データ 脚本は上原正三。 監督は筧正典。 ストーリー 霧吹山は魔の山と呼ばれ、原因不明の転落事故が続出していた。 その日もまた霧吹山で学生が怪獣に襲われ転落死した。 霧吹山近くの上空をパトロールする郷は怪獣の声を聞く。 しかし同乗の上野には何も聞こえない。 怪獣を見たという郷は霧吹山の写真を撮る。 基地に帰った2人は怪獣について言い争う。 隊長によるとその時刻に学生が転落死したという。 しかし事故原因は落石によると断定されていた。 郷が撮ってきた写真のスライドを見る隊員たち。 「これが怪獣の尻尾です」と言う郷。 「これは岩肌ですよ」と上野。 岸田は「郷は霧吹山の伝説に毒されてるのではないか。霧吹山には竜がいて人を食うという伝説がある」と言う。 意見がまとまらない隊員たち。 隊長は隊員たちに霧吹山の調査を命じる。 反発する上野に対し、隊長は「10のうち1つの疑問があれば、それを調査し解明するのがMATの任務だ」と諭す。 ザイルを使い霧吹山をよじ登る隊員たち。 何とか上に登るが、それらしい兆候はない。 しかし郷は1人怪獣の声を聞く。 しかし他の隊員たちには聞こえない。 呆れた他の隊員たちは引き返してしまう。 基地に戻った郷は隊長に怪獣の声を聞いたと訴える。 1人で行かせてくれと頼む郷。 しかし岸田は「上野だけじゃなく俺や南の目や耳も信じられないと言うのか」と反論する。 南の意見を聞く隊長。 南は「霧はスクリーンの役目もします。光線の加減で山影や飛行機の影が怪獣に見えることもあります。郷が聞いたのは谷を渡る風の音かと」。 結局郷の意見は却下された。 翌日、郷は坂田とともに流星ニ号の設計をしていた。 しかし怪獣のことが気になって集中できない。 次郎がMATのことを聞きに来る。 「俺、将来MATに入るだろ。色々知っておきたいんだ」。 またしても郷の耳に怪獣の声が。 その頃加藤隊長は単身、霧吹き山に登っていた。 郷と他の隊員たちのわだかまりをなくすため、自分の目で確かめたかったのだ。 山を登った加藤の前に怪獣サドラが現れた。 加藤は落石を足に受け負傷してしまう。 本部に連絡を取る加藤だが、岩石が磁石になっており電波が届かない。 一方坂田工場では集中できない郷に対し、坂田は流星号の設計を取りやめてしまう。 続けるよう坂田に言う郷。 その時ギターを教えてくれとアキが郷に頼みに来た。 「そんな気分じゃない」と断る郷。 しかし坂田はアキに「郷にギターを教えてもらえ」と言う。 坂田は郷に「お前は疲れてるんだよ。こいつの顔はこんなちんちくりんだけど、怪獣を見ているよりはずっといい」と言う。 空き地でギターを教える郷。 しかし「帰ろう、こんな無駄をしている時じゃない」と郷は言う。 しかしアキは「郷さんには無駄でも、私にとっては一年に一度あるかないかの貴重な時よ」と言う。 「わかった。そんな悲しい顔するなよ」。 続ける郷。 しかし本部から加藤失踪の連絡が入った。 本部に帰った郷は隊長は霧吹山に行ったと主張する。 反発する上野だが、南は「隊長は物事をいい加減に判断する人ではないから、もしかすると自分の目で確かめに行ったのかもしれない」と言う。 1人で行くという郷を南はアローで送る。 霧吹山上空は夜と霧で着陸は難しい。 しかし郷はパラシュートで強引に霧吹山に着地する。 隊長を探す郷。 「隊長はここに来なかったのだろうか」。 その時ある出来事が郷の脳裏をよぎった。 郷が13歳の時、郷の父親は仲間と山に登ったまま行方不明になった。 そしてそのまま助けが来ず、命を落とした。 「父さんは救助隊から100メートル先の岩陰で捜索隊を待っていた。負傷して動けなかったのだ。後100メートル先を探してくれたら、父さんは助かったに違いない」。 「隊長はきっとこの山のどこかにいる」。 その頃隊長は洞窟に避難し、怪獣と戦っていた。 隊長の名前を呼ぶ郷。 すると、洞窟から隊長の声が。 「来てくれたのか」。 「きっと霧吹山だろうと思ってました。来てよかった」。 「ばか者、こんな恐ろしいところに一人で来る奴があるか」。 「俺はある賭けをしたんです。隊長が俺の信じる通りの人ならきっと霧吹山に行っている。隊長はやっぱり俺の思ったとおりの人でした」。 「私は隊長として当然のことをしたまでだ」。 「MATに入隊してよかった」。 サドラのいない隙に洞窟から脱出する2人。 しかし今度は別の怪獣、デットンが行く手を阻んだ。 「ここは私に任せろ。郷、早く逃げろ。2人は無理だ。1人なら助かる」。 郷は手榴弾でデットンの動きを止めその間に隊長と2人で逃げようとする。 しかし今度はサドラが出現。 相対したサドラとデットンは格闘を始める。 岩に足を挟まれて動けなくなった郷は、隊長に「早く本部に連絡を」と言う。 連絡を取るためその場を離れる加藤。 しかし加藤は怪獣に追い詰められてしまう。 必死に岩から抜け出そうとする郷。 その時郷は光に包まれた。 ウルトラマンに変身する郷。 2匹の怪獣に挟撃され、ピンチに陥るウルトラマン。 カラータイマーが赤に変わった。 後30秒で動けなくなってしまう。 何とかデットンにスペシウム光線を浴びせるウルトラマン。 さらにサドラにはウルトラスラッシュでとどめを刺す。 お互いの無事を喜ぶ加藤と郷。 すると他の隊員たちが2人を探しに来ていた。 手を振る2人。 それに応える隊員たちであった。 解説(建前) 霧吹山に怪獣がいることは判明していなかった。 これは目撃者が全て死亡しているということを意味する。 サドラは執拗に隊長を襲っていた。 おそらくサドラは肉食で出会った人間を食べていたのではないか。 目撃者は食べられるか、転落するかで1人も生き残らなかったのであろう。 郷の耳には遠く離れた怪獣の声が聞こえていた。 しかし怪獣の声は聞こえたり、聞こえなかったりする。 これはおそらく郷が意識を集中しているときに聞こえるということだろう。 ただ第1話では郷の意識に関係なく怪獣の声が聞こえていた。 これは郷がウルトラマンと合体したばかりで、まだその特殊能力を自覚していなかっため、無意識に怪獣の声を聞いたのだと思われる。 郷がその能力を自覚するにつれ、一々怪獣の声が聞こえると大変なので、自らセーブしたのであろう。 44話であかねの正体を見破ったのは、あかねを怪しいと疑って特殊能力を使ったことによると思われる。 最後隊員たちはどうやって霧吹山に登ったのだろうか。 負傷した南や女性の丘もいたことから、アローで着陸したものと思われる。 霧吹山も一年中霧に包まれてるわけではなく、乱気流も常に発生しているわけではない。 少し無理をすれば、アローの性能と隊員たちの飛行技術をもってすれば、着陸は不可能ではないのであろう。 負傷した隊長や郷は仲間のアローで本部に帰ったものと思われる。 因みに郷がパラシュートで降下して無事だったのは単に運が良かったためであろう。 もう一回同じことをしても、上手く行く保障はない。 ただし失敗すればウルトラマンに変身出来ると思われるが。 感想(本音) 郷の特殊能力と隊員たちとの衝突を描いた帰マンらしい話。 郷の父親の話をバックボーンに隊長との信頼も描く名作となっている。 おまけに怪獣も2体登場。 霧吹山での戦いもリアルに描かれており、個人的にもお気に入りの話である。 今回の監督は筧正典氏。 2期ウルトラではお馴染みの同監督。 2期を見慣れた人には、本多監督による1,2話よりしっくりくるのではないか。 それはおそらく照明の関係もあるだろう。 大全によると、ライティングが話に合わせて薄暗くなっているとのことで、今後もこのライティングが基本ライティングになっている。 セブンもかなり暗かったが、この何処となく重さの漂うライティングこそ「帰ってきたウルトラマン」のライティングといえるだろう。 因みに筧監督は撮影中に急病になられたとかで、一部満田監督が撮影してるとのことである。 今回から徐々にMAT各隊員の個性が明らかになってくる。 まず郷と対立する上野。 上野は普通の人間であるため怪獣の声は聞こえないし、姿も見えない。 しかし上野には自分はMAT隊員であり郷の先輩であるという自負がある。 そうやすやすと郷の言うことを信じることは出来ないだろう。 自分の目や耳に自信を持ち、自分の意見を貫き通す。 これはMAT隊員としては当然の態度ではないか。 そこに郷に対するやっかみというものはそれほどないと思う。 やや感情的になって自己主張するところが上野らしさであろうか。 一方岸田。 彼は現場に行っていないにも関わらず、最初から郷の意見を間違いだと決め付けている。 中立であるべき立場なのに、郷が霧吹山の伝説に毒されてるのではないかと郷を貶めるような発言をしている。 これは明らかに郷に対する反感からであろう。 全ての面で優秀な成績を収め、隊長のお気に入りである郷にエリートの岸田は自分のプライドを傷つけられた。 前回の郷の自信満々な態度も鼻についたのであろう。 理論的に攻めるのが岸田らしさか。 ただし実戦経験が少なく、ちょっと驕ったところのある郷を諌める気持ちも少しはあったのではないか。 プライドの高い岸田なら、新入りに仲間の和を乱され仕事に影響が出るのを恐れるだろうので。 南は中立というか、やや郷に肩入れした立場となっている。 これは南流のやり方で、チームの和を作ろうとしているためであろう。 素直に郷の実力を認め、以前からの仲間の意見だけを優先しようとはしない。 物事を客観的に捉えようとする態度はまさにチームのサブリーダーとして適任である。 そして自ら確かめた意見には信念を持つ。 そういう南だからこそ隊長は意見を聞いたのだろう。 郷の特殊能力を抜きにすれば、この裁決は至極まっとうであり、妥当なものであった。 本当ならそこで終わってもよかった。 しかし加藤隊長は一人調査に行く。 それは何故か。 まず対立する両者の意見を尊重し、自ら確かめてチームの和を取り戻したいというのもあっただろう。 しかしそれだけではない。 加藤隊長はおそらく、原因不明の遭難について気になっていたに違いない。 そして、郷の撮った写真も怪獣の尻尾に見えた。 「私は隊長として当然のことをしたまでだ」。 「10のうち1つの疑問があれば、それを調査し解明するのがMATの任務だ」。 これらのセリフに表れてる通り、怪獣の可能性があり被害者が出ているとすればちゃんと調査するのが隊長としての役割である。 隊員たちが対立し、ろくな調査もしなかったことから自ら調査に行ったのであろう。 もちろん普通の隊長はそんな危険なことを1人ではしない。 まさに彼こそ危険と隣り合わせのMATの隊長たるに相応しい人物なのである。 たまに出てきてスパイナーを使えだの、ウルトラマンがいれば大丈夫だの言うどこかの防衛長官とは器が違うのである。 「ばか者、こんな恐ろしいところに一人で来る奴があるか」。 こういう人だからこそ隊員たちはついていくのです。 丘隊員は中立の立場。 特にどっちに肩入れするとかないでしょう。 丘隊員については今回はそれくらいですね。 相変わらず肩にかかるロングヘアーが美しいということで。 一方本作のヒロイン、アキちゃんも横顔に自信があることを告白したり、なかなか活躍してました。 ただし、郷さんに冷たくされたり、漸く思いが通じて郷さんが優しくしてくれたと思ったら仕事で呼び出されたり、ちょっとかわいそうでしたね。 これもMAT隊員を恋人に持つ宿命でしょうか。 と言っても現時点では明確に恋人なのかはっきりせず、2人の関係はやや曖昧なところがあります。 その辺り本作の隠し味というか、ウルトラで恋愛物を見れるというメリットでしょうね。 次郎君はまだまだ坂田家の末っ子という役どころのままです。 将来MATに入りたいという設定が明らかになりますが、この世界ではMATは子供たちに凄く人気があるようですね。 だからあれだけ役に立たなくても解散にならなかったのでしょう。 本当は解散して自分の思うとおりにやりたい長官に対してMATは世論をバックに対抗してたのかもしれませんね。 坂田兄は今回も疲れてる郷を気遣う役どころ。 同時に妹のアキも思いやっており、その人物の懐の深さがよく表れている。 やはりレース優勝目前でスピンし、足が不自由になった挫折が彼を大きくしたのでしょうか。 簡単にしか背景が説明されてないにも関わらず、これだけ説得力を持ったキャラはいません。 これはやはり岸田森の存在感、演技力抜きには語れないでしょう。 感想が各登場人物の分析で埋まるほど、人間が掘り下げられている本作。 1期はもちろん、人間ドラマを主流にした2期でもここまで各登場人物の個性を掘り下げた作品は存在しませんでした。 こういうのは好き嫌いが分かれるでしょうが、恐らくウルトラを知らない一般人に1番わかりやすいのが本作だと思います。 私なら、ウルトラを知らない、若しくは昔見たけど忘れたという人にはまず「帰ってきたウルトラマン」をお勧めしますね。 その中でも今回の話はかなりの完成度だと思います。 各隊員の態度やセリフの端々からうかがわれる性格。 1,2話で郷を。 そして3話で他の隊員と隊長を。 それも怪獣を絡めた中でやってのける、上原氏の力量は凄いとしか言いようがありません(もちろん人間をちゃんと描ける監督の力の賜物ではありますが)。 本作も含め、上原氏が日本の特撮ヒーロー物に残した足跡の偉大さを改めて感じさせます。 上原氏がもしいなかったら、日本の特撮がどうなっていたかは、とても興味深いものがありますね。 |