地球頂きます!


データ

脚本は小山内美江子。
監督は佐伯孚治。

ストーリー

パトロール中の郷。
郷は寺の境内で学校をサボって、落書きする少年を見かける。
その少年は次郎の友達の勝といい、描いている怪獣はヤメタランスという。
学校に行こうという郷に対し、勝は「お前もやっぱりママゴンの仲間だな」という。
勝の母は教育熱心でいつも勝にガミガミ説教していた。
そこへ本部から通信が。
「勤務中何処で油を売っていたんだ」と伊吹。
東京A地区に怪電波を発してる不審な落下物が観測されたので現場に行くよう指示を受ける郷。
その頃公園で休んでいる勝の付近へ小型のカプセルが落ちてきた。
勝がカプセルを開けると中にはヤメタランスが。
すると勝の顔に斑点が浮かぶ。
しゃっくりをする勝。
「ヤメタランス、お前本当にいたんだな。僕の友達になるためにどこかから来たんだな」と勝。
「僕をカプセルから出すな」とヤメタランス。
しかし勝にはそれを聞き取ることが出来なかった。
一方、郷のビハイクルにヤメタランスの声がキャッチされた。
「僕をカプセルに入れて送り返すのだ。でないと地球が大変なことになるのだ」。
怪電波を捕らえた郷はその方向へ向かう。
その頃ヤメタランスの影響で勝は怠けるのをやめて学校へ向かっていた。
「君が学校へ行くと皆に移ってしまう」とヤメタランス。
一方カプセルを発見したMAT。
郷は汚染物質が含まれてる可能性のあることから、慎重に調査するよう進言する。
それを円盤から見守る謎の宇宙人。
学校へ向かう勝。
その行きがけに出会った泥棒は泥棒をやめてしまった。
更に学校へ行った勝に感染し、教師や生徒は勉強をやめて家に帰ってしまう。
それを円盤から見て高笑いするササヒラー。
仕方なく家に帰った勝。
勝は母親に叱られるが、その最中母親も突然説教をやめてしまう。
母親の顔にも例の斑点が浮かんでいた。
そして母親は天麩羅の途中で家事を放棄したせいで台所が火事になってしまう。
しかし連絡を受けた消防隊も仕事をやめてしまった。
結婚式をやめる人、聖火ランナーをやめるランナー、働くのをやめる会社員。
病気はドンドン広まっていく。
「やめるのをやめるのだ。僕を大きくするのをやめてくれ」とヤメタランス。
人々がやめればやめるほど、ヤメタランスは巨大化していく。
それこそササヒラーの作戦であった。
警察が当てにならないことからMATに連絡が入るも、皆連絡の途中で電話をやめてしまった。
「カプセルの中に労働意欲をなくさせる病原菌が入っていたに違いない」と郷。
「そんな馬鹿な」と伊吹。
遂にヤメタランスが巨大化し街中に姿を現す。
街を破壊するヤメタランス。
MATアローが攻撃に向かう。
それを見た勝はヤメタランスに逃げるよう言う。
攻撃を受けるヤメタランス。
「撃つな、撃たないでくれ」と勝。
しかし攻撃中のMAT隊員たちも病原菌に感染してしまった。
あえなく落下するアロー。
隊員たちはパラシュートで脱出する。
「気分はどうだ!」
「最高だ!」
休日気分で降下する隊員たち。
地上で攻撃する郷と丘だったが、丘まで職場を放棄してしまう。
とうとう郷一人になってしまうMAT。
「あいつは何もしない。ただ大きくなってしまっただけだ」と勝。
「僕の体には人間を怠け者にする放射能が一杯入っている。地球人が全部怠け者になった時、宇宙人たちが攻めてくるのだ」とヤメタランス。
隊員たちを説得する郷。
しかし「俺たちが働かなくなってから攻めて来るなんて宇宙人も相当怠け者じゃないか」と南。
「ついでに宇宙人に怠け病を移してやるといい」と丘。
隊員たちは頭がおかしくなってしまって取り合わない。
少年と二人だけで戦おうとする郷。
しかし郷にも病気が移ってしまった。
一人で戦おうとする少年。
「こんなことをしていちゃいけないんだ」と郷。
それを見ていたササヒラーはあざ笑う。
「ウルトラマンがこんな風に負けてはいけないんだ」と郷。
ヤメタランスははほっておくと何でも食べてしまい、その重さで最後には地球を壊してしまうという。
「僕の手で殺してやるから死んでくれ」と勝。
「殺すなといってくれ、ウルトラマン。僕を僕の星へ返してくれ。早くしてくれ。お腹がすいてまた地球を壊してしまうのだ」。
ウルトラマンに助けを求めるヤメタランス。
ウルトラマンに変身する郷。
しかしウルトラマンも病気に感染し力が出ない。
ブレスレットでヤメタランスを小型化するウルトラマン。
「ヤメタランスを宇宙へ返してやるんだ」と勝。
小型化したヤメタランスを空に投げつけるウルトラマン。
「畜生、ウルトラマンめ」。
作戦が失敗したササヒラーは円盤で降下した。
黄色いガスを吐き、街を破壊するササヒラー。
必死に戦うウルトラマン。
ササヒラーに投げ飛ばされるウルトラマン。
そこへ正気に戻ったMAT隊員たちが援護に入る。
最後はスペシウム光線で止めを刺すウルトラマン。
ササヒラーは泡となって消えてしまった。
一つだけわからないと上野。
「どうしてあの勝という子だけが怠け病にかからなかったんだい」。
「次郎君の話じゃクラス一番のサボり屋とのことだ」と伊吹。
「怠け者が怠け病にかかり、怠けるのをヤメタランスということだ」と岸田。
パトロール中の郷。
再び境内で落書きする勝を見かける。
そこへ本部から連絡が入った。
至急本部へ帰るよう指示を受ける郷。
ビハイクルを発進させる郷。

解説(建前)

ヤメタランスは何者か。
ヤメタランスは勝の落書きと同じ姿をしていた。
これは偶然の一致であろうか。
まず考えられるのは、ヤメタランスは初めて目撃した人のイメージ通りの姿になるという性質を持っているということ。
ヤメタランスは元々病原菌みたいなもので、人が怠ければ怠けるほど成長する性質を持っていた。
そもそも実体はないという説である。

次に考えられるのは、ヤメタランスが地球に近づくにつれ、その発する電波を無意識に勝が受け取っていたという説である。
勝がいつヤメタランスを思いついたのかはわからないが、その影響を受け、あの姿を思いついたのではないか。
名前についてはササヒラーもヤメタランス自身も名乗っていなかったことから、勝が名付け親とも考えられる。
いずれとも考えられるが、やはり後者の方が自然だろう。

それでは何故ヤメタランスは巨大化するのか。
人が怠け者になるだけで巨大化するというのは物理的にかなり無理がある。
これはおそらくヤメタランスの振り撒く病原菌によるのであろう。
病原菌は人に感染すると、数が増加する。
増えた病原菌は再びヤメタランスに吸収され、それが大気か何かと化合し物質化するのだ。

しかしヤメタランスは放射能の影響で人が怠け者になるといっていた。
それとの整合性はどうなるであろうか。
これは病原菌と放射能は別ということであろう。
すなわち病原菌はヤメタランスの放射する放射能に反応して活動する。
したがって、ヤメタランスさえいなければ病原菌は活動をやめ、怠け病も収まるのであろう。
病原菌そのものは人間の免疫によりそのうち駆逐されるものと考えられる。
仮に潜伏するとしても、ヤメタランスの放射能さえなければ無害であろう。

感想(本音)

帰ってきたウルトラマン、いやウルトラシリーズ屈指の異色作である。
正直、子供心にインパクトの薄かった最終クールにおいて、この作品のインパクトだけは飛びぬけていた。
大人になりこの脚本があの金八シリーズで有名な小山内美江子氏ということを知り更に驚いたが、社会的であり、教育的でもある本エピソードはまさに氏の真骨頂ともいえるであろう。
その影響は後世にも残り、ウルトラマンマックスの宇宙化猫の話やモエタランガの話にその影響を見ることが出来る。

この作品のテーマは色々あるが、一つに働きすぎの日本人に対するアンチテーゼというものがあるだろう。
普段怠け者の勝だけが最後まで正気を保っていた。
裏を返せば、勝以外の日本人は普段頑張りすぎなのである。
この作品が作られた当時、日本は高度成長を終え公害などその歪みが社会問題になりつつあった。
経済成長一辺倒の考え方が見直しを迫られていたのである。
泥棒やそれを捕まえる警察でさえ仕事を放棄する姿に、もう少し大らかに生きましょうという氏のメッセージが感じられる。

もう一つのテーマはやはり教育問題。
一つ目のテーマと共通するが、教育ママの存在に代表されるようにこの頃からこどもたちの間に受験競争が徐々に激しくなっていた。
いい大学に行くことが全てであるという風潮が徐々に強まっていたのである。
受験競争が本格化するのはもう少し後の時代だと思われるが、金八先生でも東大受験に失敗した浅井雪乃の兄が自殺するというエピソードを氏は描いており、教育をライフワークにする氏の問題意識が既に現れていたという点、興味深い。

脚本を見ると本エピソードの問題意識はシリアスなものがあるが、完成作品を見ると完全にギャグ編に仕上がっており、このようなテーマをコミカルに仕上げた小山内氏の手腕はさすがである。
そしてそれに応えて見事な演出を見せた佐伯、真野田の両監督。
特にMAT隊員たちがゲラゲラ笑いながらブランコで遊んでるシーンは、このエピソードのクライマックスとでもいっていい名(迷)シーンであった。
こどもが見たらトラウマになりかねないくらい、行っちゃってる隊員たち。
それに合わせていつもの勇ましいMATのテーマのテンポまでもおかしくなっており、最後に元のテンポに戻るまで息をつかせない秀逸な演出である。

一方郷も遂にヤメタランスの怠け病に感染してしまう。
ウルトラマンとしての耐性をもってしても感染してしまう怠け菌の凄さ。
ブレスレットがなかったらどうなってたかと思うと、ヤメタランスはシリーズ屈指の強敵と言っても過言ではないであろう。
しかし、怠け病と戦う郷の描写もなかなか楽しかった。
「ウルトラマンがこんな風に負けてはいけないんだ」。
郷とウルトラマンの意識もかなりシンクロしてきてるようである。

今回、やはり勝を演じた少年の演技力も特筆される。
本エピソードは完全に勝主役のエピソードであるので、その演技力が作品の成否に決定的に重要であった。
その点、少年はよくそれに応えていたと思う。
一方次郎君の登場は学校でのワンシーンのみ。
これも本作品にしては珍しい扱いであろう。
ルミ子さんはさすがに話しに絡ませることは出来なかったようだ。

ササヒラーは最後に姿を現し暴れるという、こちらもいつもの宇宙人とは違う描かれ方。
正直、ウルトラマンに生身で挑むのは無謀な気がするが、それはシリーズでのお約束なので仕方あるまい。
しかしササヒラーはなぜウルトラマンが郷であることを知っていたのであろうか。
これは密かに調査活動でもしてたのか、誰かから聞いたのか。
もしかすると、ゴロツキ宇宙人組合というのがあって、そこから情報を得ていたのかもしれない。
ササヒラーが船内で地球の様子を見て高笑いするというのは、なかなかに悪辣でよかった。
因みにササヒラーは小山内氏の本名笹平から来てるらしい。

本エピソードは全編ギャグ編という点異色作であるが、主役が少年であり、教育問題を絡めている点、やはり小山内氏の個性がよく出た脚本である。
小山内氏はウルトラQ最終回「あけてくれ」を執筆するなど意外にウルトラシリーズとの関わりが深い人だが、本来は金八先生に見られるように社会派のライターであり、ファンタジーとはやや路線を異にするように思われる。
ただ金八先生でも脇になる生徒の日常のエピソードを細かく描いていたようにこういう単発物の脚本は得意としており、ドラマ重視を掲げている新マンとの相性は良かったというべきであろう。

本エピソードはヤメタランスという怪獣の特異さ、ササヒラーの侵略作戦のユニークさ、そしてそれに伴う市民のドタバタ劇がどうしても印象に残ってしまうが、やはり本質的には勝のドラマである。
小山内氏は怠け者の自分の息子をモデルに本エピソードを書いたということだが、その目線はそれに対する批判というより、むしろ愛に包まれている。
最後、元に戻った勝は再び境内で怪獣の落書きをしていた。
学校をサボる勝に対し、むしろ世間の意見に惑わされない逞しさを見ていたのではないか。

学校をサボることが即引きこもりに繋がってしまう昨今。
今の時代こそ、こういう大らかな気持ちが必要なのではないか。
ゆとり教育という名ばかりの自由ではなく、学校へ行かなくて良いという真の自由。
もちろんそれでは社会に出たときに困ってしまうが、それは大人になるにつれ分かっていくものである。
不登校が増えていくばかりの現代社会。
学校の息苦しさはむしろこの作品が描かれていた当時よりも酷くなっているのかもしれない。
そしてそれは学校だけの問題というより、真面目で大人しい子供が生きにくい現代社会の問題であるように私は思う。


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