タロウの首がすっ飛んだ!


データ

脚本は石堂淑朗。
監督は山際永三。

ストーリー

健一とさおりは学校の休みを利用して、田舎の親戚の家に遊びに来ていた。
そこはまだまだ自然が残る丘陵地帯であったが、宅地造成のため工事が進められていた。
昆虫採集をしていて道に迷った2人は良助という少年に出会う。
少年は2人を秘密の穴に案内し、怪獣の化石を2人に見せた。
良助は怪獣博物館を作るのが夢だという。
その時警報が鳴り工事現場で発破が行われた。
まもなく大きな揺れが起こり、3人は穴から脱出する。
怪獣がいると良助。
「何か新しいものがあるかもしれない」。
良助はそう言い崖の方へ向かう。
崖を下り、砂の中に地蔵を見つける良助。
さらに良助は崖の中に怪獣の目のようなものを目撃する。
一方ZATは丘陵地帯の一部で震度12の揺れを観測し、調査に向かっていた。
3人が工事主任に捕まったところにZATがやってくる。
地震がこの付近だけと知り驚く工事主任。
良助が怪獣がいるというので付近を調べるZAT。
そこへ地主の島田がやってきた。
工事を中止するよう言うZATに対し島田は、宅地造成は国家の要請であると言って聞かない。
挙句の果てには「ZAT帰れ、ZATなんか二度と来るな」と隊員たちを追い返す。
仕方なく引き上げる隊員たち。
工事現場では相変わらず発破が続けられていた。
発破の衝撃で崖から滑り落ちる地蔵。
それを見た3人は地蔵を紐で引きずって持って帰ろうとする。
「これは丘の守り神のお地蔵様だ」と良助。
良助によると、むかし、村の木々が枯れたとき、お地蔵様を埋めて助かったという。
そこへ島田がやって来た。
島田は自分の土地に埋まっているものは自分のものだと家に地蔵を持って帰る。
「造成地完成の暁には立派な地蔵堂をお作りします」。
地蔵に手を合わせる島田。
しかしその夜、工事主任が崖の斜面に光る目を目撃。
「いい気分で寝ておったわしを発破で叩き起こすとは何と失礼な人間どもじゃ」と地蔵。
地蔵は健一、さおり、良助に自分の夢を見せる。
翌朝3人が主任にその話をすると、主任は村の人からそういう話を聞いたことがあるという。
島田に工事の中止を進言する主任だったが、島田は言うことを聞こうとしない。
すると地蔵の目が光り、怪獣エンマーゴが出現した。
出動するZAT。
コンドルとホエールで攻撃するZAT。
しかしエンマーゴは爆撃をものともせず、光太郎の乗っているコンドルを叩き切ってしまう。
地蔵を迎えに行く健一たち。
しかしエンマーゴに邪魔されてなかなか進めない。
怒り狂うエンマーゴは木を切り倒していく。
健一、良助を助けた光太郎は2人から地蔵の話を聞く。
島田に地蔵を造成地に戻すよう頼む光太郎。
しかし島田は地蔵にそんな力があるはずがないと言うことを聞かない。
村の木々はエンマーゴの吐く黒煙により枯れていってしまう。
地雷作戦を実行するZAT。
怪獣に特攻する上野。
上野は地雷を仕掛けるが、エンマーゴには通用しなかった。
村の建物を破壊するエンマーゴ。
光太郎はタロウに変身する。
エンマーゴに蹴りを浴びせるタロウ。
さらにタロウはエンマーゴにストリウム光線を放つ。
しかし光線はエンマーゴの盾に弾かれてしまった。
一方地蔵を元の場所に戻そうとする健一たち。
タロウはエンマーゴに追い詰められ絶体絶命。
とうとうタロウはエンマーゴの剣により、首を刎ねられてしまう。
一瞬死んだかと思われたタロウ。
しかしこれは肉を切らせて骨を切るというタロウの捨て身作戦であった。
首が元に戻ったタロウは念力を使いエンマーゴの首を飛ばす。
最後はストリウム光線でエンマーゴを爆破した。
地蔵の力を借りて勝利したタロウ。
地蔵は元の崖の上に戻される。
「お地蔵さんはやっぱり子どもの味方なのね」とさおり。
「やれやれ。これでまた暫くの間はゆっくり出来るかな」と地蔵。

解説(建前)

エンマーゴは何者か。
どう見ても自然界の生き物ではないので、これはやはり何かが閻魔様の銅像に憑依したと考えるのが妥当であろう。
それでは何が憑依したのか。
エンマーゴは地蔵の目が光った直後に出現している。
このことから地蔵が閻魔像に命を吹き込んだと考えるのが素直であろう。
コダイゴンやカイマンダーと同種の怪獣と思われる。

良助によると、昔、村の草木が枯れたときに地蔵を埋めたということであるが、そのときにエンマーゴは出現しなかったのであろうか。
これははっきりとはわからないが、仮にエンマーゴが出現していたらそのことが語り伝えられていないと不自然なので、やはりエンマーゴは姿を現さなかったと考えるのが自然である。
ただ草木が枯れたことからエンマーゴの吐く黒煙は村を襲ったものと思われる。
エンマーゴは崖の中から黒煙を吐いて村を襲ったか、若しくは嵐の夜に現れたため姿が見えなかったかで正体が伝わらなかったのであろう。
因みにあの黒煙は草木は枯らすが人間には無害であると思われる。

タロウの首が繋がったのはなぜか。
まず考えられるのが、地蔵が念力でくっ付けたという説。
しかし地蔵にそこまでの力があるかは疑わしい。
これはやはりタロウ自身の再生能力と考えるのが妥当であろう。
タロウはデッパラスの角が刺さっても平気であったし、ウルトラダイナマイトという荒業も持っている。
死んだと見せかけて相手を油断させる作戦だったのであろう。
かなり無理があるが、そう解釈しておく。

それでは地蔵が力を貸したというのはどういうことか。
エンマーゴは地蔵のお経により動きを止めた。
タロウがエンマーゴの首を念力で飛ばせたのも、地蔵が動きを封じてくれたおかげであろう。
ただ、タロウは地蔵が協力してくれるとは予想していなかった。
首を刎ねられたのは作戦ということになっているが、結果的にはかなり偶然に助けられた感が強い。

感想(本音)

正直解釈不能な話。
肉を切らせて骨を絶つということらしいが、画面を見る限りそんな余裕は感じられず、しかもそのことにあまり意味も感じられず、結局単に首をすっ飛ばしたかったんだろうなというのが素直な感想。
ただこれは子供の頃はかなり怖かった。
エンマーゴの気持ち悪い笑い声といい、タロウ初期に多いトラウマ系の話の一本であろう。
さすが石堂淑朗といったところか。

それはさておき、話の出来としては悪くない。
話の流れは自然だし、単純だが宅地造成工事に土地の神様が怒ったというプロットもわかりやすい。
エンマーゴの演出も不気味さがよく表れていたし、地主の島田のキャラも立っていた。
さりげなく、宅地造成が国家の要請に基づくものだと皮肉を入れているのも良い。
さおり、健一も活躍しており、素直に見てて楽しめる出来であろう。

健一、さおりが旅行に出て旅先で少年に出会うというのは「怪獣ひとり旅」と同じパターンである。
タロウは少年ゲストがよく出るのでお馴染の展開だが、子役が嫌いな人にはあまり受けなさそうな話ではある。
この辺りは個人個人の趣味によるであろう。
さらに金持ちの地主が出てくるのも「怪獣ひとり旅」と同じパターンであるが、これもウルトラではお馴染の展開であろう。
演じる浜村純氏は帰って来たウルトラマン「落日の決闘」でも田舎の駐在役として出演していたが、今回も村の大金持ちの島田役を好演していた。
島田は地蔵を高値で売れると考えていたように基本的には悪役キャラであるが、最後改心したように何処となく憎めないのも浜村氏の持ち味であろう。

今回は何といってもエンマーゴのキャラが凄かった。
どう見ても妖怪にしか見えないが、ウルトラではこういう怪獣も徐々にお馴染みになっていたので「あり」ということにしておこう。
しかしお地蔵さんもいくら発破をかけられたとはいえ、ここまでするのはかなり非道に思える。
私怨で怪獣を暴れさせたように見えることから、村の守り神というにはちょっと抵抗がある。

ただ宅地の造成が村にとって本当にいいことなのかと考えると、地蔵の行動にもある程度納得は出来る。
当時は宅地造成などの開発工事で自然がどんどん失われていた。
今でこそエコが喧しく叫ばれているが、当時は国家の要請もあり開発こそ正義という風潮があったのである。
しかし開発は土地の人たちにとって本当にプラスなのか。
そこまで考えて地蔵はエンマーゴを暴れさせたのであろう。
そういう視点からは、地蔵はやはり村の守り神といえるのである

ただ地蔵が人間を懲らしめようとしていたのも事実である。
子供の頃は地蔵と閻魔大王の関係がよくわからなかったが、一説によると閻魔大王は地蔵の化身らしい。
とすると地蔵がエンマーゴを暴れさせたのも合点がいく。
閻魔は人間が極楽に行くか地獄に行くかを裁く存在である。
エンマーゴも同様に自然を破壊する人間を裁くために現れたのであろう。
結局地蔵は村を守る存在であり、かつ人間を戒める存在でもあるのである。

今回はさおりがかなり目立っていた。
というか、ミニスカその他なのであるが、3種類の衣装を着るなど降板前の最後の活躍といえるであろう。
芝居はやや残念なところはあるが、そのフォトジェニックぶりは遺憾なく発揮していた。
今なお御活躍なのも納得である。

今回は地味に上野隊員も目立っていたが、爆弾を仕掛ける役割がよく回ってくるのは若手だからなのか。
しかしZATは毎回のように飛行機を破壊されるし、これでよく殉職者が出ないな。
まあMACが死にすぎなのではあるが、いずれにせよその強運ぶりには感心させられる。

序盤からストリウム光線を放つタロウ。
必殺技が破られる時のお馴染のパターンだが、どう考えてもタロウは単に劣勢としか見えなかった。
最後はよくわからない逆転勝ちをするが、さすがにあれは無理があろう。
しかしタロウは無表情のはずなのに、焦りやピンチが表情から読み取れる。
仮面劇では見る側の想像力が要求されるが、それも演出、演者の演技力あってのものだろう。
この辺りは海外の人には理解が難しいかもしれない。

宅地造成など国土開発に対する批判はあるが、この話の中心はやはり単純にお地蔵さんを大事にしないと罰が当たるという道徳的なものであろう。
そういう点では非常に子ども向けの、わかりやすい話である。
もちろん地蔵の行動には引っかかるところもあるが、まずはそういう伝統文化や自然環境を保護する。
そういう心は大人になってからではなかなか育たないので、子ども向けメッセージとしては王道であろう。
本話はタロウの首切断シーンなどやや過激な描写も見られるが、子ども向け教訓話としてよくまとまっている。
またエンマーゴと地蔵の関係など案外深いところもあり、大人が見ても十分に楽しめるエピソードであろう。



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