データ 脚本は上原正三。 監督は富田義治。 ストーリー 宇宙電波研究所を見学するこどもたち。 「こどもたちの目を少しでも宇宙に向けさせ、宇宙の知識を増やすことが出来ればと考えております」。 しかしお礼を言うこどもたちを見送ると、所長の顔つきが変わる。 「我々の目的を成功させるためにはどうしてもウルトラマンが邪魔だ。ウルトラマンの能力を試すのに一番適した怪獣を選出せよ」。 部下の研究員に指示する所長。 コンピューターによりシーゴラスとベムスターが選ばれた。 研究所のモニター画面に映る郷秀樹。 「ウルトラマンは人間と同じ情操を持っている。郷秀樹は人間であって人間でなく宇宙人であって宇宙人でもない。不思議な奴だ」。 郷はビハイクルに坂田の開発したスタビライザーを取り付ける手伝いをしていた。 試運転に向かう郷に一緒に乗せて欲しいと頼むアキ。 郷は仕事中だと断るが、その代わり正月休みに一緒にスキーに行こうと約束する。 喜ぶアキ。 その時郷の腕時計のバンドが切れた。 バンドの取換えをして来てあげるとアキ。 郷はMATから召集を受け、高性能火薬サターンZの輸送計画を知らされる。 サターンZはミサイル用液化火薬として開発されたが、平和利用として国土開発に使われるという。 中央連山を爆破し灌漑用ダムを作るという計画だ。 その時東京湾にシーゴラス出現の情報が。 津波に襲われる東京。 避難を誘導するMAT隊員たち。 シーゴラスを攻撃するMAT。 郷はウルトラマンに変身する。 ウルトラマンは腕を十字に組んで回転。 それにより貯めたエネルギーを津波にぶつけ、東京湾の津波を静めた。 上陸したシーゴラスと戦うウルトラマン。 スペシウム光線でシーゴラスの角を破壊する。 しかしシーゴラスはいつの間にか消え去りベムスターが現れた。 ウルトラマンはウルトラブレスレットを使いベムスターを退治する。 ウルトラマンの戦いから能力を分析する所長。 「予想以上の能力を持っている。これではブラックキングでも勝てる保証はない。もう一つウルトラマンの弱点を見つける必要がある」。 一方郷は、ウルトラマンの能力を検査するように怪獣が現れたことに疑問を抱く。 サターンZ輸送の計画がいよいよ始まった。 サターンZは車を使い地上から輸送。 その上空には隊長機が周りをパトロールしていた。 「郷。恋人元気かい。とぼけるなよ。アキちゃんて言ったっけな。彼女、いいカミさんになるぜ」と南。 「俺もそう思います」と郷。 その時怪獣が山から現れた。 怪獣は白い煙を吐き、周りの視界が悪くなる。 その隙に輸送車が乗っ取られた。 郷は輸送車を奪った宇宙人の顔を目撃する。 伊吹は空から輸送車を追うも、黒煙に包まれ見失ってしまった。 「宇宙人の仕業です」と郷。 ウルトラマンを研究されたことを知り警戒する郷。 一方研究所ではウルトラマン攻略の作戦が練られていた。 「これでMATは怖くない。あとはウルトラマンをどう倒すかだ」。 所長はアキの写真に目をつけ、郷の心理をかく乱するためアキを殺害する計画を立てる。 郷の時計のバンドを取換えにデパートに行ったアキ。 しかし、その帰り道に何者かに拉致されてしまった。 「おにいさーん」。 助けを呼ぶアキ。 そこへ飛び出した坂田だったが、加速する車に撥ね飛ばされてしまう。 一方アキも車に引きずられ瀕死の重傷を負う。 連絡を聞き駆けつけた郷だったが坂田は既に亡くなっていた。 医者によると悪質な轢き逃げだという。 目撃者によると故意に轢いたとのことである。 アキに犯人を尋ねる郷。 アキは「宇宙人」とだけ言う。 「正月にはスキーに行くんだろ。元気を出せ」と郷。 直した時計を渡そうとするアキ。 しかしそこでアキの命は尽きてしまった。 「郷の心は嵐の海のごとく荒れ狂ってる。今なら勝てる。ブラックキングを出せ」と所長。 次郎に「大人しく待っているんだぞ」と言い残し病室を出る郷。 病院の屋上に上った郷は、そこから飛び降りてウルトラマンに変身する。 ブラックキングに対して地上から攻撃するMAT。 そこへウルトラマンがやってきた。 スペシウム光線を浴びせるウルトラマン。 しかしブラックキングには通用しない。 「やはりそうだ。私の技を研究し、私を倒すため訓練されているが、負けないぞ。必ず坂田兄弟の復讐をしてやる」。 しかし頼みのブレスレットも弾き返されてしまった。 そこへ所長がナックル星人として巨大化して襲い掛かる。 ブラックキングとナックル星人に挟撃され苦戦するウルトラマン。 カラータイマーが点滅する。 「太陽エネルギーをくれ。頼む。太陽エネルギーをくれ。私はここで倒れるわけにいかないのだ」。 ウルトラマンを援護するMAT。 しかしウルトラマンにもう立ち上がる力は残っていなかった。 ウルトラマンの敗北を悟るMAT隊員たち。 ナックル星人は動けなくなったウルトラマンを宇宙船に縛りつけ、宇宙へ輸送する。 「ウルトラマンはナックル星人の手で葬った。ウルトラマンは死んだ」。 漆黒の宇宙へ移送されるウルトラマン。 この無限の闇がウルトラマンの墓場となるのだろうか。 解説(建前) シーゴラスとベムスターは何者か。 まずシーゴラス。 以前現れたシーゴラスはウルトラマンに倒されていないため同一個体とも考えられるが、角が再生されている点、及び西イリアンから来たにしては早すぎる点からも別個体と考えるのが妥当であろう。 また天然の別個体というのも考えづらいので、やはりこれはナックル星人が用意した再生怪獣と考えるのが素直である。 おそらくクローン技術などを応用したサイボーグ的怪獣なのだろう。 一方ベムスター。 こちらは宇宙怪獣なので別個体を連れてきたという解釈も可能であるが、シーゴラス同様再生怪獣と考えるのが素直である。 それでは何故ベムスターはシーゴラスに変わり突然現れたか。 おそらくこれらの怪獣はセブンのカプセル怪獣同様、普段は小型化され収納されているのであろう。 そしてシーゴラスがスペシウム光線とキックを浴びたことからそのデータを採るため呼び戻された。 そのため、怪獣が急に入れ代わったように見えたのである。 また、宇宙電波研究所はかなり以前から東京に作られていた節がある。 シーゴラスやベムスターの細胞なども以前に採集し、再生怪獣を作っていたのではないか。 2匹を選出したことから、あと数匹別怪獣が用意されていたとも考えられる。 何故ウルトラブレスレットに威力がなかったのか。 以前も述べたが、ウルトラブレスレットはウルトラマンの超能力に反応する性質を持つ。 すなわち、ランスやクロスなどの変形や威力のあるスパーク。 今回の場合、ウルトラマンはあまりにも逆上し冷静さを欠いていた。 そのため、スパークの威力がいつもより半減していたのだろう。 また、夕陽でエネルギーが少ない点も心理的に焦りを生み出したのではないか。 ウルトラマンが変身を解除せず倒されたのは何故か。 これも冷静な判断を欠き、解除する機会を失ったというのが真相であろう。 また、ナックルとブラックキングの間髪入れない攻撃にその隙がなかったとも考えられる。 あるいは途中で意識を失っていたとも考えられるが、いずれにせよエネルギーが切れてしまい、体が動かなくなったのであろう。 ただし、完全に死んだというわけではなく、重篤な状態に陥っていたものと思われる。 感想(本音) 一言で言い表すのが難しい話。 それだけインパクトもあり、重要性もある。 まず1番に驚くのが坂田兄妹を惨殺してまで目的を遂げようとするナックル星人の悪辣さ。 子供向けヒーロー番組としてはまさに掟破りなその所業は、ある意味伝説レベルにまでなっている。 私も子供の頃そのあまりな展開に事態が飲み込めず、その後も坂田兄妹は入院するなり療養するなりで出てこないだけかと思ってました。 話の展開は意外に突っ込みどころが多い。 例えばシーゴラスとベムスター。 これらは完全に以前のフィルムの使いまわし。 ただ、ビデオというものが普及してない当時としては、今ほど露骨さはないだろう。 新マンのカラータイマーが赤になったり青になったり、ブレスレットがあったりなかったり、当時としては気をつけないとわからないレベルなので、時代の違いということでスルーするのが賢明である。 ナックル星人は電波研究所所長ということで、結構地域に根付いているようである。 かなり以前から計画を練っていたのではないか。 ただし東京都に許可もなくあんなもの建てられるわけないので、やはり元の所長の見た目を真似て化けているのだろう。 とすると、元の所長もあんな顔だったということで、人相が悪いのはナックル星人のせいではないのかもしれない。 同様にナックル星人の部下も操られていただけで、元は所員と考えるのが妥当だと思う。 アキと坂田の殺害シーンはさすがにやり過ぎ。 特に倒れる2人を遠景に捉えるカットは子供向けを完全に逸脱している。 一方アキの病室でのシーン。 腕時計をずっと握っていたというのはさすがにうそ臭いし、命に関わる状態の割には生命維持装置もつけられておらず、ややリアリティを欠く。 とは言え、郷が坂田にお辞儀するシーンやアキに呼びかけるシーンはさすがにグッと来た。 この2人がいなかったら、ここまで面白い番組にはなってなかったと思うので、素直に2人にはお礼を言いたい。 ただ、2人が最後まで生き残る最終回は見てみたかったが。 ところで坂田兄まで殺す必要はなかったのではないかという意見を時々耳にする。 確かにスケジュールが合わないのはアキだけなのだからそう考えるのも当然なのだが、坂田兄自身の役割も薄くなっており、ここで華々しく退場したのは正解だったと思う。 2人を一挙に退場させたことにより、ラストのワンクールにその暗さを引きずらずに済んだことからも、その判断に間違いはなかった。 また、結果的にその後の郷の成長を描けた点も重要である。 前述したが、今回の話で電波研究所所長を演じた成瀬昌彦氏の功績は大である。 あれだけ、容赦ない、しかも狡猾な悪役を演じられる人はそうはいない。 割舌の悪さも悪役としてはいい味になっており、子供の頃は本気で怖かった。 今の俳優でリメイクするなら、石橋蓮司氏や佐野史郎氏辺りだろうが、あの味を出せる人はなかなかいないだろう。 出来ればもう1度くらいウルトラに出て欲しかったと思う。 南と郷の会話で郷は明らかに、アキとの将来を考えている。 今まで色々あったが、2人の恋愛がしっかり結実したことを物語るシーンである。 これで「帰ってきたウルトラマン」の1つのテーマが完結した。 物語的には不満は残るが、メインライターとして上原氏がしっかり役目を果たしたといえるだろう。 ただし、最後をどうするつもりだったのかはやはり気になるところではある。 今回はウルトラマンのセリフがかなり多い。 それだけ郷と一体化しているということであろうが、人間ウルトラマンというコンセプト通り、新マンがドンドン人間臭くなっている。 これに引きずられて他のウルトラマンも人間臭くなっていくのだが、その辺りはこの番組の残した功罪の1つだろう。 しかし「太陽エネルギーをくれ」と懇願するシーンは少し情けなかったぞ。 なんか敵に情けを求めてるように見えるが、あれは太陽に向かって話しかけていたのだろう。 しかし以前も太陽と話していたように、ウルトラマンは独り言を言う癖があるようである。 今回出てきたサターンZは僅かの量で富士山を吹き飛ばすなど、物騒極まりない代物である。 放射能が出ないのはいいとしても、ちょっと日本の防衛力として問題ある気がするぞ。 しかし山を吹っ飛ばすというのはかなり無茶。 正直火山の噴火どころではないような気がするのだが。 それにナックル星人は何処でそのような情報を得たのだろうか。 もしかすると、内部にスパイでも侵入してたのかもしれない。 その他気に入ったシーンなど。 アキがデパートの店員に、郷のことをのろけるシーンは見ていてかわいい。 しかし郷に「それだけお見限りってことよ」と言っていたが、どう考えてもアキの都合でデートできなかったように見える。 続発する事件よりも忙しいアキ(榊原るみ)のスケジュールであった。 ブラックキングと戦う新マンだが、バックに流れるテーマはいつもの軽快なテンポではない。 いつものことだが、「帰ってきたウルトラマン」のBGMは素晴らしいものばかりである。 人間体のナックル星人も素晴らしいのだが、星人体の方もなかなか極悪そうで良い。 特に所長から変身するシーンの演出がかっこよく、スローなテーマから静粛を経て、急テンポの新マンピンチのテーマに変わる場面は秀逸である。 巨大化の際の特殊効果も凝っている。 そして、ナックル星人の歩き方。 もう完全にごろつきという感じで性質の悪さが滲み出ていた。 目的こそ地球侵略だが所謂三下やくざの宇宙人のような振る舞いは憎憎しさ満点である。 本話はよく指摘されるように「セブン暗殺計画」と構造的にはよく似ている。 しかしドラマ的な深さはそれを凌駕しており、それは何はともあれ坂田兄妹の死という要素が大きいだろう。 この話をもって上原正三の「帰ってきたウルトラマン」は終わったとよく言われる。 もちろん「帰ってきたウルトラマン」自身はあと1クール続くのだが、上原氏の初期設定はこの話で全て消化されており、それに間違いはないだろう。 ウルトラマンは磔にされ、宇宙の闇を彷徨っていく。 「ウルトラマンは死んだ」。 この話をもって、ウルトラシリーズが大きな分岐点を迎えたのは間違いない。 |