許されざるいのち


データ
脚本は石堂淑朗。
原案は小林晋一郎。
監督は山際永三。

ストーリー

街中をパトロールする郷と岸田。
街は平和そのものだが、MATの探知機は不審な電磁波を探知した。
その頃、岸田自動車工場に一人の青年がスタンドの製作を依頼に来ていた。
そこへ立ち寄った郷は、その青年が小学生時代の親友水野であることに気がつく。
再会を懐かしみあう二人。
水野は父親の遺した屋敷を改造し、生物学を研究しているという。 夜、水野邸にスタンドを届ける次郎。
次郎は屋敷の中に案内され、イグアナやよろいトカゲを見せてもらう。
うつぼかずらを見て、「草もこうなると動物か植物か区別がつかないですね」と次郎。
次郎が興味深そうにしているのに満足気な水野。
次郎に植物と動物どちらの研究をしているのかと問われた水野は 動物と植物の違いの研究について熱弁を揮いだす。
「僕が動物でもあれば植物でもあるような全く新しい生命を作り出そうとしたのは科学者として当然の権利なんだ」と水野。
次郎は気味悪がるが、「宇宙の生命は本来一つのはずなんだ。生命に差別があってはいけないんだ」と水野。
その頃水野は動物と植物の間に既に新しい卵を作り上げていた。
αレオン電磁波を卵に照射する水野。
事件がないMAT隊員たちを戒める伊吹。
空からパトロールする郷と岸田はこの日も奇妙な電波をキャッチする。
一軒一軒調査することにした2人は、水野邸に行き、水野に研究のため電磁波を使ってないかと聞く。
動植物用の保温ヒーターくらいしか特別なものは使っていないと水野。
しかし生物の変化を促すような不思議な電波と言われ、水野は少し動揺する。
屋敷の中に戻り、卵の様子を見る水野。
そのとき電磁波を照射していた卵が孵化した。
「僕は遂に動物と植物の間の何人も超えられなかった境界線を打ち破ったぞ」。
歓喜する水野。
祝杯を挙げながら父親の肖像画に語りかける。
「あなたは私を馬鹿にし続けてあの世に行ったが、今日という今日こそはあなたは僕に脱帽すべきなのだ。あなたは金儲けの上手い商人に過ぎなかった。しかし今日の私は天才になったのですよ」。
悦に入る水野。
しかしその時、急成長したレオゴンが暴れだした。
レオゴンは屋敷を破壊し外に出てしまう。
屋敷を抜け出したレオゴンは坂田家の庭に入り込む。
それを見つけ慌てる次郎。
トカゲのお化けを見たと坂田に訴える。
「どこか動物好きの家から逃げ出したのではないか」と坂田。
それを聞いて水野邸に行く次郎。
大きなトカゲみたいな物を見たと次郎が言うと、水野は急に怒りだし次郎の首を絞めながら「変なことを喋ったら、お前たち兄弟をコブラの毒で殺してやる」と脅迫する。
「MATの郷には何も言うな」と水野。
翌日、湖の観光船が怪獣に襲われる事件が発生した。
出動するMAT。
空から爆撃するも、怪獣には通用しない。
怪獣は体の壷から植物の蔓のような物を出し、ジャイロを捕らえる。 岸田のロケット弾で蔓を焼き切り、何とか脱出するジャイロ。
鑑識課によると、ジャイロに付着した蔓のようなものは植物以外の何物でもないとのことだった。
水野邸に行き、動植物怪獣の鑑定を依頼する郷。
しかし「鑑定の結果は明日」と水野邸から追い出された。
その頃坂田邸では次郎がふさぎこんでいた。
郷は次郎に何か大変なことがあったかと聞く。
次郎は泣きながらトカゲの怪物を見たという。
郷は次郎から水野邸へ行った事を聞き、2人で水野邸へ向かう。
こっそり邸内に忍び込む二人。
しかし水野はそれを待っていた。
「君はどうしてこんな恐ろしい研究を」と郷。
「僕は新しい生命が欲しかった。レオゴンは僕が生み出した新しい命なんだ。郷、君には僕の気持ちなんてわかりゃしないよ」。
「僕がレオゴンを生み出したことが罪というなら、僕はもう死ぬしかないんだよ」と水野。
「どうやったらあの怪獣をやっつけることができるんだ。教えてくれ」と郷。
「αレオン波をβレオン波に変えればあの生物は死ぬ」と水野。
郷は必死に説得し、翌日、水野を連れ怪獣のいる湖に向かう。
水野は装置を設置し、レオゴンに照射する準備をしていた。
しかし、自分の作り出したレオゴンに執着する水野は装置を放棄し、湖に向かって歩き出す。
「お前は僕の命だ。僕にはお前を殺すことはできない」。
湖の中に入っていく水野。
それを見た郷は水野を追って湖に入る。
「何をする気だ、水野」。
水野に呼びかけ、少年時代を回想する郷。
しかし水野は、とうとうレオゴンの蔓に捕まり飲み込まれてしまう。
ピンチに陥った郷を援護するMAT。
ウルトラマンに変身する郷。 レオゴンの蔓に捕まったジャイロをスペシウム光線で救出する。
レオゴンと格闘するウルトラマン。
しかしレオゴンの蔓に足を取られてしまう。
レオゴンに組み伏せられるウルトラマン。
しかし最後はウルトラブレスレットでレオゴンを切断。
レオゴンは爆破炎上し、最期を遂げた。
水野の机の中から出てきた遺書によると、屋敷は子供たちのために解放して欲しいとのこと。
水野さんは全てを悟っていたと次郎。
レーザーを火にくべて焼却する次郎。
それを見つめる郷であった。

解説(建前)

何故郷と水野は近所に住んでいながらお互いの存在に気づいてなかったのか。
おそらく、水野は研究所に篭りっきりで外部との接触はほとんどなかったのであろう。
したがって、坂田工場へ行ったのも久しぶりの外出だと思われる。
水野と郷がどこで小学生時代を過ごしたのかはわからないが、どちらかの転校で別れ別れになってしまった。
お互い近所に越していたなんて、思いもよらなかったのであろう。

レオゴンの急成長の秘密は。
これはやはりあの電磁波に原因があるとしか考えられない。
ウルトラシリーズではMATシュートに代表されるように、エネルギーが物質に転換される現象が多発している。
物質をエネルギーにすることが可能だからといってその逆がどうなのかはわからないが、ウルトラマンの巨大化といい、その辺りの現象が大きく関与している可能性は高いであろう。
直ぐに巨大化しなかったのは、体内に蓄積されたエネルギーが物質に転換するのに、一晩時間が掛かった為であろう。

感想(本音)

子供心には少し怖かった話。
オクスター編といい、やはり石堂さんの作品はどことなく不気味なものが多い。
ただし本作の原案は「ゴジラ対ビオランテ」の原案で知られる小林晋一郎氏。
山際監督もかなり脚本を改変しており、石堂色というのは薄まっている。

本話の中心は何と言っても孤独な研究者水野であろう。
科学者が怪獣を作り出してしまうというのは、ウルトラマン「謎の恐竜基地」で既に取り上げられた題材であるが、人間側を深く掘り下げたのが「帰りマン」風味。
郷の幼馴染というのはかなり強引な設定だが、水野のキャラを掘り下げる上では非常に効果的であった。
それにより、水野の苦悩はただの科学者の苦悩から孤独な青年への苦悩へと普遍化している。

そして水野のキャラを語る上で欠かせないのが父親の存在。
父に向かって語りかけるシーンでは父に対するコンプレックスが充満している。
おそらく、父は商売ばかりに精を出して家庭を顧みなかったのだろう。
郷に結婚はしたかと問われ独身主義と答えたところに、この青年の孤独は象徴されている。
ただし、親父の遺産を頼りに生きていくしかない身。
研究に取り付かれたため孤独になったのか、孤独が彼を研究に向かわせたのか。
彼の遺書には館を子供たちの遊び場にして欲しいと書いてあった。
それこそ彼が失ったものではないだろうか。

本話のテーマのもう一つはやはり科学と生命の関係。
このテーマは特にクローン技術やヒトゲノム解読など、昨今の目覚しい生物学の進歩に対して警鐘を鳴らす。
もちろん怪獣が出来てしまうという事はないだろうが、それこそウィルスなど人類の脅威は色々存在しており、また遺伝子の解読は生命倫理の点で大きな問題を有する。
果たしてこれ以上の科学の進歩に人間はついていけるのか。
水野の姿は未来の人類の姿を暗示するとも考えられるだろう。

今回MATは事件が少ないということでかなり緊張感を欠いていた。
前回もMATが出動する前に事件が解決しており、そろそろMAT不要論が巷間で囁かれだしてもよい頃だろう。
今回岸田は自慢の射撃の腕で隊長のジャイロを救出している。
実戦で岸田の射撃が役に立ったのは初めてではなかろうか。
郷とのコンビも板についてきており、あのギスギスしたキャラはすっかり昔のものとなっている。

次郎は怪獣好きだけあり、動物、特に爬虫類に詳しい。
ただし、今回は秘密をばらすとコブラの毒で殺すぞと脅される、かなりかわいそうな役回りであった。
というか、首を絞められかなりやばい。
今回もアキは登場せず。
さすがにここまで来ると、不自然さは否めない。
夜の仕事にでも転職したのであろうか。
坂田は水野の注文のスタンドをあっという間に完成させた。
しかし坂田は水野の研究に疑問を抱かなかったのか。
怪しい電磁波って、そのスタンドから如何にも放射されそうなんだが。

レオゴンの造形はなかなか好きなんだが、立ち上がった姿は少し情けない。
また最後ブレスレットで切断されるのもやや哀れ。
しかし何故に爆破炎上?
ブレスレットの爆破機能だろうか。
水野がレオゴンに取り込まれたシーンは子供心にショッキングだった。
ジラースの二階堂教授と違い、身近なキャラに設定されたためであろうか。
二階堂教授は狂気の博士という感じで子供心には敵キャラだった。
大人の目線からは両者同じなのはわかるのだけど。

本エピソードのテーマは孤独な科学者、そして生命と科学。
しかし完成作を見る限り、郷と水野の友情がメインテーマであることは間違いないであろう。
それはあの有名な演出、PYGの「花・太陽・雨」に象徴されている。
監督が何故この曲を選曲したのか意図はわからないが、この曲は郷と水野の友情を回想シーンだけで見事に語っている。
最初見た時はこの曲に違和感もあったが、今ではその映像とともに印象深い。

色々難しいテーマが含まれる本話であるが、2人の友情に的を絞ることにより爽やかな作品に仕上げるのに成功した。
本エピソードが高く評価されているのも、その辺りの演出に起因しているのであろう。
また、孤独な青年、生命と科学というテーマは今でもその重要性を失っていないどころか、逆に高まっているとさえ言える。
本話は原案、脚本、演出がそれぞれ違うテーマを意識して、上手くまとまった好例であろう。




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