データ 脚本は金城哲夫。 監督は鍛冶昇。 ストーリー MATは営林署の職員が見たという怪獣の捜索をしていた。 上野は水を飲むため勝手に基地に帰投する。 それを見咎めた岸田は 「MAT精神を忘れたのか。怪獣がいようがいまいがあくまでチームワークを保持し規定の任務を遂行する。少数精鋭主義のMATで各自が勝手な行動に出たら一体どうなる」 と上野を一喝し、自ら上野の変わりにパトロールに出かけた。 「堅すぎるよ、岸田隊員は。MATは昔の軍隊とは違うんだ」と上野。 「おじ様が防衛隊の長官をなさるほどだもの。岸田家は誇り高き軍人一家なのよ」と丘。 そこに現れた隊長は「責任感の強いところがあいつのいいところだ。薬のつもりでありがたく拝聴するんだな」とフォローする。 その頃南と郷はアローで現場の捜索をしていた。 そこへ岸田から大勢の人が倒れてると連絡が入る。 そこには映画のロケ隊の人々の遺体が横たわっていた。 3人はロケ隊の撮影したフィルムを持って基地に帰る。 MATでは早速そのフィルムを現像し、それを再生する。 フィルムには時代劇らしき映像が映っており、暫くすると突如現れた黄色い霧によって役者やスタッフが次々倒れていった。 そしてフィルムの最後には怪獣の脚らしき映像が。 「くそぅ、怪獣はやっぱりいたのか」。 さらには怪獣の鳴き声らしきものも録音されていた。 「南隊員。あの山崩れは地底怪獣が出た跡だったんですよ」と郷。 「黄色い霧と怪獣。密接な関係がありそうだな」と隊長。 そこへ佐竹参謀が入ってきた。 分析の結果、死因は致死性の強い毒ガスであるという。 「毒ガス」。 その言葉に反応する岸田。 毒ガスは旧日本軍が開発したイエローガスで、使用しない間に終戦を迎えて廃棄されたはずのものだという。 佐竹参謀の言葉は岸田の胸に鋭く突き刺さった。 岸田の脳裏には軍人だった父の姿が浮かび上がったのだ。 父の書斎で書類を読む岸田。 その書類には「GAS」の文字が。 岸田はそこに入ってきた母に、父が戦時中毒ガスの開発に携わっていたのではないか、それが兄の自殺の原因じゃないかと問いただす。 「知りたいんです。私もこの家の人間です」。 母から父の日記を手渡される岸田。 そこには恐るべき事実が記録されていた。 岸田の父は旧日本軍の毒ガス兵器の開発に携わっていたのだ。 しかし毒ガスは使用されることもなく、山中に廃棄されたという。 翌日、郷と岸田は現場の森の中に入り、木を切る作業員に作業をやめるよう説得していた。 しかし作業員は「今月中にこの仕事を終えないと、おまんまの食い上げ」と言うことを聞かない。 説得を諦めアローに戻る2人。 しかし怪獣は電気ノコギリの音で目を覚まし、作業員たちは毒ガスで命を絶たれた。 怪獣を攻撃するアロー。 岸田は怪獣の吐く黄色い煙がイエローガスであることを確信する。 怪獣は地中に潜り、現場を調べるため2人はアローを降下させる。 2人は怪獣の吐いた毒ガスの中に旧日本軍の作った弾頭らしきものを発見。 自宅に戻った岸田は父の書斎から地図を見つけ、怪獣が出た山中に毒ガスが廃棄されたことを確認する。 「父が犯した罪は息子である自分が償わなくては。この手で怪獣を倒すんだ」。 MATでは怪獣対策の会議が開かれていた。 「MATはチームワークだ。決して単独行動に出ないよう」と隊長。 郷はいつもなら真っ先に発言する岸田が黙っているのを不審に思う。 夜、アローで現場を捜索していた岸田は怪獣と遭遇する。 隊長の戒めを破り、単独で怪獣を攻撃する岸田。 「気でも狂ったんですか。止めて下さい」と郷。 「この怪獣だけは俺が倒さなきゃならない」と岸田。 しかし岸田のアローは怪獣の攻撃を受け、墜落させられた。 負傷し入院する岸田。 その病室で加藤と郷は岸田の母から全ての事情を知らされた。 「私が今申し上げたことは誰にも仰らないで頂きたいのです。この子が死のうとまで苦しんだ岸田家の恥なのですから」。 それを聞いた郷は、岸田の代わりに怪獣を倒すことを心に誓う。 アローで出撃した郷は、怪獣の口にガスを吐けないようネットを被せる。 「口を封じ込めば地上でも戦えますよ」と郷。 地上に降りて攻撃する郷。 しかし怪獣の口からネットが外れた。 毒ガスを浴びる郷。 その時郷は光に包まれウルトラマンに変身する。 ウルトラマンは怪獣の吐く毒ガスにピンチに陥る。 ウルトラマンを援護すべくジャイロから可燃ガスを投下する上野と南。 「さあウルトラマン。スペシウム光線で点火するんだ」。 スペシウム光線でガスに着火するウルトラマン。 最後はキックでとどめを刺し、空の彼方に消えていった。 退院する岸田を迎えに行くMAT。 「申し訳ありませんでした」と岸田。 「怪獣は死んだんだ。毒ガスという憎むべき怪獣もな」と加藤。 岸田と目を合わせ、ウインクする郷。 ビハイクルに乗り込み帰路に着く隊員たちであった。 解説(建前) 隊員たちは何故毒ガスの吐かれた地帯にいて平気だったのか。 直接ガスを浴びないにしても残留ガスを吸い込む危険はあるはずである。 これはMATのスーツ及びヘルメットに何らかの静電気らしきものを発生させる機能がついており、それによって身の回りのガスや放射能を防御してるのではないか。 危険を伴う任務に就く隊員たちである。 簡易な安全機能くらいは常備してないととても身が持たないだろう。 南らが可燃ガスを投下したのは何故か。 これはおそらく炎により毒ガスを焼却しようということだろう。 イエローガスは揮発性が高く、高温になると中和される性質を持つ。 そのことを旧日本軍の研究資料から知り、ウルトラマン救援に駆けつけたものと思われる。 感想(本音) 金城哲夫最後の特撮作品ということで歴史的に重要なエピソードである。 しかし「帰ってきたウルトラマン」の世界観は金城氏が築き上げた初代マンやセブンのものとはかなり異なる。 上原氏も証言するように金城氏はかなり窮屈そうにこの話を書いていたという。 この話の持つ何処か重苦しい雰囲気はその重いストーリーによるものだけではあるまい。 力作といっていいシナリオにも関わらず、何処かしっくり来ないのもその辺りに原因があるのではないか。 では内容に入ろう。 冒頭水を飲みに帰投する上野。 しかしいくら上野でも水を飲むためだけに基地に戻ることはないだろう。 これは一応疲れたから休みに来たと解釈することが出来るが、上野はここまでそのようないい加減なキャラとしては設定されていない。 岸田のストーリーを浮き上がらせる前振りであろうが、その辺り窮屈というか、金城氏にとって「帰ってきたウルトラマン」は勝手が違うことを窺わせ興味深い。 それは上野をイデに置き換えればわかりやすいだろう。 一方岸田のキャラはやや誇張されているが、今までの路線からは妥当な線に落ち着いている。 軍人一家としてのプライド。 5,6話で人間としての成長を遂げ真の意味でのMATの一員になった岸田であったが、その岸田にしてあまりにも重い真実。 冷静沈着な岸田だからこそ、その人間臭い一面が見る者にダイレクトに伝わってくる。 その複雑で繊細な岸田のキャラは大人になった今こそ理解できるであろう。 子供心には岸田はイマイチよくわからないキャラであったが、その辺りに「帰ってきたウルトラマン」の深さがある。 今回主役の郷はやや脇に回っている。 岸田の境遇に同情し、自ら怪獣を倒すことを誓う。 ただその辺りの心理描写があまり詳しく描かれてないため、やや唐突に過ぎる嫌いがある。 しかしその懸念も今までの郷のキャラを知っていれば杞憂に過ぎないだろう。 郷と岸田のわだかまりは既に6話を経て解消されている。 義理人情に厚い正義漢の郷が、仲間のために必死に戦うのは至極当然のことなのである。 ただしネットで怪獣の口を塞いだと言って地上から攻撃するのはどうかという気もするが。 ウルトラマンに変身するためとはいえ、いつもながら強引である。 その他気になった点。 上野隊員の嗄れ声はどうしても気になる。 もう少し何とかならなかったのだろうか。 それだけスケジュールが押していたのだろうが、このように30年を経てDVD化されるとその失敗が気になってしょうがない。 本人もさぞかし後悔してるだろうな。 今回監督はウルトラ初登板の鍛冶昇氏。 以後頻繁に見られるクルクル回ってババンという変身の仕方は鍛冶監督の発案したものだったのがわかりました。 しかし毒ガスを浴びたら即死じゃないのか。 ちょっとやりすぎな気がします。 今回坂田兄弟はお休み。 次回も休みということなので、坂田家の重要性が徐々に低下してることが窺われます。 ある意味この時期が第1次路線変更と言えなくもないでしょう。 金城哲夫が「帰ってきたウルトラマン」のために書き下ろした本話。 そのため金城の個性が十二分に発揮されたとは言い難い脚本になっている。 しかし「帰ってきたウルトラマン」のエピソード、特に岸田のサイドストーリーとしては欠くことのできない作品になっている。 そこら辺り、与えられた以上の仕事をする金城氏の実力が窺われるだろう。 ただしあまりにも重い内容にかなり詰め込んだ展開。 子供向け娯楽作品としてどうかという疑問は残る。 毒ガスという大きく重いテーマ。 そしてウルトラマンを助けるMAT隊員たち(新マンと初代マンが同一人物と設定すれば、そのことは氏にとって重要なテーマのはずである)。 やはりそちらに絞った方がより金城氏らしい脚本になったのではないか。 毒ガスという問題は個人の問題にするにはあまりにも重過ぎる。 個人の問題を取り扱う「帰ってきたウルトラマン」において、このテーマはあまりにも大きすぎたのである。 人類の大きなテーマを取り扱うのを得意とする金城氏。 氏の資質が「帰ってきたウルトラマン」の世界観において分裂してしまったことを感じざるを得ない本エピソードであった。 |