいない設定が一番子どもにわかりやすい。 そしてそれと同時に子どもの自立というものも描くことが出来るのである。 本話は結局カオルの自立で幕を閉じている。 もちろんその過程においては主人公である光太郎が大きく寄与しているのであるが、最終的に自立できたのはカオルの力であることは間違いないであろう。 ラストのビンタはこれからは誰にも頼らず自分で生きていくというカオルの宣言である。 それが男に頼らないで生きるというウーマンリブの宣言であるかどうかは不明であるが、いずれにせよカオルが男子とも対等にやっていくという意志を持っている点、間違いないであろう。 基本的に男の子向けの番組でのこのラスト。 スタッフが女子の視聴者もかなり意識していた表れとも解釈でき興味深いところである。 |