データ 脚本は上原正三。 監督は本多猪四郎。 ストーリー MATに入った郷はMAT隊員相手に技能試験を受ける。 郷は竹刀を握ったことがないにもかかわらず、剣道4段の腕前の丘隊員に勝利した。 また柔道の猛者である南隊員も寄せ付けない。 「全く負ける気がしない。そうか俺はウルトラマンなんだ。ウルトラマンとしての超能力が俺の力になっている」。 続く岸田との射撃対決も郷の完勝に終わる。 「テストの結果郷隊員は全てにおいて相当な実力を持っている。私の目に狂いはなかったというわけだ」と加藤。 その頃タッコングが再び東京湾に現れオイルプラントを襲っていた。 MATはすぐ出撃するが、逃げられてしまう。 MAT基地内では東京湾に住み着いたタッコングをどうするか議論になっていた。 確実に倒せないなら、地上に出ないうちは攻撃を控えた方がいいと言う岸田。 しかし隊長は「放って置くわけにはいかない」とタッコングをMATサブで挟撃する作戦を立てる。 「Z弾は出来るだけ接近して撃て、わかったな郷」。 「任せてください」。 自信満々な郷。 郷は南とMATサブに乗り、海底を探索する。 するとレーダーに反応が。 「見つけ次第やっつけましょう」と郷。 「あくまで作戦は忠実に守るんだ」と南。 しかしタッコングを発見した郷は南の制止を無視してZ弾を発射してしまう。 だが、タッコングに致命傷を負わすことは出来ない。 怒ったタッコングにMATサブは叩き落されてしまう。 気を失う南。 「こうなったらウルトラマンになってやる」と郷。 「ウルトラマンになれ、ウルトラマンになれ」。 しかし郷がいくら念じてもウルトラマンに変身できない。 基地に帰った南は岸田に作戦無視を咎められる。 「すいません」、謝る郷。 「すべて私の責任です」、庇う南。 しかし「そうはいかん」と加藤。 加藤がテープを回すとサブ内での会話が録音されていた。 作戦の失敗が郷の独断にあると判断した加藤は、郷に除隊を申し渡す。 庇う南に対し、隊長は 「郷の取った行動はミスではない。身勝手な思い上がりだ」と一蹴する。 「俺はウルトラマンになれなかった。辞めてマシンを組み立ててる方がいいんだ」。 郷は坂田家へ帰る途中、ブティックで働くアキの店に顔を出す。 「俺、MAT辞めてきちゃったよ」。 「アキちゃんまでがっかりすることはないだろ」。 「半分はがっかりだけど後の半分は嬉しいの。だって郷さんが帰ってきたんですもの」。 「加藤隊長から連絡があった。郷を返すと言ってきたよ」と坂田。 「流星ニ号を作りましょう」と言う郷だが坂田はつれない。 「俺はもうお前と組むつもりはないんだよ。これから5年としてお前はいくつになるかな。レーサーとしてはトウが立ち過ぎてる。組むんならもっと若い奴と組むね」。 「それ本当ですか、坂田さん」と郷。 「鈍いなお前も。その気がないんなら何でお前をMATになんかやるか」。 「ちきしょう」、外に飛び出す郷。 「酷いわ兄さん、あんまりよ」とアキ。 「今1番郷に必要なことは1人で考えることだ」と坂田。 海辺で1人で考える郷。 「俺は確かに思い上がっていた。ウルトラマンであることを誇らしく振り回そうとしていた。その前に郷秀樹として全力を尽くし、努力しないとならなかったんだ」。 タッコングの鳴き声を耳にする郷。 その頃MATは、オイルプラントの油圧が下がったとの連絡を受け、オイルプラントに偵察に飛ぶ。 再び姿を現すタッコング。 MATは出撃して攻撃するが、タッコングはものともしない。 一方オイルプラントでは逃げ遅れた作業員が機関室に閉じ込められていた。 作業員を助けに行く南だったが、逆にオイルに引火した炎に包まれてしまう。 心配そうに見守る加藤。 その時郷が1人、作業員救出のためプラントの方へ走っていった。 「必ずくると思った」と隊長。 郷は作業員を1人救出しさらに他の作業員も救出しようとする。 「これ以上は無理だ」と隊長。 しかし郷は隊長の制止を振り切って火の中に向かう。 郷は必死に火を消し止めようとする。 その時、光が郷を包み込んだ。 ウルトラマンに変身する郷。 タッコングと格闘するウルトラマン。 最後はスペシウム光線でタッコングを倒し、空の彼方へ飛び去った。 隊長とともに坂田自動車工場に戻ってくる郷。 「あなたの所から戻った郷は立派に立ち直ってました。もう非の打ち所のない、立派なMATの一員です」。 お礼を言う加藤。 一方坂田も加藤に願いを申し出る。 「休暇の時でいいから郷を貸してください。流星ニ号を作りたいんです」。 「ほんとですか坂田さん」。 「俺たちの夢なんだ。大事に育てよう」。 涙ぐむ郷。 「泣く奴があるか」。 「だって嬉しいんだ。嬉しいんですよ」。 基地に戻る郷を見送る坂田兄弟。 「1番星を見つけた」と次郎に小遣いを上げるアキ。 「幸せなんだなアキは。1番星は幸せな人間にしか見えないと言われているんだ」と坂田。 「幸せよ、とっても」。 坂田は次郎を連れアキを残してその場を去る。 1人幸せそうに1番星を見つめるアキ。 そこには笑いかける郷の姿が映っていた。 解説(建前) まず郷が変身できなかったシーン。 ウルトラマンはやる気のない奴、いい加減な奴に力を貸すつもりはない。 そのことを郷に教えたかったのだろう。 ウルトラマンも人の子(?)。 一生懸命に地球を守ろうとする意志のない奴に力を貸すほどお人よしではありません。 サブ内の会話が録音されていたのに、郷の正体は何故ばれなかったか。 まあ、「ウルトラマンになれ」というセリフを聞いても、「こいつ馬鹿じゃないの」と思われるのが関の山なので実は問題ないのかもしれないが、これはやはりタッコングに叩き落された衝撃で録音装置が止まったと解釈するのが穏当だろう。 しかし艇内の会話を録音されてるとは、なかなか管理が厳しいMATである。 南は機関室に閉じ込められていたのに、ウルトラマンが戦ってる時はいつの間にか救出されていた。 これはストーリー内では描かれていないが、漸く救援舞台が駆けつけて皆救出されたか、ウルトラマンが救出したかのいずれかであろう。 郷がウルトラマンに変身した時はおそらく皆気を失っていたと考えられ(じゃないと正体がばれる。ウルトラマンがそのようなことをするはずがない)、一旦等身大に変身したウルトラマンが火を消し止めたとも考えられる。 いずれにせよ、それほど問題はないだろう。 感想(本音) 衝撃の展開。 ウルトラマンに変身を拒否される郷。 まさに前代未聞の展開である。 今まで変身アイテムを失くしてウルトラマンに変身できない話はあったが、ウルトラマンに変身を拒否された例はなかった。 「ウルトラマンになれ」。 まさにウルトラシリーズの歴史を変えた名シーンである。 そして特撮史に刻まれるべき名シーンでもあろう。 それでは以下細かい感想を。 丘隊員は今回も黒髪のロングヘア。 如何にも日本的な美人という感じだ。 ただ台詞回しはあまり上手くない。 しかし「そうだとすると、私は素人に負けたことになるわ」というセリフはプライドの高さを感じさせ良かった(何じゃそりゃ?)。 柔道で負けた南は素直に郷の凄さを認めている。 郷のミスを庇って自分の責任にしようとしたり、いい兄貴分たる南のキャラが早くも発揮されている格好だ。 一方射撃で負けた岸田は郷の結果を見てひどく落胆している。 大全によると、岸田は郷に負けた悔しさから的を撃ち続けるとあるが、そのシーンがなくとも十分岸田の悔しさは伝わってきた。 郷に対する反感の端緒が既に見受けられる。 「全く負ける気がしない」という郷のセリフも秀逸。 隊員たちとの試験で郷の能力の特殊性を描き、後半の思い上がる郷につなげる展開は無理がなく上手いと思う。 今回も盛り沢山の内容を30分で処理しており、上原氏の脚本家としての資質の高さがうかがわれる。 海底に基地のあるMAT。 しかしはっきり言って危険だと思うぞ。 怪獣に破壊されたらそれこそ全滅じゃないか。 しかも飛行機の離発着は大変だし、行き来も不便そう。 中盤から後半にかけてはあまり海のシーンは出てこないことからも、スタッフもやはりやりにくかったのだと思う。 工場に帰ってきた郷を冷たく突き放す坂田。 しかし坂田は何故郷をMATにやったのだろう。 加藤の熱意に押されたというのもあるだろうが、郷はレーサーを目指しており、レースでの優勝は坂田の夢でもあった。 しかも郷は工場に1人しかいない貴重な職工である。 これは難しいが、坂田自動車工場の経営状況に関係があるのではないか。 坂田家ではもう郷を雇えるだけの余裕はなかった。 しかし郷はアキの意中の人であり、兄の坂田としても無下に解雇するわけにもいかない。 そして流星号。 流星号は死んだ郷を弔うため燃やしてしまった。 流星号の完成には、おそらくかなりの額を投資したに違いない。 また作り直すだけの予算は坂田家には残っていない。 そこで坂田は郷をMATに入隊させ、自らの経済的負担を軽くした。 そうすれば新たな流星号を作る予算が捻出でき、同時にアキの結婚相手としても安定した収入が期待できる。 もちろん坂田自身、郷の正義感の強さを見抜いていたのもあるだろう。 そういう諸々の事情があってこそ、加藤の熱意に応えようと思ったのである。 そしてそれは結果的にウルトラマンの力を手に入れた郷の希望にも沿っていたというわけだ。 かなり独断だがそういうことにしておく。 しかし郷のためとはいえ、坂田のセリフはあまりにも無慈悲。 郷があっさり反省し、自分の非を認めたことについて、大全では本作の弱点としている。 確かにスポ根ものとしては問題があろう。 しかしこれはあくまでウルトラマンである。 郷はウルトラマンになるべく選ばれた人間である。 そして恩師の坂田の厳しい態度。 自分を取り戻すにはこれで十分ではなかろうか。 それに子供たちのウルトラマンごっこを見て、自分が同じノリでウルトラマンに変身しようとしていたことにも気付いており、はっきり言って破綻はないと思う。 このウルトラマンごっこの演出は、その辺りを慮った本多監督の演出かもしれない。 いつの間にか救出されていた南。 その辺り描かないとかなり不自然だったぞ。 作業員を1人助けた郷に対し隊長は「これ以上は無理だ」。 冷静な判断だろうが、見殺しはちょっと酷いぞ、隊長。 タッコングは2回に渡って登場し、しかも怪獣を1匹倒したにも関わらず実は弱い。 しかしオイル怪獣にスペシウムは…以下略。 郷を戒め、郷を信頼する加藤隊長。 加藤隊長も郷の成長物語に欠くことのできないキャラクターだ。 アキが1番星を見つめるラストシーン。 「幸せよ、とっても」。 アキの運命を知っている我々には涙が出そうなセリフである。 今回、早速人間ウルトラマンという設定が本領発揮されている。 そもそもウルトラマンと人間とは別人格であり、初代マンにおいてもそのことが描かれても良かったはずである。 ただ初代マンはそのことをあまり描かず、ハヤタとウルトラマンをほぼ一体のものとして描いていた。 これはハヤタが科特隊のエリートであり、ウルトラマンとの人格的な乖離が少なかったことから可能であった。 そしてあくまでウルトラマンと怪獣を主役にするため、あえてその問題を避けて通ったのである。 しかし人間とウルトラマンが合体する以上、それぞれの軋轢は生じないほうが不自然である。 そこで「帰ってきたウルトラマン」ではカーレーサーであり、不完全な人間である郷秀樹を主役にすることでそのことを白日の下に晒した。 ウルトラマンと人間はそもそも別人格であり、その設定こそウルトラマンという作品の根幹である。 と同時にそれはウルトラマンを他の作品と違わしめる大きな魅力であり、快挙でもある。 上原氏は金城氏(と思われる)の作り上げたその設定を見事掘り下げ、ここに新しいウルトラ像を見せてくれたのである。 |