データ 脚本は田口成光。 監督は山際永三。 ストーリー 電車の高圧線から電気を吸う怪獣。 「エレドーダスが帰って来たんだ」。 少年はそう言うと足を引きずりながら姿を消した。 その頃MAT基地では電灯が点滅し、郷はそれを訝しがっていた。 ある日次郎は学校帰りにアメリカンクラッカーを打ち鳴らす少年に出会う。 少年は次郎に宿題の算数のノートを貸し、3時に自分の屋敷に返しに来るように言う。 久々に坂田家に帰って来てくつろぐ郷だったが、次郎が宿題のノートを写すのを見て誰のノートか質問する。 ノートの持ち主が加藤隊長の甥の進と知った郷は次郎と一緒に加藤家にノートを返しに行く。 しかし進の母親は進がノートを無くしたと言っていたといい、首を傾げる。 屋敷を出ようとすると少年が現れ「3時って約束しただろ」と言う。 そして、加藤から聞いたと停電の件で何か秘密があると郷に仄めかす。 「MATの人なのに知らないの」と言われてショックを受けた郷は、基地に戻り隊長に何か隠し事はないかと尋ねる。 「子供に話すはずないじゃないか」と否定する加藤。 郷が進が嘘を言ってるのじゃないかと言うと、「進は嘘なんかつける奴じゃないぞ。お前は休みぼけじゃないか」と取り合ってもらえない。 真偽を確かめるため少年に会いに行く郷。 「君は進君だね」。 「疑り深い人だな」。 その時車庫の方から人の声が聞こえてきた。 「助けて」。 郷が急いで車のドアを開けるとこどもが縄で縛られ猿轡を噛まされた状態で横たわっていた。 郷が名前を聞くと男の子は進と名乗り、学校から帰ったらいきなり襲われたと言う。 「あのうそつき少年め」と郷。 次郎とともに付近を捜索する郷は、とあるあばら家から例のアメリカンクラッカーの音がするのを聞きつけ、その家を訪ねる。 家からは少年の祖父という男が出てきて、少年の名は史郎といい、父親を亡くしてから嘘ばかりつくようになったと話す。 史郎の父親は電車の運転手をしていたが、1年ほど前に運転ミスから電車事故を起こし、自らも命を落としていた。 そして史郎もその事故に巻き込まれ、片足が不自由になったという。 「また加藤さんとこでいたづらしましたか」。 加藤隊長の兄は電鉄の社長で史郎はそこでよく悪さをしているという。 空き地では自分で作ったという亀の怪獣で遊ぶ史郎の姿が。 「今夜怪獣が出て鉄道なんかぶっ壊すからな」。 基地に戻った郷が事故のことを話すと加藤は、MATでも調査したが足跡一つ見つからず、結局事故として処理されたと言う。 しかしその夜、少年の予言は的中した。 怪獣が電車を襲い、電車は脱線事故を起こしてしまう。 現場に駆けつけた郷と南は史郎が現場から逃げ出すのを目撃する。 事故について分析するMAT。 岸田は「少年が自分の嘘を正当化するために石を置いたのではないか」と発言する。 少年の父の事故も少年の置石が原因ではと分析する岸田に対し「少年がそんなことするはずがない」と反論する郷。 郷は少年にもう一度会って詳しいことを聞くことにする。 少年が川の堤で逃げ出した亀を探してるのを見て、郷は自ら川に入り亀を捕まえ史郎に渡す。 「1番好きな怪獣は?」 「エレドーダス」。 「1番嫌いな怪獣は?」 「エレドーダス」。 「何だ。どっちも同じじゃないか」。 「やっぱり僕のこと疑ってるじゃないか」。 そう言うと少年は去ってしまう。 史郎の祖父を訪ねた郷は祖父から「少年が怪獣が自分の父親を殺したと信じきっている」と聞く。 そこに帰ってきた史郎は「あの時本当に怪獣が出たんだ」と言うが、郷は「嘘をつくな」と思わず殴ってしまう。 その時怪獣出現の報が入り、郷は変電所へ向かう。 怪獣は電気を吸い、変電所の電圧はドンドン下がっていた。 攻撃するMAT。 しかし史郎が怪獣に近付いて行ったため、郷は攻撃を中止するよう加藤に要請する。 史郎はクラッカーを打ち鳴らし怪獣に向かって「暴れろ、暴れろ。東京なんか滅茶苦茶にしてしまえ」と言う。 しかし史郎は怪獣の吐く光線に吹き飛ばされてしまう。 「エレドーダス。僕を殺すつもりかい」と少年。 その時郷が駆けつけ、史郎を助け出す。 「あの怪獣に父ちゃんの電車がぶつかったんだ」。 「君をぶって悪かった」と謝る郷。 「信じてくれるね」。 「ああ、信じるとも」と郷。 「お父さんの敵は必ず取ってやる」と怪獣に立ち向かう郷。 しかし郷は吹き飛ばされた貨車の下敷きになってしまう。 ウルトラマンに変身する郷。 しかしウルトラマンはエレドータスの放電攻撃に大苦戦。 少年から「エレドーダスは頭が弱い」と聞いたMATはエレドータスの頭にナパーム弾を撃ち込む。 最後はウルトラマンがスペシウム光線を浴びせエレドータスは大破した。 「さようなら、エレドーダス」。 その時「おーい!」と郷の声が。 「お兄ちゃーん」と史郎は郷の下に駆け寄っていく。 「足が治ってるぞ」と隊長。 「みんなのところまで競争だ」。 元気になった少年とかけっこする郷であった。 解説(建前) エレドータスは何者か。 これは色々な説が考えられるだろう。 まず少年の生み出したトラウマ説。 この説を採ると、最初の父親の事故はエレドータスのせいではなくなることになる。 父の事故を見てショックを受けた史郎が怪獣の幻影を見、周りから孤立するにしたがってそれが徐々に実体化していった。 その史郎の生み出した妄想は史郎の大好きな亀に乗り移ったのだろう。 史郎が怪獣の弱点を知っていたのも自分が生み出した妄想だからということになる。 次に考えられるのが電車事故にあった亀の怨念説。 この説によると、最初の事故は亀がちょうど置石状態で史郎の父がそれに乗り上げてしまったと考えることになる。 しかしこれでは亀に過失があり、怪獣化するには根拠がやや弱いだろう。 それでは何らかの事故で亀が感電死し、その怨念で電気を吸う怪獣になったというのはどうか。 この説によると、史郎の父の事故はまさしくエレドータスの仕業ということになる。 その後1年くらい現れなかったのは冬眠にでも入っていたのだろう。 ただこの説では史郎が怪獣の弱点を知っていた理由が分からなくなる。 この点についてはこう考えるしかないだろう。 すなわち史郎は弱点を知っていたのではなく、知っているつもりだった。 MATがナパームを撃ち込んで怪獣を弱らせたのは偶々ということだろう。 若しくは亀全般が頭が弱いので史郎もそう思っただけなのかもしれない。 以上3説挙げたが私は最初の事故も怪獣の仕業と考え、第3説を採用しておく。 第1説も捨てがたいが、ここまで行くとあまりにも観念的過ぎるだろう。 またあくまで父親の事故は怪獣の仕業と少年が主張し続けてたこととも整合性を欠く。 よって出来るだけ作品から客観的に分析したい当HPとしてはちょっと採用しづらい。 少年はあくまでエレドータスに自分を投影していたと考えるべきだろう。 少年がエレドータスを好きだと言った理由は? エレドータスは本来父の敵であり恨みの対象になるはずである。 これはおそらく父の無実を信じてくれなかった世間に対する復讐をエレドータスに託したのであろう。 そしてそれは自らの貧しさに対する世間への恨みでもあった。 しかし自分のために親身になってくれた郷の優しさから少年は孤独を脱し、エレドータスが倒されたことにより過去からも解放された。 そして心の病から来る足の病気からも立ち直ったのだろう。 感想(本音) 解釈に困る作品。 子供の頃見たときもあまり印象はなく、今見てもよくわからない。 正直個人的評価の低い作品である。 まず話がよくわからない。 一体エレドータスと少年の関係は何なのか。 物語を素直に見るとエレドータスはただの怪獣のようだが、時折少年の生み出した妄想のように感じられる時もある。 そういう軸のぶれを製作者は意図してやってるのか、単にどっちつかずなのか。 まず少年がエレドータスの出現を予言するシーン。 まるで少年がエレドータスを自由に操ってるかのような印象を与える。 そして郷に嘘つきと殴られるシーン。 少年が嘘をついてないなら、ああいう風に殴られればもっと頑なになり、心を閉ざしてしまうはずである。 しかし少年は逆にこのことをきっかけに郷に心を開き始める。 これだけ見ると、少年は父を庇うために嘘をついていたように感じられる。 しかし少年はエレドータスが出現すると、自分の言い分が正しいことを必死で主張し、郷がそれを受け入れてくれることにより漸く立ち直ったように描かれている。 この辺り一貫性を欠いてるようで理解に苦しむ。 また、この話は細かい粗が目立つ。 MATは電車の運転手が怪獣が出たと言っているにも関わらず、少年が走り去るのを見たというだけで、少年を犯人と決め付けている。 そして強引に1年前の事故も少年のせいにしてしまう。 確かに岸田はそういう冷徹な所もあるが、これではあまりに悪役である。 上原脚本では岸田に理がある場合が多いが、この話の岸田の役割はただ郷を嫌がらせるためだけの薄っぺらいものでしかない。 そもそも運転手の証言を無視する理由がわからない。 本来なら透明怪獣を疑って調査するのがMATであろう。 また細かい点だが史郎と進は次郎とは別の小学校に通っている設定である。 それなのに宿題のノートを貸すというのはどうも合点がいかない。 しかもノートには5年A組と書いてあり学年まで違う。 次郎の小学校の方が1年ほど勉強の進みが速いのだろうか。 また郷が逃げ出した亀を助けるシーン。 しかしあの高さから亀はどうやって逃げたのだろうか。 そして何故か長靴を履いている郷さん。 笑って済ませばいいのかもしれないが、こういう話だと突っ込みたくなる。 進を待ち伏せして車に閉じ込める史郎。 郷が確かめに来るのを予測しての行動だろうが、少しやりすぎ。 しかし「また加藤さんとこでいたづらしましたか」というセリフからはもう少し加藤家で史郎を警戒して良さそうだが。 この辺りもややリアリティに欠けるだろう。 また史郎の祖父が包丁を持って現れる演出も少し狙いすぎと言うか、イマイチ意図がわからない。 アメリカンクラッカーとともに少年の尖った心情を描写してるのだろうが、ストーリー全体からはその意図は伝わったとは言いにくいだろう。 ここまで批判ばかりを書いたが、少年を中心にしたテーマは田口氏の真骨頂であり、ウルトラに新しい風を吹き込んだのは確かである。 しかしこの話は少年に重点を置き過ぎた為、怪獣やMATが置き去りになり、「帰ってきたウルトラマン」という作品においてバランスを失してしまってる感は否めない。 これがタロウやレオならあるいはだったのかもしれないが、それにしても脚本の粗が多く、まだまだ田口氏の実力が本物ではないことを感じさせる。 結局、屈折した少年という田口氏の個性は発揮された代わりに「帰ってきたウルトラマン」らしさが失われたというのが、本エピソードの評価ということになろうか。 個人的には問題を感じる本エピソードである。 |