ウルトラセブン参上!


データ

脚本は市川森一。
監督は鍛冶昇。

ストーリー

宇宙ステーションと交信する加藤。
MATステーションには加藤の大学時代からの親友梶が隊長として任務についていた。
梶には来月子供が生まれるという。
しかしその時異変が起こる。
ステーション内の電圧が急に下がり始めたのだ。
そして宇宙から怪しい浮遊物体がステーションに接近する。
浮遊物体の正体は巨大な怪獣でステーションを腹の口から飲み込もうとしていた。
レーザーで応戦するステーション。
しかしレーザーは怪獣の嘴に吸収される。
その間にもステーション内のエネルギーはますます怪獣に吸い上げられていった。
「宇宙空間より怪獣襲来」。
MATにステーションからの連絡が入る。
「宇宙に?怪獣が?」と郷。
ステーションは第三ハッチも破られ、怪獣の腹の中に完全に飲み込まれてしまった。
そのまま地球に向かう怪獣。
「見つけ次第撃ち落せ。ミスは許さん」と加藤。
「必ず仇は取ってやる。梶」。
地球に飛来した怪獣を攻撃するMAT。
しかし南と上野のアローは怪獣に撃墜される。
郷と岸田はアロー2号で怪獣を攻撃。
しかしミサイルでの撃墜は難しいと判断。
隊長の命で基地に引き返す。
入院する南、上野に
「敵の力は我々の想像を遙に超えていたらしい。すまなかった」と謝る加藤。
加藤は郷とともに梶の妻に報告に行く。
ショックで取り乱す梶の妻。
基地に戻った加藤らは怪獣の分析を進める。
MAT航空医学センターの分析によると怪獣はかに星雲の宇宙生物ベムスター。
ガス源をエネルギーにしているという。
その夜、ガスの貯蔵所に襲来したベムスターはタンクからガスを吸い上げる。
付近の住民を避難させ攻撃するMAT。
しかし岸田のアローはベムスターの角から出る怪光線によって墜落させられる。
岸田を救出し「今度は必ず息の根を止めてやる」と加藤。
翌朝、コーヒースタンドで新聞を読む郷。
その時ガスが止まり地震が起きる。
郷はベムスター出現を察知。
ビハイクルに乗り込み、現場に向かう。
今度はアローに新兵器シュミット工学ミサイルを搭載し攻撃する加藤。
一方郷は怪獣に向かって走り出し自らの意志でウルトラマンに変身した。
ベムスターと格闘するウルトラマン。
しかし頼みのスペシウム光線がベムスターの腹の口に吸い込まれなす術を失くしてしまう。
踏みつけられねじ伏せられるウルトラマン。
ウルトラマンは空に向かって飛んで行ってしまう。
「ウルトラマンも敗れた」と加藤。
一方ウルトラマンは太陽へ向かって飛んで行く。
「太陽。この私をもっと強くしてくれ。お前がお前の子である地球を愛しているならこの私にベムスターと互角に戦える力を与えてくれ」。
「これ以上太陽に近付いてはならない。太陽の引力圏に捉えられたら最後だ。引き返せウルトラマン」と何者かがウルトラマンに呼びかけた。
しかしウルトラマンは太陽の引力に捉えられ、自由が利かないようになる。
その時ウルトラセブンがウルトラマンを助け出した。
「お前にこれを与えよう。ウルトラブレスレットだ。それさえ身に着ければ如何なる宇宙怪獣とも互角に戦えるだろう」。
孤軍奮闘する加藤。
しかしとうとうベムスターの前に加藤のアローも撃墜される。
炎を上げて墜落するアロー。
その時再びウルトラマンが現れた。
ウルトラマンは加藤のアローをキャッチし、再びベムスターに 対峙する。
「ウルトラマンが帰ってきた」。
ブレスレットを空高く掲げるウルトラマン。
金縛りに合うベムスター。
そしてそれをベムスターに向かって投げつけた。
ベムスターは手足を切り裂かれ、炎上し最期を遂げた。
「やったぞ、梶」と加藤。
「早く帰って傷の手当てを」と言う郷に対し、それを断る加藤。
「梶の奥さんに知らせたい」。
ビハイクルに乗る2人の顔には満足感が漂っていた。

解説(建前)

ウルトラマンは何故ウルトラスラッシュを使わなかったか。
これはベムスターと戦ってみて、その体の強度から切り裂くのは不可能と判断したからと思われる。
またスペシウム光線が通じない相手にはウルトラスラッシュ自体も通用しない可能性が高い。
ウルトラスラッシュは元々スペシウム光線と同じ成分である。
したがってスペシウムと同じように腹の口から吸収される可能性が高いといえるだろう。

それでは腹の口を避けて光線を放つなり攻撃するなりしなかったのは何故か。
これもベムスターの強度から他の部分であっても致命傷を与えるのは難しく、攻撃しても無駄と判断したからであろう。
ベムスターは嘴からもエネルギーを吸収するので、ほぼ全身がそういう光線に耐性があると考えられる。
何れにせよスペシウム光線が通用しない以上、ウルトラマンが 勝つ可能性はかなり低いものと思われる。

MATは何故ベムスターを知っていたか。
MAT航空医学センターはベムスターについてかなり詳しい資料を有していた。
これはどういうことか。
色々考えられるが、MATはかに星雲の爆発による宇宙線などを分析し、ベムスターについて推測したものと思われる。
ベムスターの体から、かに星雲の爆発との関連性を推測させる何かをキャッチしたのであろう。
ベムスターがどんなスピードでやって来たのかはわからないが、ウルトラの世界では実際の世界より宇宙は狭いようなので、それほどかに星雲は離れてないのかもしれない。

感想(本音)

帰ってきたウルトラマン、いやウルトラシリーズのエポックメイキングとなった話。
全編怪獣との対決というシンプルな構成。
宇宙を飛んで来る宇宙怪獣。
加藤と梶の友情のドラマ。
新兵器ウルトラブレスレット。
そして、ウルトラセブン参上。
地球怪獣相手にやや泥臭く、また坂田家を中心にホームドラマを描いていた路線から一気の方向転換である。
私なんかも子どもの頃、その緊迫感に身が引き締まる思いがしたのを覚えている。

今回の怪獣は帰ってきたウルトラマン初の宇宙怪獣である。
「宇宙に?怪獣が?」という郷のセリフはその事態の異常さを表すのに効果的であった。
そもそも宇宙空間を怪獣が飛んでくるというシチュエーションが考えづらい。
セブンや初代マンを振り返ってもギエロン星獣くらいではなかろうか。
ドラコは彗星の接近に伴うもので宇宙空間を飛来したとは言い難いであろう。
後は宇宙人が連れてくるか、ベムラーやジャミラのように乗り物に乗ってくるか。
スカイドンやシーボーズはよくわかりません。

今回の主役は郷ではなく加藤。
しかしこれはあくまで人間側の主役であって、実質的な主役はウルトラマンである。
そのことは後に譲るとして、復讐のために鬼気迫る加藤隊長の 姿は印象深い。
塚本氏は22話で降板し実際は根上氏の方が隊長である期間は長いのだが、MATの隊長といえば加藤を思い出すのはこういう印象深いエピソードが多いためであろう。
最後復讐を遂げ満足気な笑顔を浮かべるシーンなど、塚本氏の味のある演技が光っていた。

ウルトラブレスレットについては賛否両論あるだろうが、新マンが初代マンと能力的にほとんど差がなかったことから、その差別化という点で非常に大きな功績を残したのは間違いない。
ウルトラセブンはアイスラッガーという武器で初代マンと差別化を図っていた。
そのセブンに渡されたウルトラブレスレットにより新マンに新たな個性が加わるのは何とも象徴的である。
そしてこのブレスレットは次第に万能武器と化して行く。
しかしあくまでアイテムであることから思うままにはいかない。
そこまで考えて作った設定ではないであろうが、このブレスレットにより話の幅が広がったのは間違いないだろう。
そしてそれは視聴者である子どもたちに大いにアピールしたのである。

以下細かい点を。
墜落するアローを見送る郷や岸田は何となく冷酷に見える。
戦いの厳しさを演出するためであろうか。
岸田は基地に引き返す時アローで1回転して見せた。
これは岸田の操縦技術や実戦慣れを示す演出であろう。
ベムスターに飛び蹴りを交わされてピンチになるウルトラマン。
毎度の事ながら情けない。
太陽の引力を物ともしないウルトラセブン。
凄すぎるぞ!セブン。

加藤隊長のアローをキャッチするウルトラマン。
しかしあれってほぼ正面衝突と同じ衝撃がありそうな気がするが。
コーヒースタンドの店員はTACの今野隊員の人。
エースを見てしまった後では今野にしか見えない。
二回に渡るビハイクル延々のシーン。
少しくどいが、1回目のシーンは戦いに行く緊張感や今までの敵とは違うぞという雰囲気を感じさせ悪くないと思う。
今回坂田家の出番はなし。
さすがホームドラマ嫌いの市川氏。

本話は全編ほぼ怪獣との対決である。
帰ってきたウルトラマンは坂田家とMATを中心に人間ドラマを描くことに主眼が置かれていた。
ここまでのエピソードは例外なく、郷やそれ以外の人間が中心となっている。
しかし本話の中心はベムスター、そしてウルトラマンである。
加藤の復讐譚はあくまでサイドストーリーと考えるべきだろう。
そのことは郷を見ればわかる。

今回郷の内面はほとんど描かれてない。
いつもなら郷の内面を描写して変身にまでこぎつけるのだが、今回は何の苦労もなく自らの意志で変身している。
今回の主役はウルトラマン自身なのであるから、このような郷の扱いはある意味当然なのだろう。
それはセリフにも表れる。
「宇宙に、怪獣が?」「ミサイルを食らっても生きてやがる」「ガスを吸い取ってやがる」などなど。
今回はこのように単なる説明的なセリフが多い。
郷にドラマがない以上、このような無内容なセリフにならざるを得ないのだ。

一方、ウルトラマンは今までにない人間的なセリフを話している。
戦いに敗れ弱音を吐くウルトラマンというのは前代未聞である。
そして太陽に吸い込まれていくウルトラマン。
これについては大全によると、金城氏が太陽の子であるウルトラマンが親である太陽に殺されるはずはないと憤慨したという。
このことはウルトラシリーズが金城的世界観を脱却し、新たなステージに入ったことを窺わせ興味深い(もちろん優劣の問題ではない)。
すなわちこれまでは人間ウルトラマンであるとは言え、ウルトラマン自身の性格は初代とそれほど変わらなかった。
あくまで郷の内面を中心に描くことにより初代と差別化を図っていたのである。

しかし本話においてはウルトラマン自身の内面を描くことにより、ウルトラマンを人間と同じヒーローとして扱っている(セブンは既に人間そのものであったが…)。
ウルトラマンも悩み、苦しみ、葛藤するのだ。
市川氏にとってヒーローとは試される者だという。
ウルトラマン自身が試されることによりウルトラマンは神の座から降りてしまう(そもそもウルトラマン=神という図式は「さらばウルトラマン」で否定されている以上、そのような図式が成り立つのか疑問ではあるが)。
そしてそのことは結果的にウルトラファミリーへとつながって行った。
しかしそのことによりウルトラマンが駄目になったとは言えないだろう。
最初から宇宙人としてウルトラマンが設定されていた以上(しかも怪獣の護送という非常に人間臭い仕事をしている)、シリーズが進めばそのことは無視することは出来なくなるからだ。

同じことばかりやっていては飽きられる。
ウルトラシリーズがこの後4年も続いたのはまさにこの設定の賜物であろう。
そしてウルトラシリーズが続くことにより、新たに旧作も見直されることになるのである。
本話は今までのウルトラシリーズの大きな転換点となったエピソードである。
ウルトラセブン参上を単なるイベント編にはせず、人間ドラマを織り交ぜつつ後の路線への布石とする。
そこまで考えてはいなかったのだろうが、この頃の市川氏の才能の迸りを再認識させられ興味深い。


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