データ 脚本は石堂淑朗。 監督は佐伯孚治。 ストーリー 空をパトロールする隊員たち。 定時連絡を取る丘。 「他の隊員は毎日定期的にパトロールに出かける。それが息抜きにもなっているのだが、その点丘くんは気の毒だな」と伊吹。 普通の家庭でも女性は家を守るものだと丘。 しかし伊吹は「一日中計器をにらんでるのも体のためによくないな。君のために何か特別なレクリエーションを考えてやらないと」と言う。 その頃郷と南を乗せたアローに異常が発生した。 本部に異常を連絡しようとする郷と南。 しかし丘が通信を切っていたせいで回線が繋がらない。 操縦不能になったアローから脱出する二人。 岸田と上野も本部に連絡を取るが繋がらない。 丘自身、何故そんなミスをしたかわからないという。 上野と丘を残し行方不明になった2人を捜索に出る伊吹と岸田。 しかし2人の消息は掴めなかった。 日が暮れて本部に戻ろうとする2人。 しかしそのとき2人のアローは旅客機とニアミスを起こす。 本部のレーダーが切れていたことがニアミスの原因だった。 基地に戻り原因を追究する伊吹。 上野は自ら計器のスイッチに手が届かないことを実証し、丘が犯人であることが判明する。 丘に一ヶ月の休暇を言い渡す伊吹。 休暇を出された丘は街を彷徨う。 3人になってしまったMATの下へ警視庁から連絡が入る。 怪獣が房総のコンビナート地帯に出現したとのことだった。 3人で出撃するMAT。 炎を吐きコンビナートを破壊する怪獣。 伊吹は3人のうち2人がやられたら本部に帰るように指示する。 残った1人が郷、南と合流して体制をたて直すためだ。 しかし怪獣はアローの攻撃により姿を消した。 基地で祝杯を上げる3人。 人手不足から、丘を呼び戻すよう進言する岸田。 しかし伊吹は丘から何も連絡のないことを不思議に思う。 上野も「責任感の強い彼女なら少なくとも連絡をしてくるはずだ」という。 不吉なものを感じる3人。 「テレビやラジオで怪獣が出現したことは何処にいてもわかるはず。当然彼女も知っているはずだ。もし生きていればな」と伊吹。 丘が自殺をしていないか、家に連絡する伊吹。 しかし丘はまだ家に帰ってなかった。 そこへ帰ってくる丘。 母親によると、丘はお酒を飲んで帰ってきたとのこと。 一安心する3人。 地下のバーででも飲んでたのだろうと伊吹。 帰ってきた丘から石油の臭いがすることを不審に思う母親。 新宿を歩いていたらいつの間にか家の前に来ていたと丘。 一方MAT基地ではトランプを使い誰が本部に残るかを決めていた。 トランプを破り捨てる岸田。 「隊長はせめて若い2人のうちどちらかを残そうと思っておいでなのでしょう。それこそ個人的感情を主にしすぎた考えです」と岸田。 「もし死ぬなら私たちが先です。隊長が残っていればすぐ次代のMATチームが編成できます。しかし私たち若造にはそんな指揮力はありません」と上野。 結局3人は一緒に出撃することにする。 その頃郷と南は伊豆から房総に泳ぎ着いていた。 そこへ現れる怪獣。 一方丘家では丘が石油の匂いのするシャツを残し姿を消していた。 空から怪獣を攻撃するアロー。 しかし上野のアローは炎に巻かれ炎上してしまう。 ウルトラマンに変身する郷。 ウルトラマンはアローをキャッチし上野を救出。 フェミゴンと格闘するウルトラマン。 背中の棘に刺さり苦戦するウルトラマン。 さらにフェミゴンはウルトラマンの頭部に噛み付いた。 ウルトラマンのカラータイマーが鳴る。 海の中へ逃げるフェミゴン。 それを追って海へ入るウルトラマン。 フェミゴンはMATの海底本部へ向かっていたのだ。 水中で戦うウルトラマン。 頬の袋をもぎ取るウルトラマン。 さらにブレスレットを投げつける。 怪獣は爆破しそこから人魂が抜け出た。 するとその人魂が丘に変わる。 隊員たちに助けられる丘。 宇宙怪獣が乗り移ったんだと伊吹。 海の中から現れる郷。 郷の隊員服の中には大量の魚が捕獲されていた。 それを焼いて食べる隊員たち。 火に当たる郷と丘。 解説(建前) フェミゴンは何者か。 丘に乗り移ってMATを混乱に陥れようとしていることから、それなりの知能は感じられる。 ただコンビナートで暴れたりMATの海底基地を襲ったり、狙いが今ひとつよくわからない。 これはやはりフェミゴン自身があまりよく考えず行動してるためであろう。 すなわちフェミゴン自身はよく飼いならされた犬みたいな怪獣若しくはロボット怪獣で、背後にそれを操る者、送り込んだ者がいると考えられる。 それではいつフェミゴンはMATに忍び込んだのか。 フェミゴンは人魂サイズに姿を変えられるようなので、丘がMAT基地内で眠っている時にでも憑依したのであろう。 では何故そこでフェミゴンは巨大化しなかったのか。 フェミゴンは倒された時、人魂が本体から分離した。 実はフェミゴンの本体と魂は別物なのではないか。 フェミゴンが房総のコンビナートにばかり出現したのはその辺りに本体が隠されてたものと考えられる。 丘は何故フェミゴンが倒されても無事だったのか。 これもフェミゴンの本体と魂が別なことによるのだろう。 例えるなら魂がパイロットで、本体がモビールスーツといったところか。 結局フェミゴンの本体は倒されても魂は無事だった。 しかし魂だけとなってはどうしようもないので、丘と地上で分離し宇宙へ帰って行ったのだろう。 郷と南のアローが墜落したのは何故か。 郷は故障と言っていたが、計器に異常は見られなかった。 単純な整備ミスとも考えられるが、それではあまりにタイミングが良すぎる。 これはやはり気流に巻き込まれたと見るのが妥当であろう。 やはり丘がレーダーを切ったことにより生じた事故と考えるのが良さそうである。 郷と南は何故一昼夜泳ぎ続けることが出来たのか。 これはおそらくMATの制服に秘密があるのだろう。 すなわちあの制服には微妙な浮力が働くような設計がなされていた。 と同時にある程度の体温低下も防ぐような仕組みもあったのだろう。 後は2人の並外れた体力で潮の流れに従って泳いで来たものと考えられる。 感想(本音) 突っ込みどころ満載な話。 それでも前回ほど違和感がないのは、演出の面白さと脚本の破天荒さにあるだろう。 もはやウルトラマンではないその雰囲気とタイトル。 子供心に違和感バリバリで見ていた記憶がある。 まず前述したがタイトルからして異色である。 「狙われた女」って…。 もはや土曜ワイド劇場としか思えない。 そして全体に漂うアダルトな雰囲気。 しかし勤務中にジョニ黒なんか飲んでいいのだろうか。 完全に飲酒運転だと思うのだが。 今回は「民家に落としたら大変だ」とか「怪獣を退治するのが国民に対する義務だ」とか、妙に一般人に配慮したセリフが多い。 今まで無神経にアローを墜落させてきた反省かもしれないが、ちょっと珍しかった。 またMATが全滅した場合のことを考えたり、女性隊員の精神面に配慮したり、今まで描かれなかったことが問題として取り上げられていた。 しかしMATの隊員は何故あんなに少数なのだろうか。 通信員らしき隊員や整備員は時々登場するが、戦闘員は彼ら以外登場しない。 危険な仕事なのでやりたがる者が少ないとも考えられるが、あれだけ怪獣や宇宙人が現れる世界でそれは不自然。 現にこどもたちは皆MATに憧れているし。 これはやはりMATの戦闘員の採用自体が少ないものと考えられる。 上層部としては、ウルトラマンがいてくれればそんなに大勢戦闘員を抱える必要はないとの判断なのだろう。 今回は47話にして初の丘隊員主演話。 まあ怪獣にされてしまう主演というのも何なんだけど、普段とは違う面が多々見られたのでそれはそれで良しとしよう。 まず印象に残ったのが新宿を彷徨うシーン。 単に彷徨う姿を撮影するだけでなく、印象的なカットを挿入するスタイリッシュな映像だった。 そして酒を飲んで家に帰ってくるアンニュイなシーン。 この辺りのシーンはエース第4話の美川隊員と双璧をなすアダルトさを醸し出している。 丘隊員を演じた桂木美加さんの魅力の賜物であろう。 元々丘隊員はアキの恋敵として考えられてたという。 ただその役割は早い段階で否定され、それ以降はただの女性隊員として扱われてきた。 その結果ウルトラシリーズの中でも比較的不遇な女性隊員となってしまったが、最後にこのような印象に残るエピソードの主演が回ってきたのは良かったと思う。 おまけにメビウスでは続編も作られたしね。 大全でも書かれていたが、石堂脚本では丘隊員の出番はかなり多い。 プロデューサーの指示かもしれないが、「暗黒怪獣星を吐け」や「夜を蹴散らせ」など丘隊員が目立ってる話は大抵この人の脚本だ。 やはり石堂氏のお気に入りと考えるのが妥当であろう。 榊原るみはスケジュール的に石堂脚本での出番はほとんどなかったが、石堂氏自身も清純派のアキよりは大人っぽい丘の方が脚本を書きやすかったのではないか。 今回は演出もさることながら、とても子ども向けとは思えないストーリーになっている。 今回何と言っても特筆すべきは隊員のノイローゼ及び自殺を取り上げたことにあろう。 丘のミスはフェミゴンの仕業で実際はノイローゼではなかったのだが、この作品の隠れたテーマに隊員の精神的な負担というものはあったと思う。 それは伊吹が丘に「何かレクレーションを考えないと」と言ってることからも窺われる。 そして隊員が自殺したかもしれないというショッキングなシチュエーション。 伊吹隊長が思わず口を塞いでしまう演出がその深刻さを強調していた。 結果は肩透かしに終わったが、どこかの地下のバーで飲んでいたとか、子どもは完全に置き去りである。 また今回は女性と男性の役割について丘に言及させている。 これは石堂氏が当時のフェミニズム運動を快く思っていなかったからだと思われるが、丘は通信員としては立派に仕事をしており、いざという時は本部を防衛する任務を負わされてるのだから、一概に女性蔑視とはいえないであろう。 私自身も女性蔑視には反対で男女平等は当然だと思っているが、それは別に男女が同じことをするという意味ではなく、性差に基づく役割分担は必要だと思う。 もちろん現実に差別が行われている以上少し行き過ぎくらいで丁度いいのかもしれないが、最終的には役割分担も加味した平等へと向かってくれるといいと考えている。 長々と丘隊員について語ってきたが、今回は岸田、上野もいい役を貰っていた。 「隊長より先に死にます」という覚悟は隊員の鏡ともいうべき態度であろう。 一方郷と南は今回は完全に脇役。 制服にタコや魚が入っていたりと、完全にコメディリリーフである。 ただ現場で付け加えたというラストのシーンはなかなか和やかで良かった。 正直フェミゴンはよくわからない怪獣だったが、ここまで隊員たちの様々な面を描いたというのは評価してよいだろう。 今回は久々にMAT基地が海底にあるという設定を生かしていた。 しかし飛行機の発着場はどう考えても地上にあり、相変わらずMAT基地の構造は謎である。 水中からアローが発信する映像を作るのが面倒だったのかもしれないが、TACスペースのように水中から現れるシーンも作って欲しかった。 まあ、そもそも水中から飛行機が浮上する方がおかしいのですが。 今回気になったのはやはり最後のフェミゴンとウルトラマンが海に潜るシーンのちゃちさ。 本物の海を使っているのだろうが、返ってスケール感のなさが目立ってしまった。 ある意味ウルトラファイト的というか。 やはりああいうシーンはスタジオでしっかり撮影した方がいいと思う。 なんかあのシーンだけ8ミリの自主制作映画みたいに感じられた。 今回の話は正直子どもが見てもよくわからない、シリーズでも屈指の異色作の一本であろう。 私も子どもの頃このエピソードを「この一撃に怒りをこめて」と同じ番組とはとても思えなかった。 確かにストーリーは石堂脚本らしく荒唐無稽で、説明に苦しむシーンが続出する。 しかしそれを補って余りあるドラマが描かれていたのもまた事実である。 今回で石堂氏の「帰ってきたウルトラマン」における脚本はラスト。 氏については批判も多いが、これだけ多くの脚本を任されたというのはやはりスタッフから信頼されていた証であろう。 他に頼れる作家がいなかったのもあるだろうが、ウルトラの屋台骨を支えた貢献は評価せねばなるまい。 確かにウルトラへの愛着を感じさせない言動や脚本は気にはなる。 しかし逆にそれがないからこその破天荒な脚本は、作品の幅を広げるという点ではプラスに作用していた。 私自身この「狙われた女」はMATを格好良く描いており、丘隊員の魅力も引き出せていることから、かなりお気に入りのエピソードである。 |