データ 脚本は上原正三。 監督は冨田義治。 ストーリー 信州の山中に落下した隕石から小型の宇宙怪獣が発見された。 MATはその小怪獣を焼却処分することにする。 所変わってあるマンションの1室。 そこには一人怪獣人形で遊ぶ明夫という少年がいた。 明夫の父は船乗りで家を長期留守にしており、母も雑誌社の仕事で忙しく明夫はマンションで一人留守番をすることが多かった。 その日も母親に外で遊ぶことを禁じられる明夫。 公園へ行き友達を家に誘うが管理人がうるさいと言って誰も遊びに来てくれない。 そこへ次郎が宇宙怪獣の処分を近くでするという知らせを持ってやって来た。 現場に行き一緒に見学する明夫たち。 「檻を壊して逃げればいいのに」と明夫は言う。 怪獣はその場でMATに爆破され焼却処分に付される。 しかしその時爆破された怪獣の破片は明夫の側まで飛んでいた。 それを拾い家に帰る明夫。 明夫はその破片を自分の部屋の壁に貼り付けた。 おやつを食べ部屋に戻る明夫。 すると知らない間に壁に怪獣の絵が浮かび上がっていた。 「お前弱い怪獣だなあ。強い怪獣にならなきゃ」。 「そうだ背中は鎧、レーザー光線を弾き返す」。 明夫の指示通りに姿を変える怪獣の絵。 明夫は自分のアドバイスにより姿を変えた怪獣に「キングストロン」と命名する。 その夜管理人はマンションの住人の苦情を受け、明夫の部屋に怪獣の唸り声の原因を調べにやって来た。 しかし明夫は寝ており管理人は首をかしげ引き返す。 怪獣の唸り声に気付く明夫。 部屋に行くとキングストロンの尻尾が光っていた。 「生きている。キングストロンは大怪獣になるんだ」。 翌日明夫は次郎らに怪獣を作ったと部屋に誘う。 しかし次郎らは管理人に見つかりマンションには入れなかった。 「覚えておくといい。今にキングストロンが大きくなる。こんなマンションなんかいちころに壊してみせる」と明夫。 明夫の母親が部屋に帰ると部屋は何かで引っかいたような傷でぼろぼろになっていた。 怒る母。 母に叱られた明夫は家を締め出されてしまう。 何かの唸り声に気付く母親。 そこには壁に張り付いた巨大なキングストロンの姿があった。 連絡を受け調査に来る郷と岸田。 郷は明夫を問い詰め、怪獣が先の宇宙怪獣の破片から出来たことを突き止める。 MATシュートで焼却しようとする郷と岸田。 しかしキングストロンはそれにより巨大化してしまった。 崩れだすマンション。 急いで住民を避難させるMAT。 しかし明夫はキングストロンの所に行こうとする。 それを追う郷。 エレベーターで上に向かった明夫だが、エレベーターが止まってしまい中に閉じ込められてしまう。 キングストロンに助けを求める明夫。 しかし怪獣は助けてくれない。 一方郷は何とかエレベーターの上から明夫を助け出そうと試みていた。 エレベーターの上から中に入り明夫を助け出す郷。 しかし自らは逃げ遅れてしまう。 郷を心配した伊吹はマンションの中へ。 「怖いよ」。 そこで泣いている明夫を発見し助け出す。 一方郷の乗ったエレベーターはロープが切れ真逆さまに地面へ。 光に包まれウルトラマンに変身する郷。 キングストロンの角に苦戦するウルトラマンだったが何とか角を折ることに成功する。 しかし今度は尻尾の光線によりピンチに陥った。 ブレスレットも叩き落され絶体絶命のウルトラマン。 頼みのスペシウム光線も通用しない。 キングストロンは背中の角が弱点と叫ぶ明夫。 背中の角を逆にし動きを封じるウルトラマン。 最後はブレスレットを拾って投げつけ、キングストロンを白骨化させた。 「おーい」。 皆の所へ走ってくる郷。 「郷さん」。 素直さを取り戻した明夫の笑顔には一点の曇りもなかった。 解説(建前) キングストロンは明夫の指示通り姿を変えることが出来た。 これはどういうことなのか。 順を追って見ていくことにする。 まず明夫の拾ったクプクプの破片はマンションの壁に同化しあっと言う間に元の姿に近い状態に復元した。 このことからクプクプ(の細胞)はコンクリートに反応しそれを変質させ同化できる能力を有することが推測される。 そしてさらにコンクリートの成分を利用することによりそれまで以上の頑強さを誇る体を獲得できた。 そもそもクプクプは何もしてないのに殺された謂わば被害者である。 いきなり爆破されたことから今度は簡単に爆破されないように進化し、人間に対して復讐心を持ったとしても不思議ではないであろう。 そして仕上げはお馴染みMATシュート。 ツインテールを巨大化させたこのエネルギーはキングストロンにも有効だった。 MATシュートにより反応が促進されたかそれ自体を取り込んだかはわからないが、急激な巨大化はMATシュートが原因と考えざるを得ないだろう。 キングストロンによるマンション倒壊の責任を両親は負うのだろうか。 以前shoryuさんのサイトで、両親は全く責任を負わないと意見させて頂いたが、全く責任がないとは言い切れないかもしれない。 と言うのも明夫君がマンションの倒壊を予見可能であった場合両親が監督責任を負う可能性が高いからである。 それでは明夫は怪獣が巨大化しマンションを破壊することを予見可能だったのであろうか。 まず怪獣の絵が巨大化し尻尾が光った辺りでその危険を認識するのが通常であろう。 ただそこで巨大化まで予想できたか否か。 何らかの危険は認識できても急激に怪獣が巨大化してマンションを破壊するなんて普通は想像できない。 願望としてマンション破壊があったとしても、その蓋然性の認識が難しい場面であれば予見可能性があったとまでは言えないだろう。 従ってかように明夫の過失が否定されれば両親は何らの責任も負わないことになる。 それでは明夫の過失により怪獣が巨大化しマンションが倒壊したと認定された場合はどうか。 この場合明夫は未成年者のため何らの責任も負うことはないが(民法712条)両親は民法714条若しくは415条により責任を負うことになる。 もちろん両親は自らの監督責任を果たしたことを立証すれば免責されることになるが、これはなかなか難しいので(明夫をこのように育てた責任はある)結局損害賠償責任を負う可能性が高いであろう(この点については改説させて頂きました)。 ただ明夫の両親が損害賠償義務を負うにしても元々はMATが住宅街で怪獣を処理したことが原因である。 安易にMATシュートで焼こうとして巨大化させたことも勘案すると、その寄与分の算定においてMATがより多くの責任を負うと考えるのが妥当であろう。 またマンションの住人側もより資金力のあるMAT及び国に対して責任を追及するものと思われ(裁判もやり易そうである)、MATも明夫の両親に求償権を行使することも無かろうことから(国は容赦ないかも知れないが)結果としてそれほどの負債を負う事もないと思われる。 結局明夫の両親は自らのマンション代の損失程度で済むのではないか。 保険なども考えればそれほど無茶なことにはならないのではないかと解釈することにする。 感想(本音) 前半はほとんど明夫の独壇場であり上原氏の作風からも「帰ってきたウルトラマン」の作風からも一風変わった作品となっている。 その点変化球的とも解釈できるが、これは素直に子供向けに話を作ったと考えるのが妥当であろう。 とは言えテーマは明確に描かれており、やはりこの話も立派な「帰りマン」のエピソードの1つである。 それでは内容を見ていくことにする。 まず明夫について。 明夫は今では珍しくないが当時で言う「鍵っ子」である。 つまり両親は共働きで一人っ子の明夫は外出する時はいつも鍵を持たなければならなかった。 またそのような状態だから外で遊びに行くのも禁じられている。 今でもこのような窮屈な生活を強いられれば滅入りそうなのに、子供は外で遊ぶのが基本だった当時、その心情察してあまりあるところである。 明夫は檻に閉じ込められたクプクプに対して「檻を壊して逃げたらいいのに」と自らを投影している。 そして壁に復活したクプクプに対しても「宇宙怪獣のくせに情けない」ともっと強くなることを要求している。 これは明らかに明夫の中に潜む潜在的な願望であろう。 怪獣人形を使い、空想の街を破壊する明夫。 両親に構ってもらえない寂しさと子供の内なる破壊願望が結びついた瞬間、子供はもはや我々大人が想像できない異形となるのである。 物質的充足は決して人間を幸せにしない。 子供に必要なものは物質的な充足よりも人間との交流なのである。 家に閉じこもり、テレビやビデオ、ネットばかり見てても人との交流がなければいつまでも自分の殻は破れない。 ある意味明夫は現在の引きこもりやニートの元祖と言えるだろう。 ただしそのまま救いがないのは子供番組として都合が悪い。 結局明夫はキングストロンに対して「怖いよ」と恐怖を抱き正気に帰ることになる。 いかにも子供番組らしいオーソドックスな展開だが、そこら辺りはメインライター所以の配慮であろう。 ただ話としてのインパクトは「ふるさと地球を去る」辺りに比べて小さくなってしまうのは致し方あるまい。 ところで明夫は何故キングストロンに弱点を設定したのだろうか。 自らをキングストロンに投影していたのなら、弱点を設定するのはそれと矛盾するような気がする。 これはこう考えられる。 つまり明夫自身も自らの衝動に漠然と恐れを抱いており、自分自身をセーブする理性までは失ってなかった。 無意識的に内なる怪獣が倒され自分が助けられることを願っていたのである。 結局怪獣は自らのアドバイスによりウルトラマンに倒されてしまう。 しかし明夫自身の問題は解決されておらず、内なる怪獣まで倒されたかについては疑問を挟む余地があるだろう。 今回のMATの怪獣の処分法は明らかに慎重さを欠いている。 早く焼くように指示した隊長は少しはマシだが、そもそも住宅地のど真ん中で処理すること自体問題があろう。 この点につきすぐに処理しなければならない理由を考えようともしたがかなり無理があるので、この点についてはスルーさせて頂く。 MATシュートに関しては怪獣を倒すよりむしろパワーアップさせるアイテムなので、もうとやかくは言わない。 今回重要だったのは新しい劇伴の登場。 おなじみピンチのシーンでの緊迫感のあるテーマだが、後半に追加されたものというのは少し意外だった。 それだけ印象に残る使われ方をしていたということだろう。 エースにも使われたこのテーマはウルトラの音楽の新境地を開いたとも言うべき重要な曲の1つである。 マンションの管理人はお馴染み大村千吉氏。 どことなく不気味であるユニークな管理人を好演している。 今回の話はウルトラマン「恐怖の宇宙線」と同じプロットで作られている。 しかしそのテーマは全く違う。 「恐怖の宇宙線」が罪のない怪獣、子供のシンボルとしての怪獣を通した大人社会の慌てぶりを寓話的に描いたものであるのに対し、こちらはより生々しく子供の内なる衝動を直接大人社会にぶつけている。 本エピソードにおいて明夫は一応内なる破壊の衝動から解放されている。 しかしこれはあまりにも子供番組向けの解決であって、実際はもっと屈折するのが自然だろう。 その辺り番組の制作上仕方ないが、単純に見えてもっと深く重いテーマ。 そのようなものが潜んでいる怖さを感じさせる点、一筋縄ではいかないエピソードと言えるだろう。 |