この一撃に怒りをこめて


データ

脚本は田口成光。
監督は鍛治昇。

ストーリー

紙芝居をする老人に群がるこどもたち。
その紙芝居は怪獣レッドキラーをMATが倒すというストーリーであった。
ウルトラマンが登場しないことに文句を言うこどもたち。
「ウルトラマンなんて宇宙人じゃないか。地球を守るのに宇宙人の助けを借りるのは駄目だよ」と老人。
納得するこどもたち。
紙芝居が終わり家路につくこどもたち。
しかし1人だけその場に残った少年がいた。
その少年は徹といい、両親が共働きのため家に帰っても誰もいなかったのだ。
MATを見せてあげると言葉巧みに誘い出す老人。
そこへ通りかかるMATビハイクル。
それを見て徹は喜ぶが、老人はいきなり徹をビハイクルの前に突き落とした。
急ブレーキを踏む郷。
寸でのところで難を逃れるが、老人がMATがこどもを轢いたと騒ぎ立てる。
その場にいた住民たちも老人に同調する。
MATは事の真偽を調査するが、目撃者が紙芝居屋の老人だけであり、郷に不利な証言しか出てこない。
自ら調査を志願した郷と同行し、目撃者の老人に会いに行く伊吹。
しかし老人はこの目で見たと引き下がらない。
それどころかこのような隊員はMATに必要ないと郷の処分も要求する。
やむなく伊吹から任務を離れるように言われる郷。
郷は真実を調べるため目撃者の徹の見舞いへ行く。
当分奴はMATの仕事が出来ないとほくそえむ老人。
老人は通信機を使い、ズール星と連絡を取る。
母星の上官からレッドキラーを出現させ、MATにわざと負けさせるよう指示を受ける老人。
「これでますますウルトラマンは邪魔者になってくる」と老人。
老人が装置を起動させると怪獣レッドキラーが現れた。
レッドキラーは手についたブームランで街を破壊する。
ロケット弾で空から攻撃するMAT。
一方徹の見舞いに来た郷は徹がうなされてるのに気づき、看護婦を呼ぶ。
そこへ怪獣が出たと次郎がやってくる。
次郎によると怪獣は紙芝居に出てきたレッドキラーだという。
スーパーカノンを使用するMAT。
スーパーカノンは原子爆弾と同じ破壊力でかつ放射能が出ないという優れものだ。
シルバーカノンを放射するMAT。
その光線を浴びた怪獣は消滅した。
喜ぶ隊員たちだが、伊吹は不審に思う。
「非常に上手く作戦は進んでる。この調子だと奴はウルトラマンに変身しない。ウルトラマンにならなければ奴は恐ろしくない。お前の姿を見た少年と奴を殺してしまえ」と母星から指示を受ける老人。
再び姿を現すレッドキラーは郷のいる病院の方角へ向かう。
病院では患者たちが避難していたが、徹の回復を待つ郷はそこに留まっていた。
そこへ来た次郎は「早く行って怪獣と戦ってよ」と郷に頼む。
それに対し「MATの仕事をしてはいけないんだ。MATの仕事をしていいかは徹君だけが知っている」と答える郷。
一方MATは再びスーパーカノンを使用するが今度は通用しなかった。
病院へ向かう怪獣。
「馬鹿な人間どもだ。我々ズール星人が連れてきた怪獣がそんなに簡単に倒せると思うのか」と老人。
徹を連れて病院を脱出する郷。
すると落ちた瓦礫のショックで徹が意識を取り戻した。
「紙芝居のおじさんを捕まえてくれた」と徹。
紙芝居屋の老人の企みに気づき、郷を戦列に戻す伊吹。
紙芝居屋の老人を見つけた郷は狙撃しようとする。
岸田はそれを制止するが、郷に事情を聞いて自ら老人を狙撃。
すると老人は星人の正体を現し息絶えた。
レッドキラーのブーメランに捕まり変身する郷。
ウルトラマンはレッドキラーのブーメラン攻撃に苦戦する。
ブレスレットを変形させブーメランをキャッチするウルトラマン。
最後はブーメランでレッドキラーの体を切り裂き勝利した。
ウルトラマンのお面をつけて遊ぶ次郎と徹。
そこへ現れた郷。
また紙芝居が見たいかと郷。
また怪獣が出たらどうするんだと次郎に言われ、今度はウルトラマンが出てくるやつを見るんだと徹。

解説(建前)

ズール星人は何故作戦を子どもたちにばらすようなことをしたのか。
まず考えられるのは一種の洗脳作戦。
紙芝居と同じ事件を現実に見せることにより、MATの強さとウルトラマンの不必要さを印象付けようとした。
特にウルトラマンの存在をこどもたちに否定させることにより、ウルトラマンの地球での活動の正当性を奪うことに主眼があったのではないかと思われる。
ただし結局MATはレッドキラーに敗れるのでこの説はかなり苦しい。

次に考えられるのはむしろMATを貶めること。
すなわち一度持ち上げといて落とすことにより、子どもたちにショックを与えMATへの信頼を貶めようとした。
これなら郷が徹を轢いたと騒ぎ立ててMATの評判を落とそうとした行為とも整合する。
MATの評判を落とし、郷もMATで活動できなくさせる。
狙いは案外深いところにあるのかもしれない。

以上より紙芝居はむしろ子どもたちを絶望させるためのものと考えるのが妥当である。
さらに子どもたちを誘い出し、郷の車の前に突き落とすことも作戦の内に入っていたのであろう。
結局紙芝居は精神的なものがメインで、実際は郷をレッドキラーを使い物理的に攻撃するつもりだったものと考えられる。
星人が徹を襲うとき正体を見せてしまったのは単なるミス、誤算だったと解釈しておこう。

感想(本音)

作戦の整合性を合わせるのが困難な話。
あまりにも脚本が練り込み不足だと思う。
ウルトラマンに頼らずMATが地球を守るべきという問題意識を盛り込んだのはいいが、あまりにも消化不良なのでほぼ無意味。
子ども心にストーリーの印象は残っておらず、レッドキラーのブーメランだけが印象に残っている。

今回の作戦は意味がよくわからなかったが、要は郷とウルトラマンを追い込みたかったのであろう。
ただ郷は一応MAT隊員なのでそこに矛盾が生じた。
おまけにMATもすぐリベンジされたので、結局わけがわからなくなったのだと思う。
せめてズール星人が正義の味方の振りしてレッドキラーを倒すとかすればよかったのだが。
それならウルトラマン不要論も正当性を持ちえるはずなので。

今回は話の鍵となる徹君の演技も残念だった。
まだかなり幼い感じなので演技力を望むのは酷だが、あの台詞回しはさすがに酷い。
味があるともいえるが、今までの子役ゲストの演技がそれなりにレベルが高かったのでやはり気になった。
他にもエキストラで子役は一杯出てたわけだし、彼が選ばれたのは正直不思議。

レッドキラーの最後は自ら投げたブーメランを新マンに利用され、切断されるというかなり残酷なもの。
最近のシリーズでは到底不可能だろうが、昔であっても映像がもっとリアルなら不可能だと思う。
昔の特撮は露骨に着ぐるみが爆発したり、切断されたりしてたのでそれほど残酷さは感じなかった。
もっと生々しく血が流れたり、リアルに内臓が飛び出したりしたら、それは問題だろう。

最近はCGが発達して昔なら不可能な表現なども可能になった。
しかしあまり行き過ぎると子どもに悪影響があるのではないか。
昔はウルトラマンの飛び人形は言うに及ばず、子どもの目からもかなりちゃちいシーンが多々見られた。
逆にそれが現実と作り物の境界を意識させたのだが、最近のリアルな特撮を見てるとその辺りやや心配になる。
と言ってもある程度年齢がいくとわかることだから、問題ないのかもしれないが。

今回は次郎君の出番が結構多い。
その代わりルミ子さんの出番はなかった。
話が紙芝居屋中心では致し方ないが、顔見せくらいはした方が良かったのでは。
その辺り、田口氏の志向というか、個性というか。
児童文学に興味があったという田口氏ならではである。

と、ここまで批判ばかりなので良かった点も少し。
今回伊吹や他の隊員たちは郷に対して同情的であった。
これは事故の様子から郷が子どもを轢いていないことが明らかだったということもあろうが、それだけ郷が皆から信頼されているという証だろう。
初期なら郷が犯人にされていただろうので、郷がMATに如何に溶け込んでるかよくわかる場面である。
また岸田は郷の「紙芝居屋が宇宙人である」という説明をすぐに信じ、自ら銃撃している。
これはこれで逆に問題ある気もするが、郷への信頼所以であろう。

そして今回は伊吹隊長の郷への信頼がよく描けていた。
この辺り、「悪魔と天使の間に」や「怪獣使いと少年」などとのつながりが考慮されていて良い。
初期の田口脚本では隊長や隊員との絆がイマイチ表現されていなかったので、その辺り今回はかなり改善された印象がある。
特に伊吹は郷を信じていると言ったり、誤解が解けると直ぐ郷を戦列に戻したりと、郷の正体をあたかも知ってるかのようにも見え興味深いところである。

今回出てきたMATの原爆並みの威力というスーパーカノン。
なんか最初はエースバリヤーみたいな感じもしたが、その言葉に偽りがないなら怪獣退治の切り札となるべき武器であろう。
ただしレッドキラーには通用せず、星人に一笑に付されているところを見ると、看板に偽りありと言わざるを得ないだろう。
以後登場しなかった点からも、推して知るべしである。

レッドキラーの両手にブーメランというデザインは両手がノコギリだったグロンケンの系統に属する。
こちらはズール星から連れて来たということで、間違いなく怪獣兵器の類だろうが。
郷がブーメランに乗って変身するというのはかなり無茶だが、個人的にはレッドキラーはキャラが立っており、なかなかお気に入りの怪獣だ。
ところで本編ではレッドキラーはレッドギラーと言われているが、本当はどちらが正しいのだろう。

今回はさすがに脚本的には誉められたものではない。
むしろウルトラマン不要論を全面に展開した方がよかったのではないかと思えるが、それはそれで難しそうなので結局中途半端にならざるを得なかったのであろう。
ただ久々に罠に嵌められる郷を描いた点は評価できる。
すなわち、「悪魔と天使の間に」ではまだ郷への信頼は半々くらいであったのが、今回は皆一様に郷を信じている。
終盤にこのようなエピソードを入れることにより、郷がMATの仲間から信頼を得ていくというテーマに決着をつけた点、それなりの意義はあったのではないか。
見落とされがちだがその辺り、一定の評価はすべきであろう。


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