決戦!怪獣対マット


データ

脚本は上原正三。
監督は富田義治。

ストーリー

2大怪獣に挟撃されたウルトラマンは遂に力尽き、夕日に姿を消す。
一緒に力尽きた郷は南らによって救出される。
「MATを辞めた俺を…。すいません」。
「お前はMATを辞めたつもりだろうが、俺はお前をMATの一員だと思ってる」と上野。
グドンは逃げるツインテールを追って海の方へ。
その頃地下から助け出されたアキは絶対安静の状態に。
しかしアキは郷のシャツを最後まで離さずにいた。
アキの病室にいる郷の下に上野と南が来る。
「俺たちと一緒にMATに戻ってくれないか。お前の力が必要なんだ」と上野。
「彼女のそばについていたい」と言う郷に対し上野は、
「お前はMATより女を選ぶのか。見損なったぞお前という男を」と言う。
その時アキは坂田を通じて「私のことは心配ないからMATに帰って」と郷に言う。
その頃基地では隊長が長官からMN爆弾を使用しなかった件について責められていた。
あくまで作戦の正当性を主張する加藤に対し長官は「それでよくMATの隊長が務まるな」と加藤を批難する。
「加藤隊長はMATの隊長に1番相応しく、尊敬できる人物です」と反論する南。
今度は夢の島に出現したグドンに対しMN爆弾を打ち込むMATだったが効き目が全くない。
万策尽きた長官はスパイナーの使用を決断する。
スパイナーは小型水爆並みの威力があると反対する加藤。
しかし「日本の首都を怪獣に蹂躙されていては世界の笑いものだ」と長官。
反対する加藤だったが「東京決戦については一切の指揮はわしが採る」と長官は譲らない。
結局東京には避難命令が出される。
アキが動けないことから避難を拒否する坂田。
説得に向かうMATだったが坂田は幼少時の戦争体験を話す。
坂田の母親も疎開を拒否し坂田と防空壕に隠れていたという。
「しかしスパイナーの高熱は鉄やコンクリートも溶かすんですよ」と岸田。
「スパイナー?みんなを避難させたのはスパイナーを使うためですか」と郷。
「あんなものを使えば東京は一体…。何とか中止させるわけにはいかないのですか」。
「長官が決定を下された。今さら変更は出来ないよ」と岸田。
「MATの使命は人々の自由を守り、それを脅かすものと命を掛けて戦う。そのためにMATはあるんじゃなかったんですか」。
「私と一緒に来てくれ。ともにMATの誇りを守り任務を遂行しよう」と加藤。
基地に帰った加藤は「もう一度MATにチャンスをください。必ずしとめます」と長官に懇願する。
至近距離から怪獣に麻酔弾を撃ち込むと加藤。
そんなに近くに行くのは危険だと却下する長官。
「MATにもう一度チャンスをください」。
「僕からも是非お願いします。麻酔弾を撃ち込むんです。それが駄目ならスパイナーを」と岸田。
隊員たちの熱意が通じ長官から許可が出る。
「失敗したらMATは解散だぞ」と長官
「我がMATは今度の戦いに全てを賭ける。全力を尽くして戦おう」。
夕日の中怪獣を待ち受けるMAT。
「狙うは目だ。出来るだけ接近して撃つんだ」と隊長。
ギリギリまで接近しツインテールの目を撃つMAT。
見事命中するが、ジープが動かなくなってしまう。
おとりになりジープから降りる郷。
その時グドンも出現した。
ウルトラマンに変身する郷。
ウルトラマンはまたも2大怪獣に挟撃されピンチに。
「ウルトラマンを援護しろ」。
バズーカで怪獣を攻撃するMAT。
ツインテールは両目を潰され弱ったところをグドンに倒されてしまった。
グドン1匹だけになりウルトラマンは優勢に。
最後はスペシウム光線でとどめをさした。
砂煙の舞う中集まるMAT隊員たち。
泥だらけの隊員たち1人1人に礼を言う加藤。
その頃アキも意識を取り戻していた。
空は晴れ渡り平和の象徴鳩の姿が。
その姿に郷を重ねるアキであった。

解説(建前)

スパイナーは小型水爆並みの威力があり、東京を廃墟にするだけのパワーがあるという。
しかしそんな危険な武器の使用の決定を軍人である長官が下してよいものなのだろうか。
いくら怪獣と戦争は別だといってもここまで来ると話はそういう次元ではない。
主管の大臣を無視して長官がスパイナー使用を決定したなら憲法違反の疑いは免れないだろう。
とすると実質的にスパイナー使用を決定したのは他の機関のはずである。

そこで思い出して欲しい。
長官は参謀の耳打ちによりスパイナーの使用を決意したことを。
おそらくあの時参謀はこう言ったのだろう。
「政府からスパイナー使用の許可が下りた」若しくは「長官に全権が委任された」と。
結果、MATとウルトラマンの活躍で最悪の事態は回避されたが、スパイナーが使用されていたら相当の被害者が出たのは間違いない。
そもそもスパイナーの使用そのものが憲法違反な気もするが、大した戦果を挙げないMATが解散させられないのは(ウルトラマンをMATの一員と看做せば最高の成果を挙げていると言えるが)こうした常に市民の側に立つ姿勢が世論の支持を得ているからであろう。

しかしなぜ長官はMATを解散させようとするのか。
実はMATと防衛隊は管轄省庁が違うのかもしれない。
指揮系統的にはMATは防衛隊の指揮に従うが、組織的には警察庁かなんかの管轄で、長官にとって思う通りになる存在ではないのかもしれない。
とするとMATを解散させ自分の管轄の下、思い通りになる新しい組織を作る野望を持っていたのではないか。
ちょっと話が与太話になってきたので、この辺でやめておく。

グドンは結局ツインテールを捕食しなかった。
これはツインテールがMATシュートにより通常より大きくなってしまい、とても食べられない状態になったからではないか。
やはり元の卵のサイズが本来のサイズに近いサイズなのであろう。
あれだけ大きくなってしまうと、もはやエビのような美味は期待出来ないものと考えられる。
ところでグドンはツインテールをほぼ一噛みで倒している。
これはグドンの牙にはツインテールの息の根を止める毒のようなものが含まれているからではないか。
あるいはウルトラマンを倒した後ゆっくり食するつもりだったのかもしれない。

今回ウルトラマンはキングザウルス戦に続いて敗北を喫している。
しかし命には別状はなくそれほどダメージはなかったようだ。
これはウルトラマン自身、ギリギリの状態になる前に変身を解いたからではないか。
変身を解くにもある程度体力を必要とするため、そのタイミングを逃すと力尽きてしまうのだろう。
後、相手に攻められ続けても元に戻る隙がなく時間切れになってしまうものと考えられる。

感想(本音)

これがテレビで毎週子供向けに放映されていたという事実に愕然とする。
ウルトラシリーズとしては初代マンとセブンは越えられない壁として立ちはだかるが、映像作品としては軽々と超えてしまっている。
今見ても、いや今だからこそ余計に感動を覚える。
これを毎週見られた子供たちは今の子供たちに比べて何と精神的、芸術的に恵まれていたことか。
そしてこれらを毎日のように再放送で見られた我々三次ブーム世代が1番恵まれていたのは言うまでもないであろう。

まずウルトラマンが倒される場面。
夕日とウルトラマンが重なるシルエットが抜群に絵になる。
新マン=夕日というイメージはここが始まりであろう。
しかし上野の「地球の裏側まで逃げてくれ」は少々無責任だぞ。
そしてアキの病室の場面。
郷はアキが自分のシャツをずっと握り締めていたことを知り、MATよりもアキを優先する。
これは今までのシリーズでは前代未聞。
ヒーローが怪獣退治よりも1人の自分を思う健気な女を選ぶんだから、子供向けとはとても思えない。
この辺り、郷がヒーローというより1人の人間として描写されていることがよくわかるシーンである。
果たしてそれがウルトラマンとして正しいのかなんてどうでもいい。
人を思う心の大切さこそ重要なのである。
ウルトラシリーズでここまで直接的に愛を描いたのは始めてである(ダンとアンヌの関係は愛情と友情の入り混じったものであった。郷とアキと同列には捉えられないだろう)。

長官とMATの対決では南の隊長擁護のセリフが忘れられない。
「加藤隊長はMATの隊長に1番相応しく、尊敬できる人物です」。
あの冷静な南が食って掛かることにより、その人望の厚さが改めて窺えるシーンである。
次に夢の島でグドンにMN爆弾を撃つシーン。
なんか命中してないような気もするが、爆弾が通じず隊長。
「恐ろしい奴が現れたものだ」。
て、MN爆弾で今まで倒された敵がいたのだろうか。
もしかしてウルトラマンが活躍しないエピソードはテレビで放映されていないだけでMATは密かに戦果を挙げていた?
ちょっと気になるセリフであった。
スパイナーを決断するシーンで長官、
「日本の首都を怪獣に蹂躙されていては世界の笑いものだ」みたいなことを言っている。
これはやはり諸外国なら容赦なく水爆級の威力の爆弾を使うということだろうか。
やはり日本の事情は複雑?

本話のクライマックスは隊員たち全員がMATにもう一度チャンスをと長官に懇願するシーン。
今まで長官寄りだった岸田が遂に加藤隊長を擁護する。
ここまで岸田が長官寄りだったのは長官がおじであり、自ら長官のような出世コースを目指していたのもあるだろうが、それだけではあるまい。
元々ツインテールを巨大化させたのは岸田の調査が甘かったためである。
そこで岸田自身早くツインテールを始末したいという焦りがあったのではないか。
そのため都民の安全や街のことなど冷静に考えられなくなっていたのであろう。
また自分のミスに対して自信もなくしていた。
何処となく消極的に見えたのもその辺りに原因があるものと考えられる。
しかしそんな岸田も長官に熱く語りかける隊長を見て心の氷が解けた。
やっと自分たちがやるべきことを理解し、同時に長官からも1人立ちできたのであろう。
この瞬間岸田は人間としての成長を遂げ、MATチームの真の一員となったのである。

いよいよ決戦のシーン。
ジープのエンジンが掛からないのは後の伏線か。
合成がややちゃちいとこはあるが、それなりに迫力満点の決戦シーンとなっている。
とりわけ1人1人の隊員が銃を撃ち、手榴弾を投げるシーンはかっこいい。
泥だらけになって戦うMATチームの活躍は、今までの防衛隊とは明らかに違う組織であることを印象付け感動すら与える。
そこにこそ「帰ってきたウルトラマン」でスタッフが描きたかったものがあったのであろう。
今までは憧れのお兄ちゃんお姉ちゃん的だった防衛チームがとても身近に感じられる。
そういう雰囲気をMATは持っている。
ウルトラマンの決闘シーンは登場の音楽が「ちょっと違うぞ」だったり、グドンがツインテールを倒して優勢な音楽に変わるなどちょっと情けない。
しかしスペシウム光線でグドンがあんなに大破するんだったら早めに使えよな。
結局この前後編でスペシウム光線を出したのは一回きりだし、キングザウルス戦の光線技大安売りが嘘のようであった。

グドンの大破で話は大団円へ。
とりわけグドン大破から加藤隊長が砂煙の中現れるシーンは、このエピソードの白眉といってもいいシーンである。
もう子供向けテレビ番組とは思えない。
戦争映画か何かのラストシーンのような素晴らしい映像となっている。
そして1人1人に礼を言う隊長。
防衛隊がこれほどまでのドラマを見せてくれたのは後にも先にもこれ以外ないであろう。
実直で熱血な加藤隊長の人柄が滲み出る名シーンである。
この前後編は加藤隊長を演じた塚本信夫氏なくして成立しない。
僅か半年の出演で加藤隊長がこれほどまでのインパクトを残したのは、こういったエピソードの濃密さと塚本氏の熱演の賜物であろう。

今回は加藤隊長だけでなく、坂田もその存在感を見せ付けている。
国民を犠牲にして戦争に突入した体制に対する不満。
特に沖縄を見捨てて愚かな戦争を継続した政府に対する不満。
上原氏の代弁者たる坂田の口を通して、それらが語られているように思える。
ただし戦争と怪獣じゃ話は違うような気もするが。

第6話にして早くも頂点を迎えた感のある本話。
しかしここから失速しないのが帰りマンの凄いところ。
エースが前半で早くも頂点に達してしまい、後苦労したのとそこら辺りが違う。
とは言えこの話が帰ってきたウルトラマン前半の最重要なエピソードなのは間違いない。
ここに人間ドラマを目指したスタッフの1つの完成形を見ることが出来るであろう。
今までのシリーズとは違う物を目指し作り上げた、まさに記念碑となる作品である。


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