怪獣シュガロンの復讐


データ

脚本は上原正三。
監督は鍛冶昇。

ストーリー

白神山一帯で3ヶ月に一度の特別訓練を行うMAT。
郷は近くをウサギを抱いた少女が通りかかるのを目撃する。
その間にも隊員たちは次々と訓練をこなしていった。
火の輪くぐり、射撃、崖上り。
しかし訓練も佳境に入ったところでバイクに乗った3人組が訓練場に乱入して悪態をついた。
一通り悪態をつき訓練場を出た3人は、山中でさっきの少女を見つけ追い回す。
少女は橋のたもとで3人に追い詰められてしまうが、その時突如怪獣が現れた。
3人は怪獣に襲われ大怪我を追う。
MATが現場に駆けつけると、「娘が怪獣」と言い残し男は気を失った。
村の巡査の話によると、谷には静香という少女が一人で住んでいるという。
郷は隊長の命令で静香を避難させるため谷に向かった。
郷は滝の傍らで髪をすく静香を発見する。
しかし静香は郷を見ると逃げ出してしまった。
「怪獣はここには来ません」。
避難を拒否する静香。
その夜再び怪獣が現れバイパスが襲われた。
連絡を受けた郷は野宿して静香を探すことにする。
その時郷は灯りのついた一軒家を発見する。
中で静香を見つける郷。
「もしかして君が怪獣を操ってるんじゃないのか」。
「冗談だよ。何故怪獣はこの谷を襲わないんだ。何故君は怪獣が怖くないんだ。不思議な話じゃないか」と郷。
郷はふと部屋の中の絵画に目を留める。
それが牛山画伯の描いた絵と知った郷は、静香が牛山画伯の娘だということに気がついた。
娘の絵ばかり描くことで有名だった牛山画伯は、15年前に5歳の娘とともに姿をくらましていた。
静香の話によると、画伯は静香の交通事故を期に車のない山奥に移り住み、静香のリハビリをしていたという。
画伯にとってこの谷はまさに理想郷であった。
翌日静香と一緒に画伯の墓参りをした郷は、その周りが硫黄で出来ているため怪獣が蛇のようにそれを嫌い、谷には来ないことに気付く。
静香によるとシュガロンは大人しい怪獣だったが、バイパスの開通以来凶暴になったという。
被害が続発することから怪獣の探索をするMAT。
シュガロンを発見したMATは空と陸からシュガロンを攻撃する。
手負いのシュガロンが谷の方へ逃げ出したことから郷に連絡する加藤。
郷は「この辺りは硫黄岩になっていて怪獣は来ない」と返事するが、怪獣は目をやられ方向感覚が麻痺したため谷の方に向かってきた。
「今まで1度も来たことがないのに」と静香。
シュガロンは画伯の一軒家に火を吐き、屋敷は炎を上げて燃え始めた。
必死に屋敷に戻り絵を運び出そうとする静香。
止めに行く郷だったが静香は言うことを聞かない。
そうこうしてるうちに絵は燃え上がり、それとともに静香も気を失ってしまった。
炎の中ウルトラマンに変身する郷。
シュガロンと格闘するウルトラマン。
怪獣の炎に苦戦するも、最後は霞切りでとどめを刺した。
谷まで郷を探しに来る隊員たち。
そこへ静香を抱きかかえた郷が現れた。
「死ぬんじゃないぞ」。
しかし静香は郷の腕の中で息を引き取った。
静香を画伯の墓の隣に埋葬するMAT。
「あの怪獣は牛山画伯の化身ではなかったのでしょうか」と郷。
「牛山画伯は怪獣になって娘を守っていた。牛山画伯は車を嫌ってここに移り住んだ。だから開通したばかりのバイパスを襲ったんだ」。
「奇抜すぎるけどこの際信じたい気がするな」と岸田。
「さようなら静香さん」。
山を下りる隊員たちであった。

解説(建前)

シュガロンは何者か。
郷の言うように牛山画伯の化身なのだろうか。
すなわち死んだ牛山画伯の心が怪獣に乗り移ったのであろうか。
ウルトラの世界ではヒドラなど、少年の霊が怪獣に取り付く話もあるので一概にそれは否定できない。
怪獣が暴走族だけを襲い、静香が無傷だったのもそのことを後押しするだろう。
とは言え目をやられて方向感覚を狂わされただけで谷まで来、画伯の屋敷に火をつけたのは頂けない。
これはやはり画伯とは別物と考えるか、目をやられて画伯の霊がシュガロンを制御できなくなったと考えるのが妥当であろう。
車を嫌うという共通点があるだけで、個人的には別物と考えたい。

静香が死んだのは何故か。
まず炎の中どうやって脱出したかだが、これはウルトラマンに助け出されたと解するしかないだろう。
では死因は何か。
精神的なものが大きく影響してるのは間違いないが、肉体的にはやはり一酸化炭素中毒と考えるのが正解だろう。
静香は走って屋敷に入り、絵を運び出そうと興奮状態だった。
そのため息も切れており、思いっきり一酸化炭素を吸い込んだものと思われる。
火事は炎よりも煙が怖いと言われている。
静香は致死量に達するほどの煙を吸ったものと考えられる。
もちろん本人の生きる意志の不足というものも抵抗力に影響してるものと思われるが。

感想(本音)

個人的にはかなり好きなエピソード。
初期のMAT対立劇が終わり、郷の成長エピソードも一段落着いたところで方向性を模索しているこの時期だが、その中でも1番幻想的で叙情溢れる好編であろう。
このエピソードはお馴染み坂田兄弟の出番はないが、その分静香役の久万里由香の好演が光る。
理想郷と現実を彷徨う少女の不思議な魅力を上手く演じていた。
鍛冶監督もその辺りの魅力を存分に演出していたと思う。
では内容に。

まずMATの特別訓練の映像が何とも楽しい。
怪獣の的が初代マンの怪獣だったり、弾着の中を走り抜けたり。
しかし何と言っても火の輪くぐりが最もインパクトがあっただろう。
まあいつも炎の中戦ってるので、ああいう訓練が最も実戦的なのかもしれないが。
簡単に部外者の侵入を許すMAT。
しかしそれって危険すぎないか。
バズーカやMATガンを発射してるのに。
しかしあの訓練についていける丘隊員て只者ではないですね。
通信が主任務とは言え、現場に出ることも多いだけにあれくらい出来ないと務まらないんでしょうね。

郷が滝の前で静香を発見するシーンは何とも幻想的で良い。
そのあと姿を見失うのも、静香が妖精的な存在であることを演出したいためであろう。
郷と静香の墓参りのシーン。
はにかみ笑いの静香がかわいいのだが、あまりシーン的に重要な感じはしないぞ。
郷さんも嬉しそうだし、アキちゃんが見たらまた落ち込むかもね。
監督の趣味というか、久万里由香がお気に入りなんだろうな。
ところで紗をかけ過ぎか、DVDではブロックノイズが出まくってました。

炎上した屋敷に絵を取りに行く静香を止められない郷。
ちょっと情けないぞ。
それだけ静香が必死だったのだろうが。
それに折角静香が絵を運び出そうとしてるのに、それをわざわざ炎の中に投げ込むのは無慈悲な気がするぞ。
まあ重い絵を持って逃げ出すのは無理だということだろうが、そのため返って静香が屋敷に留まり、最悪の結果になった気がする。

今回も変身する時、クルクル回ってババンでした。
変身アイテムがないだけに、各監督色々考えて演出してるのがわかります。
最後郷の「怪獣が牛山画伯の化身ではないか」という意見に「この際信じたい気がする」と岸田。
岸田が言うだけにより娘と画伯の間の愛情が伝わってきていいシーンですね。
岸田も徐々に嫌なキャラから脱皮しつつあるのがよくわかります。

今回のエピソード、中心は完全に静香。
人里離れた山奥に一人住む、現実世界とは隔絶された少女。
上原氏は女性の中の神聖なるものに魅力を感じるようであるが、同じく女性の神聖さに興味を抱く石堂氏が巫女的なイメージを好むのに対し、上原氏は妖精的なイメージを好むようである。
今回の静香はまさに妖精そのものだろう。

車の通らない理想郷も結局バイパスの開通により失われ、それに暴れ狂ったシュガロンにより静香の理想郷も終わりを遂げることになる。
そして静香も父の思い出から抜けられず、幻想の世界に逃避したまま命を落とした。
シュガロンは車社会の直接の被害者であったが、静香にとっては現実の代理者でもあった。
迫り来る現実に立ち向かおうとはせず、過去にすがる静香。
自然界の妖精たる静香に現実社会での生きる道は残されてなかったのであろうか。
美しくも儚い少女の物語であった。


新マントップへ戻る