データ 脚本は田口成光。 監督は筧正典。 ストーリー 大杉谷に怪獣出現の報がMATに入った。 しかし怪獣は見るからに愚鈍そうで隊員たちは安心する。 「俺の田舎の牧場でも飼っておけそうだ」と南。 「私にやらせてください」と郷は自ら名乗り出る。 「慎重に狙えば1発でOKです」。 「郷にX弾を使わせてやってください」と岸田。 X弾とは岸田の開発した新兵器でこの程度の怪獣なら影も形もなくなるほどの威力があるという。 アローで出撃する郷。 怪獣を見つけた郷はX弾を撃ち込むため怪獣に接近。 しかし怪獣はアローが近づくといきなり火を吐いた。 思わずX弾の発射スイッチを押す郷。 しかしX弾は怪獣の尻尾に刺さったのみで爆発しない。 結局2発目のX弾を撃ち込む間もなく怪獣は地底に潜ってしまう。 基地に帰った郷はX弾不発の原因を聞かれるが、郷には思い当たることはない。 「昨日のチェックでは完璧だった」と岸田。 MATはその原因を探るため、郷のアロー内部の様子が映ったVTRをチェックする。 「待て。そこの所をもう1度だ」と隊長。 VTRでは時限装置のスイッチを押す郷の姿が鮮明に映し出されていた。 「X弾は不発ではない」と岸田。 南は「良かったな、郷。後10時間で奴は天国へ急行だ」と言うが、隊長は「怪獣が街の真ん中に現れたらどうする」と一喝する。 郷は格技場で隊長と柔道の乱取りをする。 隊長に投げられる郷。 「確かにどうかしている。MATで1番強い俺が投げられるなんて」と郷。 「郷。何故お前が俺に投げられたかわかるか」と隊長。 「そうだ、油断だ。緊張が足りなかったんだ」と郷。 その時緊急事態発生の報がMATに入る。 怪獣は都心に向かっているという。 東京には緊急避難命令が出された。 その頃坂田家でも避難の準備に追われていた。 「怪獣なんて郷さんがやっつけてくれる」と次郎。 しかし坂田は「みんながいたら郷さんだって怪獣をやっつけるのに邪魔になるだろ。だから早く大事なものを持つんだ」と言う。 次郎は大事なものはこれだと郷からもらった鉢植えを持って行く。 怪獣は結局東京には向かわず、進路を変え青木高原に向かう。 しかしその先には日々化学のダイナマイト工場があった。 加藤は郷を連れダイナマイト工場を偵察に。 ダイナマイト工場には東京を吹飛ばすだけのニトログリセリンがあるという。 上空を飛行していると本部の丘から怪獣が工場に接近してるとの連絡が入る。 ジャイロを工場に降ろし、工場関係者にニトログリセリンを移動できないか聞く加藤であったが、それは無理だという。 「こんなことになってしまって、すみません」。 謝る郷。 2人がジャイロに乗り込むと遂に怪獣が現れる。 しかし怪獣は工場付近に座り込んでしまった。 攻撃できないことからせめて写真を撮ろうと近づくジャイロ。 しかし怪獣に接近すると怪獣はいきなり火を吐いた。 基地に返って早速怪獣の分析をするMAT。 「怪獣は目は悪くとも音に対する反応は敏感じゃないでしょうか」と郷。 「裏づけがあるのか」と岸田に問われ「そんな感じがします」と郷。 しかし「感じで物を言う奴があるか。私は多少でも可能性の高い方を作戦として採用する」と隊長。 結局岸田の意見が採用され怪獣に麻酔弾を撃ち込むことになった。 「ジャイロが高度を下げた時地下の怪獣の耳にジャイロの音が聞こえたんだ。工場でサイレンが鳴ってからはまっすぐ工場に向かっている。怪獣は音に反応するんだ」。 確信する郷。 その頃坂田家では次郎が花に水をやっていた。 そこに友達のたかしが親戚の女の子を連れて来る。 友達の話によるとその子は怪獣のせいで実家を避難してきたという。 MATが怪獣を逃がしたのが悪いとたかし。 次郎は襟のMATバッジをそっと手で隠した。 たかしが帰った後次郎は郷に貰った鉢植えを地面に叩きつけて割ってしまう。 「ちくしょう。郷さんの馬鹿」。 他の隊員たちが麻酔弾を持って現場に行った後、郷は1人ジープで現場に駆けつける。 岸田と隊長は怪獣に接近して麻酔弾を撃ち込むが、すぐに効き目が現れない。 その時郷がジープに取り付けたサイレンを鳴らしながら工場と反対の方向へ走って行った。 サイレンの音に反応しジープを追いかける怪獣。 サイレンの音に狂ったようになった怪獣はコンピュータの予測以上のスピードでジープを追いかける。 何とか安全圏に来た郷はジープを乗り捨て脱出。 ジープは炎上し隊長らは郷の安否を心配する。 何とか怪獣を工場から引き離すのに成功したと思った矢先、工場に警報のサイレンが響き渡った。 再び工場に向かう怪獣。 それを見た郷はウルトラマンに変身。 しかし工場の近くでは、X弾を撃ち込んだ怪獣を攻撃することができない。 そうこうするうちに爆弾のタイムリミットが迫っていた。 ウルトラマンは意を決して腕を空に伸ばし回転を始める。 そのまま地中に潜るウルトラマン。 そして怪獣の真下から地上に現れると、そのまま怪獣を持ち上げ空高く飛んでいった。 上空で爆発する怪獣。 「おーい」。 郷が隊員たちの下へ走り寄ってきた。 隊長は南に「お袋さんの汽車はまだ間に合うか。早く呼んで来い。さもないと乗り遅れてしまうぞ」と言う。 手を取り合って喜ぶ郷と南であった。 解説(建前) MATはゴーストロンの映像を見てすっかり油断していた。 怪獣があまり暴れていないからであろうが、にしてもあまりにも油断しすぎだ。 今まで出てきた怪獣にことごとく苦戦してきたMATとは思えない。 これは実はMATは本編に出てくる以外の怪獣とも戦ってることを示すものではないか。 結構日常的にMATはこの手の怪獣を処理しているのかもしれない。 いずれにしても、皆怪獣を見る目にはかなり長けているようだ。 MATアローには内部の様子を撮影するためのカメラがつけられている。 しかもこのカメラは様々なアングルで内部を映すことが出来る。 そして出来た映像は内部の様子がわかりやすいように自動で編集される。 これだけ監視されていては郷もさぞかし変身が大変であろう。 ただし映像が機内の装置に残るだけなら、結局アローが爆破されればそれを見ることは出来ない。 2話のMATサブの音声も、サブが無事だからこそなのかもしれない。 X弾に時限装置は必要なのだろうか。 時限装置は怪獣相手には極めて危険な装置である。 これはおそらく動かない岩盤や山などの無生物相手のための機能であろう。 間違いやすい位置にボタンをつけたのは、設計上問題があったと言わざるを得まい。 因みにX弾が以後登場しないのは今回の騒動が原因だと思われる。 感想(本音) 「帰ってきたウルトラマン」初の上原氏以外の脚本。 タロウ、レオでメインを務める田口氏のデビュー作である。 話の内容は初期の路線を踏襲したオーソドックスなもの。 郷の油断→ミス→反省→活躍とある意味上原氏以上に手堅い脚本である。 確かに大全の言うように田口氏の作家としての個性が充分に発揮できたとは言い難いかもしれない。 しかしその中においてもきっちり氏の個性が発揮されている場面もある。 それはある程度氏の脚本について理解してれば容易にわかるであろう。 それについては後で語ることにして、まず全体をざっと見ていくことにする。 まず怪獣出現と隊員たちの反応について。 皆なぜか妙に油断している。 「ありがたい、こんな奴なら2,3匹束になってきてもいいぞ」。 「俺の田舎の牧場でも飼っておけそうだ。ただ牛の方が気を悪くして奴を追い出すかもしれん」。 「慎重に狙えば、1発でOKです」。 どうも芝居が変と言うか、セリフが変と言うか。 みんな噛み噛みな気がする。 今回は4話以来のスポ根的シーンが用意されている。 隊長が直接郷の柔道の相手をし郷に自らの油断に気付かせるというシーンである。 とは言え郷はあっさり自らの油断に気付いてしまい、あまり重要なシーンとはなっていない。 内容が盛り沢山なのもあろうが、やはり「帰ってきたウルトラマン」において、スポ根の重要性が低下して来ている証拠ではないか。 以後他人によって鍛えられる郷というシーンはほとんど見られなくなる。 X弾はビルの3つ4つを吹き飛ばす威力があるという。 実際ゴーストロンも木っ端微塵に吹っ飛んだ。 こんな凄い武器があるならこれから怪獣をビシバシ倒せるのではないか。 しかし以後X弾は登場しない。 やはり威力が凄すぎて危険という判断なのであろうか。 自制なのか世論なのか政治なのかはわからないが、MATはあまり強力な武器を使用できないようである。 今回は郷の一方的なミスで、岸田のほうに分がある。 とは言えそういう対立は既に解消され、岸田も特別意識してないようである。 あくまで冷静に事に対処している。 隊長も岸田の作戦面での能力を高く買ってるらしく、岸田に意見を求めている。 しかも岸田はX弾という凄い武器も作っている。 今までマイナス的に捉えられていた岸田のエリートという設定が今回はプラスに働いてるようだ。 今までマイナス面ばかりが強調されてきたが、このようにプラス面を描くことによって岸田のキャラに深みを持たせるのに成功している。 結局麻酔弾は効かなかったものの、作戦としては仕方ないであろう。 ところで郷は今回は自分の特殊能力ではなく自分の頭で考えて作戦を立てている。 結局この作戦は的を射ていたが、これはあくまで偶然で、隊長が作戦として採用しなかったのもやむをえないだろう。 ジャイロやサイレンの音と怪獣の動きを結びつけるのはやはり、やや強引である。 ただし臨機応変な態度が要求されるMATにおいて郷が取った行動は正解であった。 隊長もあくまで本隊の作戦としては却下したものの、郷がそれに基づいて何かすることまで禁じたわけではなかった。 ただ、あれほど無茶をやるとは思わなかったので、かなり焦ったのだろう。 しかし作戦が失敗したら隊員皆ダイナマイト工場と一緒にお陀仏である。 命がけとはいえ無茶なものだ。 しかも元々原因を作った郷だけいないというのも、他の隊員からすれば「いい加減にしろ」だろう。 しかし東京を吹き飛ばすだけのニトログリセリンがあるとは物騒な話である。 とは言え具体的にどれほどの威力があるかイマイチわかりづらかった。 実際あの工場が爆発しても東京が壊滅するとは思えない。 その辺りもう少し説明が欲しかった気もする。 ウルトラマン対怪獣。 あの2回に渡るイメージショットは不評みたいだが個人的には面白いと思っている。 確かに大全にある通りサスペンスとしての盛り上がりには欠けるが、映像的にはわかりやすく何だかほのぼのとしてしまう。 結局ウルトラマンが何とかするのはみんなわかっているんだから、あれはあれでいいのではないか。 ただし2回目になると少しクドイ感じはした。 しかしわざわざ地中に潜らなくても怪獣を持ち上げることは出来そうな気もするが。 今回南はらしくなく、油断したことを言って隊長に窘めらるシーンが目立った。 これは今までの冷静な南のキャラからは少し違和感がある。 郷の肩を持つにしても、少し軽率すぎる。 これは母親が来ることになっており、気がそちらに行っていたと解釈するしかあるまい。 そこまで考えての母親の話とは思えないが、一応そういうことにしておこう。 一方上野の方も今回はかなり軽いキャラとして描かれている。 ゴーストロンは夢を餌にしている等、ある意味郷以上に気が抜けてるように見えた。 これは田口氏が主役以外の隊員をあまり重視していないことによるのだろう。 加藤隊長もあっさり郷の意見を否定しており、やはりこれまでの上原脚本とは微妙な違いが窺える。 しかし最も大きな上原脚本との相違点はやはり次郎だろう。 次郎が鉢植えを叩き割るシーンはあまり今までの次郎のキャラにそぐわない気がした。 これはむしろレオのトオルのキャラではないか。 「郷さんの馬鹿」を「おおとりさんの馬鹿」に置き換えたらそれは一目瞭然である。 つまりこれは田口氏得意の屈折した子供の描写。 あまり子供に影を持たせない上原氏とは決定的に違う田口氏の個性である。 橋本プロデューサーに何回も書き直しを命じられたという今回の脚本だが、そこにはやはり作家田口成光の個性の一端を垣間見ることが出来るのである。 とにかく地味でインパクトの薄い本話。 しかし後の円谷を担った田口氏のデビュー作という非常に重要な歴史的意義を持つ。 そしてその中には少ないながらも田口氏の作家としての個性の萌芽を見ることが出来る。 エピソード的にも破綻はなく、主役の郷も活躍しておりこの時期としては無難な仕上がりではないか。 やや各人のキャラが硬直に過ぎる気もするが、それはまだ新人なので仕方あるまい。 |