データ 脚本は金城哲夫 監督は実相寺昭雄 ストーリー 子供たちが遊ぶ材木置き場。 その横を通り過ぎていく1台のタクシー。 中には助けを求める女性の姿が。 追跡するパトカー。 停車したタクシーから逃げ出す女性を追う運転手。 運転手は女性を捕まえると激しい暴行を加える。 パトカーから降りた2人の警官は運転手を取り押さえるが、運転手はそのまま気を失ってしまった。 一部始終を見ている子供たち。 そこへポインターがやってきた。 駆け寄る子供たち。 ポインターを降りたアンヌはその中のヒロシという少年に車に乗るようにと促す。 ヒロシはアンヌの甥で、ヒロシの父親は旅客機パイロットをしていた。 その旅客機が墜落してヒロシの父親も亡くなったという。 アンヌと一緒に葬儀に出ていたダンは、最近北川町内の人間が原因となる事件が頻発しているとの噂を耳にする。 仕事に戻ったアンヌ。 「フルハシ、ソガの両隊員は現在第三ハイウェイをパトロール中」とアンヌ。 「第三ハイウェイといえば北川町もそうだな。亡くなったアンヌの伯父さんの家もこの街だったな」とキリヤマ。 悲しそうな顔をするアンヌ。 謝るキリヤマ。 その頃パトロール中のソガとフルハシは一服するため自動販売機でタバコを購入していた。 突如響き渡る銃声に驚く2人。 街では青年がライフル銃を乱射していた。 応戦する警官。 そこへソガとフルハシが駆けつけた。 青年へ向かって突進するフルハシ。 しかしフルハシは銃弾を脚に受け倒れてしまう。 青年の横手に回り込んだソガは青年の持つライフルをウルトラガンで狙撃。 青年は警官たちに取り押さえられた。 基地に戻って治療を受けるフルハシ。 ソガは隊長に事件の概要を伝えていた。 ソガが聞いた話によると、青年は行きつけの銃砲店で一服して銃の話をしている時突然おかしくなり、ライフルと銃弾を奪って逃げたとのことだった。 また青年はごくおとなしい性格だという。 青年が北川町の住民だと聞いたダンは、単なる偶然ではないと考えその青年が拘留されてる警察へ向かう。 取り調べに同席を許されるダン。 青年は自分のやったことを全く覚えてないという。 「この服に見覚えがあるだろう」。 青年にダンの着ているウルトラ警備隊の制服を見せる刑事。 「君はね。ウルトラ警備隊のフルハシ隊員に傷を負わせたんだぞ」。 しかし青年は覚えてないと繰り返す。 その日の行動を問いただす刑事。 青年は日曜日なので映画を見ようと出かけたが、時間があったのでタバコと新聞を買って行きつけの銃砲店を訪ねたという。 警察からの帰路、大型トラックに邪魔をされるダン。 砂利を積んだトラックは突如ダンの前で砂利を荷台からばら撒き始めた。 停車したトラックの運転席を開けるダン。 しかし中には誰もいない。 「何者だ。姿を見せろ。誰だ。堂々と出てこい」と叫ぶダン。 すると突如トラックの荷台が動き出して何者かの声が聞こえてきた。 「モロボシダン。いや、ウルトラセブン。我々の邪魔をするな。これは命令だ。今すぐに手を引け。我々にとって君を倒すことは問題ではない。だが同じ宇宙人同士で傷つけあうのは愚かなことだ。もう一度忠告しておく。北川町に近寄るな。ウルトラセブン」。 「やっぱり。それにしても何を企んでいるのだ」とダン。 メディカルセンターで脚を治療していたフルハシはセンターを抜け出し、作戦室でタバコを一服吸う。 様子が変わるフルハシ。 コーヒーを持って来たダンを後ろから杖で殴るフルハシ。 辺りかまわず暴れるフルハシ。 何とか取り押さえる隊員たち。 するとフルハシは気を失った。 タバコの吸い殻を拾い上げるキリヤマ。 メディカルセンターから戻って来たソガはフルハシの様子を聞かれ、さっきのライフル魔そっくりだったと言う。 机の上に置いてあったタバコに火をつけるソガ。 ダンはソガの様子がおかしいことに気がつく。 ダンとキリヤマに銃口を向けるソガ。 ヘルメットで銃を叩き落とすダン。 隊員たちは暴れるソガを取り押さえる。 気を失うソガ。 ダンが2人の吸ったタバコの紙をはがすと、中から赤い結晶体が出てきた。 科学班へ回すよう指示するキリヤマ。 ダンは昏睡状態の2人にタバコをどこで買ったか聞こうとするが、2人は目を覚まさない。 ダンはアンヌの伯父の家に行き、妻にタバコをどこで買ったか尋ねる。 購入場所は区々だという妻に対し、アンヌの甥のヒロシは一緒に駅前の自販機で買ったという。 ライフル魔も同じ場所でタバコを買ったことを思い出すダン。 2人は駅前の自販機に行くが、既にタバコは売り切れていた。 一方科学班の分析によると、赤い結晶体は宇宙ケシの実に似ているという。 宇宙ケシの実を摂取すると他人が全て敵に見え、理性や感情を失った殺意のみの人間になるという。 自販機の前の喫茶店で張り込む2人。 すると1台のワゴンが来て、黒づくめの男が自販機にタバコを補充し始めた。 喫茶店を出た2人はタクシーで男の乗ったワゴンを追跡する。 本部に連絡を取るダン。 ダンはキリヤマに駅前の自販機を撤去し、そこで買ったタバコを吸わないように町民に警告するよう依頼する。 フルハシ、ソガも漸く目を覚ました。 ワゴンを追ってきた2人は怪しい男が古いアパートに入っていくのを見つける。 アンヌを残し中へ入っていくダン。 ダンは突如開いたドアの内側へ連れ込まれる。 「ようこそ、ウルトラセブン。我々は君の来るのを待っていたのだ」。 そこにはメトロン星人の姿が。 「歓迎するぞ。何ならアンヌ隊員も呼んだらどうだ」。 ちゃぶ台を挟んで畳に座る2人。 「君たちの計画は全て暴露された。大人しく降伏しろ」。 「ハッハッハ。我々の実験は十分成功したのさ。赤い結晶体が人類の頭脳を狂わせるのに十分効力があることがわかったのだ。教えてやろう。我々は人類が互いにルールを守り、信頼しあって生きていることに目を付けたのだ。地球を壊滅させるのに暴力を振るう必要はない。人間同士の信頼感をなくすればいい。人間たちは互いに敵視し、傷つけあい、やがて自滅していく。どうだ、いい考えだろ」。 「そうはさせん。地球にはウルトラ警備隊がいるんだ」とダン。 すると星人は急に立ち上がり、となりの隠し部屋へ移動した。 「ウルトラ警備隊?怖いのはウルトラセブン、君だけだ。だから君には宇宙へ帰ってもらう。邪魔だからな。ハハハハハ」。 笑う星人。 ダンも急いで隣の部屋へ移動する。 するとアパートが2つに割れて中から宇宙船が出てきた。 外で待っていたアンヌはそれを見て本部に連絡する。 「何、アパートから宇宙船が。中にはダンがいるんだな」とソガ。 出動命令を出すキリヤマ。 ホークは逃げる宇宙船を発見すると攻撃。 宇宙船は2つに分かれてホークに反撃をしてきた。 応戦するホーク。 ホークのミサイルでダンの乗っていた宇宙船が爆発する。 セブンに変身するダン。 夕日の中巨大化したメトロン星人と戦うセブン。 一方ホークは残った宇宙船の片割れを攻撃して破壊。 セブンは逃げるメトロン星人をアイスラッガーで両断。 エメリウム光線でとどめを刺すセブン。 メトロン星人の地球侵略計画はこうして終わったのです。人間同士の信頼感を利用するとは恐るべき宇宙人です。でもご安心ください。このお話は遠い遠い未来の物語なのです。え、なぜですって?我々人類は今、宇宙人に狙われるほどお互いを信頼してはいませんから。 解説(建前) メトロン星人はどのように計画を準備していたのか。 まず、どうやってケシ入りのタバコを販売したかであるが、これはおそらくタバコの卸をやってる会社に目をつけ、会社を乗っとったのであろう。 会社の株主や役人を密かに抹殺し、本人そっくりに化けて会社を乗っとる。 基地にしていたアパートもおそらくその株主か会社の所有物であろう。 そして会社が卸しているタバコに宇宙ケシの実を詰め自販機で販売した。 駅前の自販機でしか販売しなかったのは、まだ実験段階であったからであろう。 キリヤマはダンが宇宙船の中にいるのになぜ攻撃したか? まず考えられるのは緊急事態なのでダンが死んでもやむを得ないという判断。 しかし、それにしては全く躊躇もなく不自然。 前回は炎上したβ号を切り離すのにもあれだけ逡巡したキリヤマにしてはあっさり撃墜しすぎであろう。 では、キリヤマがダンが中にいることを知らなかったという解釈はどうであろう。 アンヌから連絡を受けたのはソガなので、その件が伝わっていないという可能性は十分あり得る。 ただ、キリヤマは近くで「中にはダンがいるんだな」というソガの言葉を聞いていた。 したがってこの解釈も苦しい。 残すはダン自身が連絡して自分は無事だと伝えた可能性。 これも攻撃を受けて慌てて変身してることから微妙であるが、どっちみちセブンに変身しないと脱出できないのだから宇宙船に乗ってないとことにする方が都合がいい。 爆破のタイミングで変身したのは爆発のドサクサに紛れて脱出するためとも解されるので、そのシーンがないのが難ではあるがこの説を採用することにする。 メトロン星人は複数いたはずなのに、何故他の星人は巨大化して戦わなかったのか? まず、そもそもあの宇宙船に星人が乗っていたか否かがはっきりしない。 映像を見る限りは宇宙船は自動操縦でダンだけが乗っていたようにも見える。 この辺りははっきりしないが、宇宙船はアパート全体と同じくらいの大きさだったので、ダンがいた部屋とは別の部屋に星人がいた可能性は高いであろう。 宇宙船は空中で2つに分かれており、星人が乗った片一方は宇宙へ逃げる算段だったのではないか。 実験は成功したので、宇宙ケシの実を大量に持ち込むために一部の星人は一旦母星に戻ろうとした。 メトロン星人はウルトラ一族と違い、宇宙空間を移動するためには宇宙船に乗る必要があるのであろう。 そこで地球に留まることになっていた星人だけが巨大化して戦ったのである。 感想(本音) 無駄なシーンがなく飽きさせない展開。 また全編に亘る実相寺演出も遊び心満点で映像的にも楽しめる作品になっている。 また、実相寺監督の選曲はそのシーンに合ってるのか、合ってないかよくわからない独特なセンスがある。 そして敢えてセブンの近未来性を強調することにより、皮肉が効いたテーマ。 セブンと星人の夕日の中での戦いといいセブンを代表する1本なのは間違いないであろう。 ただ、個人的にこの話がセブンのエピソードで上位かというと、実はそれほどでもない。 ウルトラセブン読本だと本話が人気投票1位とのことであるが、個人的には意外な感じがした。 元々人気エピソードであるのは知っていたが、まさか「史上最大の侵略」の上に来るとは。 BS熱中夜話でのウルトラマンの人気エピソードでも感じたが、正直ウルトラのファンというより実相寺監督のファンなのではないかという人が結構いるように思う。 セブン読本でも「第四惑星の悪夢」「円盤がきた」やおそらく12話も入っていたように、実相寺作品は軒並み上位にランクインしていた。 確かにこれらエピソードは見ごたえはあるが、セブン暗殺計画より上に来るほどかなあと正直違和感もある。 まあ、これは私の個人的な感想なので、実相寺ファンの皆様お許しを(笑)。 前置きが長くなったので本題へ。 いきなり狂ったタクシーの運転手に女性が殴られるシーンはびっくりした。 しかも子供にそれを凝視させることにより、異常性を強調している。 また、遠景とアップを多用した演出は、正直遊んでるなあと(笑)。 同じことを素人がやったら演出がわかってないと叩かれそうなくらいだが、感情にあまり意味のないシーンは遠景、感情を重視したシーンはアップといった使い分けがあるように感じた。 まあ、正直私のような素人に理解できる演出ではないのだが(笑)。 あと全編に亘ってやたら照明が暗い。 この辺りは人間の異常性というか闇といったものがテーマだからであろう。 しかし、アンヌが隊長に事故のことを言われて落ち込むシーンのアップはさすがにアンヌの演技力のなさを露呈したか。 ちょっとコント芝居に見えてしまった。 街で青年がライフルを乱射するシーンではわざわざ逃げ惑う人を上から撮影している。 この辺りは手間暇掛けてるなあと感心。 「京都買います」もかなり映像をカットしたというが、このエピソードも相当編集してるんだろうなあと何となく思う。 無謀にライフル男に突進して負傷するフルハシ。 ソガの活躍で無事ライフル男を取り押さえて基地に帰ってきたところで、変なシーンその1。 隊員たち4人がメディカルセンターの丸い照明が並んでる前で会話をするシーンだが、これは何となく昔見た記憶があった。 ただ、これはいつもと同じ基地には見えない。 子供の頃は何となく散髪屋みたいだなと思った記憶がある(笑)。 隊員たちの顔も真っ黒。 このシーンはもう遊びとしか言いようがないであろう。 ドラマ的な必然性は感じられない。 取り調べのシーンもやはり真っ黒。 これはまあ何となくわからないでもないか。 ダンがトラックに絡まれるシーンはスピルバーグの「激突」を彷彿させるが、狙ったのだろうか? おそらく星人が遠隔操縦してるのだろうが、運転手がいない不気味さはよく出ていた。 そしてお馴染み唐突なクラシック風な曲と星人の挑戦。 しかし、セブンの正体は宇宙人はほとんど知ってるんだな(笑)。 そして同じ宇宙人同士って、厳密に言えば地球人も同じ宇宙人同士だぞと(笑)。 フルハシとソガが発狂するシーンは赤いライトを当て非常にわかりやすい演出になっている。 ただ、その後のアンヌの伯母さん邸も暗い暗い。 露出を間違えたかというくらいだ。 キリヤマと化学班との会話は障害物が邪魔で顔がよく見えない(笑)。 そして駅前で張り込みをするダンとアンヌのシーンはラジオ体操のような軽快な曲が。 ネットで知ったが、一連のクラシック風な曲は冬木先生作曲とのことらしい。 怪しい男を追跡するダンとアンヌ。 しかしあれだけわかりやすく怪しい恰好をした男も珍しい。 ボロいアパートに入っていく怪しい男を追うダン。 何故か外で待つアンヌに重ねて野球中継のラジオが。 そして変なシーンその2。 和室に住む星人とちゃぶ台を挟んで座るダン。 そして豪快にアパートが割れて飛び立つ宇宙船。 いつの間にアパートを改造したのだろうか。 そして解釈でも苦労したダンもろとも宇宙船を爆破するホーク。 ただ、セブンはこのパターンがこれからも頻発するので、正直解釈が気が重い(笑)。 夕日の戦いであっさり敗北する星人。 結局何がしたいのかよくわからなかった。 まあ、メトロン星人に限らないけど。 そして締めのナレーション。 有名な話だが、この最後のナレーションは脚本にはなく実相寺氏が独自に加えたらしい。 まあ、テーマ的にはこの締めの方が皮肉が効いてて良いが、はたして脚本を書いた金城氏的にはOKだったのであろうか? まあ、前話のダンの締めのセリフも脚本にはなかったようだし、その辺りは結構自由だったのかもしれない。 と、実相寺演出中心に述べてきたが、最後に本話の脚本を書いた金城氏についても触れておこう。 前回にも書いたが金城氏の脚本は純粋なSF志向というより、日常の中にあるSF的なものを好んでいるように思われる。 本話の星人がやってることもただの快楽犯罪者と大差はない。 正直セブンと星人が出なければ怪奇大作戦のプロットにそのまま転用することも可能であろう。 ただ、怪奇大作戦と違うのは人間の心理面が描かれていないこと。 金城氏的には本話はもっとエンターテインメントに徹した話のつもりだったのかもしれない。 金城氏と実相寺氏のコンビは実はこの作品が唯一らしい。 そういう意味でウルトラファンにはたまらない話とも言えるが、個人的な感想としては正直このコンビはあまり合ってないように感じた。 メトロン星人の計画ははっきり言ってあまり理に適ったものではない。 作戦レベルとしてはメフィラス星人2代目のマンダリン草と同レベルであろう。 これから色んな食品にケシの実を仕込むつもりだったのかもしれないが、タバコに関してもあっさり足がついたし、相当リスキーかつ気の長い作戦だ。 この話に実相寺流の重い演出を加えたところで、上滑りな感じがする。 ちゃぶ台のシーンなど個々のシーンは面白いのだが、あまりにも演出が自己主張しすぎに感じられるのはやはり脚本とのバランスが悪いからであろう。 最後無理やり社会批判に持って行ってるが、こういうナレーションが必要なのはやはり本来はそういうテーマではなかったからではないか。 やっぱり実相寺監督は佐々木氏とのコンビの方が合っている。 この脚本を飯島氏や円谷氏ならどのように撮っただろうか? もっと正統派なエンターテインメイント溢れる作品に仕上がったかもしれない。 この完成作品も面白いが、個人的には他の監督の演出でも見てみたかった作品である。 |