怪奇!殺人甲虫事件


データ

脚本は上原正三。
監督は筧正典。

ストーリー

パトロールする郷と南。
郷は南からもらった土産をアキにプレゼントしたお礼を言う。
その時隕石が落下した。
坂田家が近いことから気になる郷だったが、南にただの隕石と言われ調査せずに引き返す。
しかしその隕石からはクワガタ状の昆虫が。
3日後、ホテルの1室で客が変死する事件が起きた。
客が電気剃刀を使用中に蒸発したとのことだが、MATは刑事事件と判断し警察に任せることにする。
別の日、坂田家ではアキが郷と一緒に映画を見に行くため口紅を塗っていた。
郷が南に貰ったギリシア土産をプレゼントされたものだ。
一方、次郎は友達と昆虫採集に行くという。
最近この辺りに季節外れの3本角のクワガタムシが出るという。
次郎らはそのクワガタが2000円くらいで売れるという噂を聞いて張り切っていた。
アキが選んだ映画は「吸血男爵の森」であった。
美女が吸血鬼に襲われるシーンで郷にしがみつくアキ。
その時郷に連絡が入った。
この前と同様の殺人事件が起き、警視庁から協力依頼が来たという。
一人アキを映画館に残し調査に行く郷。
今度の被害者は若い女性でヘアドライヤーを使用中に被害に遭ったという。
「あの夜光る物体が落下したのはこの辺りだった」と思い出す郷。
郷は宇宙怪獣の仕業と疑うが、刑事と伊吹は人間の犯罪と推測する。
「こいつHな昆虫だぜ」と上野。
見るとクワガタが落ちている口紅にたかっていた。
それは郷がアキにあげたものと同じ口紅であった。
その夜、バイクに乗った青年が宇宙昆虫の犠牲になる。
同じ夜、映画館から一人家路に着くアキ。
そのアキに巨大なクワガタムシが迫る。
しつこくたかるクワガタをバッグで叩き落とすアキ。
家に帰ってその話をするアキだったが、それは次郎が探してた奴じゃないかと坂田は言う。
帰ってきた次郎は家の前で3本角のクワガタムシを捕獲。
次郎が家に入ると郷から電話が掛かってきた。
次郎の探してる昆虫が殺人昆虫かも知れないという。
電話で坂田が、次郎に昆虫を採らせないようにするというのを聞き、次郎はそのことは黙って部屋に戻る。
2000円のクワガタに一人喜ぶ次郎。
その夜就寝中のアキの部屋にクワガタが飛んできた。
クワガタはアキが郷から貰った口紅にたかっていた。
アキの悲鳴を聞き駆けつける坂田。
昆虫は次郎の昆虫網を焼ききっていた。
MATに連絡する坂田。
昆虫を捕獲したMATは色々実験を始める。
昆虫は普段はおとなしいが、剃刀の音がするとレーザーを発射。
岸田は昆虫がモーターの羽音を聞くと敵と勘違いして攻撃するのだと推測する。
スペースレーザーガンで昆虫を破壊することにするMAT。
しかし昆虫はレーザーを浴びるとそれをエネルギーにし巨大化した。
MATガンでの攻撃に切り替えるMAT。
しかし怪獣は地中に姿を消す。
空から捜索に出るMAT。
郷は東京B地区地下から巨大化した怪獣が現れるのを発見する。
攻撃するMAT。
しかし怪獣には歯が立たない。
逆に怪獣のレーザー光線を受け、郷のジャイロが墜落する。
ウルトラマンに変身する郷。
しかしはさみに捕らわれピンチに陥ってしまう。
MATはバズーカで怪獣の目を狙いウルトラマンを救援。
最後はブレスレットで怪獣の息の根を止める。
再び郷とのデートのため、口紅を塗るアキ。
今度は死んでも知らないぞと次郎に言われるが、死んでも構わないとアキは言う。
今度は普通の恋愛映画を見に行く2人。
「女ってわからねえな」と次郎。
2人を見送る坂田と次郎であった。

解説(建前)

ノコギリンは何故巨大化したか。
普通にレーザーの影響と思われるが、姿形まで変わったことからあれが成体とも思われる。
本来はゆっくり成長していくのがレーザーにより急成長したというのが真相ではないか。
地面に潜ってから再び現れる時にさらに巨大化していたが、レーザーのエネルギーはノコギリンを成体にするだけでは消費し切れなかったのであろう。
エネルギーが物質に転化する。
物理的なことはわからないが、ウルトラマンが巨大化するのと根本は同じかもしれない。

感想(本音)

ちょっと大人向けの好編。
人間が蒸発するというホラー色もあるのだが、娯楽編としてよく出来ている脚本だと思う。
毎度ながら上原氏の話の幅広さには感服する。

郷がアキにプレゼントした口紅は郷の初めてのプレゼントだという。
硬派な郷らしいが、最近ではこういうカップルも珍しいだろう。
まあ郷はアキを妹のように思ってた節があるから、デートするのも珍しいのかもしれないが。
仮に今まで一緒に映画に行ったことがあるとしても、それは友達か兄弟のような感覚だったのだろう。
しかしアキちゃんの選んだ映画が「吸血男爵の森」というのはたまげた。
どう考えても郷に抱きつくためだが、これはこどもにはわからないだろうな。
なんでわざわざ怖い映画を選ぶのか。
「女ってわからねえな」(今だに)。

上原氏は巫女的、妖精的な現実離れした女性を理想としているようであるが、アキのキャラはそういったものとは程遠いように感じる。
アキは喜怒哀楽を表に出すとても素直な性格で、両親を亡くしたことから基本的にはかなりしっかりものである。
また煮え切らない郷に対して積極的だったり時には健気だったり、とても人間的で身近に感じられる。
これは当時の一般的な理想の女性像に近いのであろうが、案外上原氏自身もこういう女性に弱いのかもしれない。
そう言えば上原氏が描くエースにおいても北斗よりも夕子の方が積極的であった。
理想と現実というか、実際付き合うとすれば幻想的なイメージの女性よりこういう女性の方がいいというのは、大多数の男性に言えるのではないだろうか。

次郎の話によると、普通のノコギリクワガタなら300円、3本角なら2000円という。
オオクワガタが何十万で取引される現状とは隔世の感がある。
昔は東京都内でもクワガタは採れたのだろうか。
私が子供の頃(関西だが)、学校の前に行商というか、香具師というかヤドカリやカブトムシなどを売ってる人をたまに見かけた。
当時(昭和50年ごろ)はまだデパートで売られていることは稀だったが、少しずつ近所でカブトやクワガタが採れなくなっていた時代である。
子供が昆虫をお金に換算しだしたのもちょうどこの頃なのだろう。
ただしあのクワガタの動きはかなりぎこちなかったが。

南はギリシアのシンポジウムに参加していたという。
しかし一体何のシンポジウムなのだろう。
ギリシアにも怪獣が出るのであろうか。
ところでノコギリンはなぜギリシアの口紅の匂いに反応したのか。
たまたま自分の好きな餌と同じ匂いがしただけなのかもしれないが、そもそもノコギリンは何を餌にしてるのだろう。
レーザーを吸収して巨大化したからにはそれに類するものを食していたのかもしれない。
口紅とノコギリンのつながりはただの偶然に見えて何かの必然が存在してたのかもしれないが、アキを襲わせるという狙いは成功してるのでこれ以上触れないことにする。

今回、坂田家はかなり出番が多い。
これは榊原るみのスケジュールの都合もあるだろうが、郷とアキのデート、次郎の昆虫採集ととても上手く話を展開させている。
そして要所を締める坂田。
さすがに1人で宇宙昆虫を見張るのは危険だと思うが、上原氏がメインライターの役目として坂田家を中心に話を作るのはさすがである。

「こいつHな昆虫だぜ」と妙な感情移入でセリフを喋る上野。
今回の事件は本来MATの出動する事件ではないのだが、それでもその処理の仕方には相変わらず問題が多い。
前回クプクプの処理に失敗したのにも関わらず、今回もレーザーで怪獣を巨大化させる不始末。
これでツインテール、キングストロン、ノコギリンとMATは怪獣を倒すより作る方が多い組織となってきた。
「帰ってきたウルトラマン」はシーモンス、シーゴラスを暴れさせた自衛隊や、ステゴンを蘇生した工事現場の人など、人間側に非があって怪獣を生み出すパターンが結構多い。

本話は宇宙昆虫による一連の事件を中心に、上手く郷とアキのデートや坂田家を絡ませる構成になっている。
基本的に娯楽編なのでエピソードの重要性はそれほど高くはないが、次回の「この一発で地獄に行け」とともに郷とアキの恋愛について描いてる点見逃せないだろう。
今まで2人はデートらしいデートもしたことがなく、その関係はやや曖昧であった。
しかし今回は郷が贈った口紅がきっかけとは言え(アキはそのお礼に映画に誘っていると考えられる)2人で映画を見に行くというはっきりした行動を取っている。
「綺麗だよ」という郷のセリフが象徴しているように、郷はアキを恋愛相手として意識している。
まだ仕事を優先させはしているが、少しずつ将来のことも考え出したのだろう。
ただし郷はウルトラマンの力を借りてるだけで自らは死んでしまったはずである。
もしアキが無事なら2人は一体どうなったのであろうか。
この先の結末を知ってるだけに、楽しさの中にも寂しさを感じてしまう26話であった。


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