血を吸う花は少女の精


データ

脚本は木戸愛楽(大原清秀)。
監督は山際永三。

ストーリー

ある梅雨の夜。
赤ん坊の声を聞いたパトロール中の警官が血を吸われて死亡した。
夜勤明けの光太郎は森山から殺人事件の調査に行くよう電話を受ける。
警察の仕事だと乗り気でない光太郎。
しかし怪獣が出たと聞くと、大急ぎで現場に向かった。
現場に着いた光太郎は警備の警官から、怪獣ではなく吸血殺人だと聞く。
そこへ荒垣たちが応援に駆けつけた。
「たまには警察を応援してやらんとな」と荒垣。
怪獣の手がかりを探す隊員たち。
境内に綺麗な花が咲いてるのを見つける北島。
しかし結局何の手がかりも見つからなかった。
光太郎と荒垣は、車の往来する道路を歩いて渡ろうとする少女を見かける。
轢かれそうになる少女を助ける光太郎。
その少女の名はカナエといい、手に植木バサミと花を持っていた。
光太郎はカナエの言うとおりに家を探すが、カナエはあっちこっち連れまわすだけで本当のことを言わない。
挙句の果てには光太郎の家を自分の家だと言う。
呆れる光太郎。
そこへ森山隊員がやってきた。
森山はサークルの合宿中のさおりの代わりに白鳥家の手伝いに来たのだ。
森山はカナエを見て、以前ZATが招待した孤児の娘であるという。
光太郎が施設に電話すると、カナエは里子に出されていた。
カナエの里子先は有名な資産家岩坪家。
光太郎は岩坪家までカナエを送り届ける。
捨て子をする親にも事情があるから、カナエの親を見つけたとしても幸せになれないと森山。
その夜、白鳥家で眠る森山の部屋に不気味な蔦が忍び寄る。
それはカナエが健一にプレゼントした花が蔦と合体したものであった。
赤ん坊の泣き声を発しながら迫る蔦。
森山は部屋を逃げ出し健一の所へ行くが、蔦はしつこく追いかけてきた。
絶体絶命の森山と健一。
その時偶然道を歩いていた酔っ払いが蔦を噛み千切る。
何とか助かる2人。
光太郎はカナエがその花を持っていたことから岩坪家に連絡する。
夜も遅く取り合ってもらえない光太郎。
岩坪家では母親がカナエの花を取り上げゴミ箱に捨てていた。
ZATの分析の結果、蔦から多量のヘモグロビンが検出される。
「この花どっかで見た気がするんだがなあ」と北島。
カナエがその花の咲いている場所を知っていることから、岩坪家に連絡する光太郎。
しかし電話には誰も出ず、赤ん坊の声だけが受話器の向こうから聞こえてきた。
何かあったのではないかと光太郎。
車で岩坪家に向かう途中、街中で花を配るカナエを見つける光太郎。
花をもらった人々に対し、花を捨てるように言う光太郎。
カナエから花を取り上げた光太郎は、花を踏みにじった。
「どうして花を配ったりしてるんだい。まさか知っててやったんじゃないよね。あの花が人を殺すって」と光太郎。
「あの花何処から摘んできたの。それだけでも教えてくれないかな」。
しかしカナエは植木バサミをカチカチ鳴らすだけで質問に答えない。
そこへ北島が、花が咲いている場所を思い出したとやってくる。
そこは捨てられて死んだ子どもを供養するために建てられた塚であった。
蔦を切断する2人。
それを見ていたカナエ。
「お兄ちゃんの馬鹿」。
そう言って走り去る。
するといきなり蔦が地中からスルスルと出てくる。
その蔦は蔦怪獣バサラの体毛だった。
蔦に掴まり宙吊りにされる光太郎。
北島の援護で何とか脱出するも、今度は北島が捕まった。
助けようとした光太郎も蔦に捕まってしまう。
そこへホエールが飛来した。
空から爆撃するZAT。
しかしホエールはバサラの蔦に絡まれて墜落してしまう。
脱出する隊員たち。
それを見た光太郎はタロウに変身した。
バサラと格闘するタロウ。
タロウはストリウム光線でバサラを爆破する。
バサラは一度消滅するも、再び怨念が実体化。
そして今度は寺と一緒に爆破消滅した。
カナエは再び施設に戻ったという。
「だけど、あの子、どうして花があんなに好きだったのかしら」と森山。
「きっと花を本当のお母さんと思って、慕ってたのよ」とさおり。
「憎んでたんじゃないのかな。自分を捨てたお母さんをさ。いや、お母さんにそうさせた世の中と言った方がいいのかもしれない」と光太郎。
植木バサミを手に今日も墓場をうろつくカナエ。

解説(建前)

バサラは何者か。
まず考えられるのが、吸血植物が地中で子どもの死骸を吸収し巨大化。
さらに人を襲って吸い取った血液によって怪獣化したという説。
大筋はこの考え方で説明できると思うが、ただ最後地蔵のお経によって成仏するような描写があったので、やはり捨て子の怨念が宿ってると考えるのが妥当であろう。
怪獣としてのバサラはタロウのストリウム光線によって破壊されたが、捨て子の霊については地蔵のお経及び寺と一緒に成仏したのであろう。

感想(本音)

超絶に救いのない話。
あるいはウルトラシリーズで一番の鬱話かもしれない。
明るい作風のタロウにおいて、これは如何したものか。
前回がタロウらしい爽やかな話だっただけに、これを同じ脚本家が書いたとはとても思えない。
こんな暗い話だとは思いもしなかったので、久々に見て度肝を抜かれた。

この話は何といってもカナエに尽きる。
その強い目と何を考えてるかわからない無表情。
このキャスティングは嵌まりすぎであろう。
そして植木バサミをカチカチする演出。
山際監督はこういう単調なカチカチ音を好む傾向があるが、本話の場合、植木バサミというビジュアル的怖さと相まって少女の闇を象徴するのに役立っていた。
ラストシーンはもはやホラーの域に達している。

カナエが花を配った目的は、正直殺人以外解釈しにくい。
ただどの時点で花が人を殺すと気付いたのか。
本編からそれを読み取るのは難しいが、それまでの事件にカナエが関与したという描写がなかったので、一応養母が殺されたときと解釈しておく。
もちろんこれはかなり好意的な解釈なので、異論はあるだろう。
いや、話の内容からはカナエはかなり前から花が人を殺すと気付いていたと解釈する方が素直かもしれない。
ただそれに気付くには現場を見る必要があると思われる。
またカナエはある意味最も嫌っている養母に花をプレゼントしなかった。
それどころか養母が花を取り上げようとすると、それを渡すまいと背中に隠した。
養母が血を吸われる場面を見た時のカナエの演出からも、この時初めて花が殺人の道具と気付いたと解釈するのが妥当であろう。

ただ養母の死を目撃した後の行為はもはや大量殺人を企てたとしか思えない。
おまけに光太郎が蔦を切ろうとすると「お兄ちゃんの馬鹿」と言うなど、気持ちは完全にバサラ寄りである。
カナエは世の母親に対して無差別に復讐しようとした。
光太郎の言うように、社会を憎んでいたのであろう。
ただ「お兄ちゃんの馬鹿」というセリフは逆に見ると、光太郎に対して初めてカナエが心を開いたとも解釈できる。
カナエは親切な光太郎や健一に対して内心感謝していたのではないか。
カナエが健一にプレゼントした花も、素直に好意からだったと解釈しておくことにする。

本話で1番の謎は、カナエは何故車の往来が激しい道路を歩いて渡ろうとしたのかという点。
これも普通に考えると、自殺の可能性が1番高い。
カナエは結局光太郎に自分の家を教えなかった。
このことから、カナエは2度と家に戻る気がなかったと推測される。
カナエは常に岩坪家から逃げ出したいと思っており、それが潜在的な自殺願望に繋がったのではないか。
少なくとも自分の命を大切に思うことが出来ない状態にあったのは間違いないだろう。

そういう自分の命を大切に思えない状況だからこそ、カナエは大量殺人を思い立った。
ただ道路で光太郎に助けられた後のカナエは何事もないように振舞っていた。
これはやはりカナエが既に精神の病を発症していた可能性が高いだろう。
カナエは施設に戻ったということだが、しっかりしたカウンセラーをつけないと何も解決しない。
カウンセラーが一般ではない時代。
カナエの前途は暗澹としている。

今回ZATは警察の応援で捜査に協力した。
しかし怪獣が出ていないのに何故捜査に協力したのか。
まるでSRIだが、色々大人の事情があるのだろう。
まあ単に荒垣や朝比奈の知り合いが警察の上部にいるだけかもしれないが。

今回何故かさおりはラストだけの登場。
これは謎である。
普通に考えれば健一と一緒にバサラに襲われるのはさおりのはず。
わざわざ森山が白鳥家に来て襲われる必然性は少ない。
あさかさんが体調不良で倒れたとか。
ただ同じ脚本監督の前話ではさおりは大活躍していた。
これはやはり演技力の都合かもしれない。

しかし森山を家政婦代わりに呼びつける光太郎は女の敵だぞ。
森山がわざわざ家に来たのはやはり光太郎に気があるからだろうし。
しかしこのことをさおりは知っていたのであろうか。
後でひと悶着なければと思うが、一応ラストでは仲良くしていたので光太郎が上手く収めたということにしておこう(?)。

今回一番のホラーシーンはカナエの養母が殺されるシーンであろう。
これは下手なサスペンスより怖い。
正直、子ども番組でこんな場面放送するなよと思う。
しかしあの母親はそんなに悪い人なのだろうか。
金持ちが捨て子を利用するみたいなZATの会話があったが、慈善事業のために岩坪家は子どもを引き取ったのであろうか。
ただ岩坪家に子どもがいなかったのも事実。
将来財産を相続する可能性があるのに、そんなに軽々に孤児を養子にするとは思えない。
結局この件は金持ちの道楽レベルということになろうか。
ちょっと解釈に苦しむ。

バサラは赤ん坊の泣き声を発するなどかなり不気味な怪獣。
最後も一回爆破してから復活するし、地蔵の演出ともどもほとんど妖怪である。
見た目はザザーンとかウーの系統であるが、緑色であることからそれなりに個性は出ていた。
ただ酔っ払いに噛み千切られるのは完全にギャグ。
重い話の中において、唯一笑えるシーンであった。

今回は捨て子の話を正面から取り扱っている。
そして子ども向け番組で捨て子の話は難しいので、途中ZAT隊員や森山にその説明をさせ、子どもにもわかるように配慮している。
正直見ていて気恥ずかしくなるシーンだが、子ども向け番組である以上仕方あるまい。
ただこのテーマをウルトラマンタロウで取り上げるのはどうであろうか。
捨て子のテーマは極めて社会的であり、子ども向け番組にはそぐわないように思える。

ただこういうメッセージ性の強い作品は初代マンの頃からのウルトラの伝統でもあった。
「故郷は地球」では科学開発における負の側面を描き、「超兵器R1号」では核の問題を取り扱った。
「怪獣使いと少年」では差別の問題を扱ったし、他にも車社会の問題、地下水の汲み上げ、海底開発などなど挙げれば切りがない。
したがってタロウで捨て子問題を取り上げても問題はないのである。

タロウとしてはかなりの異色作に見える本話。
しかしウルトラシリーズという枠組みで見れば、決して異色作ではない。
タロウは原点回帰を意識したシリーズである。
したがってタロウにおいてこのようなメッセージ性の強い作品を作ることも、その一環として許容されるのである。
タロウは子どもの親にも人気のある番組である。
あるいは本話のメッセージは、子ども向けというより親向けだったのかもしれない。




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