データ 脚本は市川森一。 監督は筧正典。 ストーリー ある夜信州の観音寺で奇怪な事件が起こった。 手に回転ノコギリをつけた怪獣が巨大な観音像を真っ二つに切断したのだ。 早朝のランニングをしていた郷は、キックボクサーの青年に声を掛ける。 男の名は東三郎。 足の速さを比べるため競走を始める2人だったが、郷が走ってきたバイクに轢かれそうになる。 大ジャンプをし、それを交わす郷。 それを見た三郎は郷の技が幻の技ウルトラキックだと言い、その技を教えて欲しいと頼む。 三郎は次の試合を最後に引退を決意しており、最後の試合だけは勝利で飾りたいのだという。 郷は三郎に技を教えることを約束する。 一方、MATは切断された観音像について調査していた。 目撃者がいないことから怪獣の仕業と断定できないMATはとりあえず調査を見合わせる。 郷は三郎のジムを訪れ、そこでチャンピオンの沢村に声を掛けられる。 沢村は郷の名前を知っていた。 スパーリングをする2人。 郷は善戦するも沢村の真空跳び膝蹴りに倒される。 「どうしてウルトラキックを使わないんだよ」と三郎に聞かれた郷は、「相手の技に見とれて忘れていた」と答える。 神社の境内でウルトラキックの特訓をする2人。 何度もジャンプし、回転蹴りを練習する三郎。 遂に三郎は空中で一回転して木の枝を足で蹴り折るのに成功した。 特訓の後、ラーメンを食べながら話をする2人。 実は三郎には好きな女性がおり、その人のために勝ちたいのだという。 その人とはバスの中で挨拶をする程度で話したことがないとのことだが、三郎はもし次の試合に勝ったら彼女にプロポーズし、負けたら故郷に帰ると決意していた。 再び怪獣が出現したとの通報を聞き現場に駆けつけるMAT。 実は怪獣を見たのは三郎の母であり、郷が三郎のことを尋ねると自分が母親だという。 家に招待される郷。 試合の前日、三郎はいつも乗るバスから降りてくるアキに声を掛ける。 明日の試合の招待券を渡す三郎。 しかしアキにもう1枚券をくれるように言われる。 「恋人と一緒に行きたいんです」とアキ。 アキからその話を聞いた郷はアキが三郎の意中の人と知る。 複雑な心境の郷。 試合に誘われた郷は、仕事があるといってそれを断る。 翌朝郷はいつもの川原で三郎に会う。 お母さんに会ってきたと郷。 今日の勝負頑張るようにとのことづけとともに、三郎にお守りを渡した。 「勝負はもうついていたよ。俺の負けさ。あの子には恋人がいたんだ」と三郎。 戦意を喪失する三郎を励ます郷。 そこへ怪獣が出現したと岸田がビハイクルで現れた。 母親が心配な三郎は自分も行くというが、怪獣のことは俺に任せろと郷に言われ、再び試合への闘志をたぎらせる。 試合前、バス停でアキに会った三郎はアキが一人なのに気づく。 「恋人は」と三郎。 「怪獣と戦ってますわ。しょうがないんです。それが仕事ですから」とアキ。 その時三郎はアキの恋人が郷であることを知った。 街を破壊する怪獣。 空から攻撃するMATだったが、郷のアローが怪獣に叩き落された。 炎上する炎の中から現れるウルトラマン。 対峙するウルトラマンと怪獣。 一方、三郎の試合も始まった。 ノコギリ攻撃に苦戦するウルトラマン。 リングで戦う三郎を必死で応援するアキ。 ブレスレットでグロンケンのノコギリのついた手を切り落とすウルトラマン。 グロンケンは両腕を落とされながらも必死で反撃する。 しかし最後はブレスレットとウルトラキックの連続技に首を切断され倒された。 一方三郎は最後までウルトラキックを封印しKO負けを食らう。 故郷への帰路に着く三郎。 「なぜウルトラキックを使わなかった」と郷。 「相手の技に見とれて、忘れた」。 「嘘だ。あれほど意地でも勝ちたいといっていたお前が」。 「勝つだけが意地じゃないだろ。意地で負けることだってあるさ」と三郎。 送っていくという郷に別れを告げる三郎。 「あばよ」。 三郎のバッグにはウルトラマンのお面がぶら下がっていた。 夕焼けの中、ビハイクルで走り去る郷であった。 解説(建前) グロンケンは何者か。 手に回転ノコギリがついていることから、自然発生した怪獣とは考えにくい。 素直に考えると宇宙人が送り込んだ生物兵器だろう。 しかし何故に観音像を切断する必要があったのか。 またそれを送り込んだ宇宙人はどこに行ったのか。 そのように考えると、宇宙人の兵器説も無理があるように思う。 ここでもう一度観音像を切断したことに注目してみよう。 観音像は仏教徒が信仰するもので、それに対立する宗教を信仰するものにとっては邪魔以外の何物でもない。 とすると、あの巨大な観音像に対して憎しみを抱いていた者がいたとしても不思議ではないだろう。 そう考えると、グロンケンも何らかの怨念から生み出された可能性が出てくる。 それが人間なのか霊なのかはわからないが、電動ノコギリ若しくはノコギリ状の何かがイタチなどの小動物と合体し、それに命が吹き込まれた。 グロンケンはエース後期に出てくる超獣の先駆けのような存在かもしれない。 感想(本音) 怪獣の解釈及び存在意義に困る話。 正直ウルトラシリーズとしての脚本の出来はいまいちだろう。 ただ、青春ドラマとしてはなかなか良い脚本である。 そういう意味では捨てがたい魅力のある作品となっている。 まず、グロンケンについて。 いきなり観音像を電ノコで切断するのは何なのか。 これは市川氏お得意の、象徴的な物の破壊によるアンチテーゼの表現なのだろう。 ここで市川氏にマイナス評価を与えられているのは、巨大な観音像という本末転倒した存在。 そこには本来人間を救うはずの宗教が人間を支配し搾取する存在に成り下がってないかという皮肉が込められている。 ただ市川氏がクリスチャンだからといって、仏教を否定しようとしているわけではない。 やはり悪なのはグロンケンなのであって、偶像を破壊する行為が許されるわけではないのである。 したがって観音像の切断はあくまでインパクトを狙ったものであり、価値観の揺さぶりを意図した演出と解釈するのが妥当であろう。 今回は三郎、アキ、郷の3人の関係を中心に爽やかな恋愛ものになっている。 榊原るみのスケジュールの都合で、26,27話が実質上アキの最後の活躍になるが、今回は前回のデートに引き続き、郷とアキの関係がかなり明確にされている。 アキは郷のことを「恋人」と言っている。 そしてそれを聞いた郷も自分がアキの恋人であることを否定しようとはしない。 ここに37話で郷がアキをお嫁さんとして意識していることとの橋渡しが見て取れる。 ただしアキは37話で死んでしまう。 この時点でアキの死は決まってなかったと思われるが、2人の仲が成熟しそれが成就するとともに永遠の別れが来るというのは何ともやりきれない。 そもそもアキは郷にとってどのような存在として位置づけられていたのか。 実はその辺りの練り込みが不足してたがゆえの悲劇だったのではないか。 いずれにせよ、三郎としては郷がアキを幸せに出来なかったことについては寛恕しがたいものがあるであろう。 今回のアキの話への絡ませ方はさすがノッてる市川氏である。 坂田家がまったく出てこない展開で、いきなり三郎の意中の人がアキだったなんて鮮やかとしかいいようがない。 もちろん青春ものとしてはありきたりなのかもしれないが、このようにアキを正面切ってヒロインとして扱うのはシリーズとしてはかなり異色である。 また大物ゲストである沢村忠もしっかり絡ませ、市川氏本人は不本意なのかもしれないが、よくまとまった脚本だと思う。 その他ツッコミを少し。 三郎は普通の人間でありながらウルトラキックを成功させた。 郷はウルトラマンの力を借りていていわばインチキなのに対し、三郎は凄い運動神経を持っている。 素質としては郷より数段上なのだろう。 しかしあのキックがどう試合に役立つかわからない。 別に頭上に敵がいるわけではないのに。 郷と沢村の試合は当然沢村は手を抜いているが、郷の体格を見ると、あながちいい勝負に見えなくもない。 しかしいくらMATの隊員だからと言って真空跳び膝蹴りはないだろう。 下手すりゃ大怪我するぞ。 三郎は話したこともない人にいきなりプロポーズをするという。 かなり無茶。 三郎の歌う軍歌には時代を感じる。 今回はMATの隊員はほとんど出番なし。 まあ話の内容からは仕方あるまい。 今回の話は爽やかな恋愛もの、ライトなスポコンものとしてかなり異色な作品になっている。 ただアキの存在を上手く生かしたという点はシリーズ構成上もプラスに評価できよう。 ただし、グロンケンの扱いについてはかなり疑問が残る。 正直ウルトラマンがグロンケンを倒すシーンはいじめにすら見える。 特に両手を切って最後は首切断では怪獣があまりにもかわいそうだろう。 それが偶像を破壊した罰なのかもしれないが、グロンケンの描きこみがあまりに乏しいので。それがイマイチ伝わってこない。 確かに青春ドラマとしては最後の夕焼けをバックに去っていくシーンなど魅力たっぷりなのだが、ウルトラの本旨として怪獣に物語がないのは問題を感じる。 怪獣に一工夫あればもっといい出来になったと思われるだけに、その点やや残念なエピソードである。 |