データ 脚本は若槻文三 監督は満田かずほ ストーリー パトロールから帰還したダンとアマギ。 二人は小学生からの通報で出動したのであった。 宇宙からの怪電波をキャッチするレーダー班。 自室に戻って寛ぐアンヌ。 すると部屋の隅に怪しい黒い影が。 ダンを呼ぶアンヌ。 黒い影を見つけて身構えるダン。 「誰だ。出てこい」。 しかし答えない。 ライトを当てて様子を探るダン。 雑誌を丸めて黒い影をつつこうとすると、その影の主が話し始めた。 「騒がないでください。私は、私は苦しい」。 「私は、ある遠い都市から来たものだ」。 銃を構えるダン。 「事故を起こして重傷を負っている」。 苦しそうに話す影。 構えた銃を下ろすダン。 「手当は済ました。このまま暫くジッとしていれば傷は治る。それまでどうかこのままにしておいてくれ。誰も呼ばないでくれ」。 「私は、あんたがた人間が信用できないんだ。怖いんだ」と影。 「何処へも行かないで、そこで静かにお休みなさい」とアンヌ。 一方宇宙電波をキャッチした警備隊はマナベ参謀を交えて対策を協議していた。 電波は一定の間隔で発信されていた。 絶対に自然電波ではありませんとフルハシ。 影と話すダンとアンヌ。 「私は地球人はもっと怖いものだと思っていた」と影。 「こうして命を取り留めることができたのは、あんたがた二人の温かい思いやりのおかげだ。ありがとう」。 「君はどこから来たんだ。教えてくれ」とダン。 「何も言えない。宇宙のある街から来たと言っておくよ」。 「宇宙人なんだね」とダン。 「遜るなよ。地球人だって立派な宇宙人じゃないか」と笑う影。 宇宙には銀河系のような島宇宙が1762億4321万866もあると影。 感心するダンとアンヌ。 「みんな同じ宇宙に住む仲間同士さ」と影。 「しかし皮肉な話だ。こんな大きな宇宙の中に地球と私たちの街が一緒に生きる場所がないなんて、何という悲しいことだろ」。 「何のことだ?」 顔色を変えるダン。 「何でもない。さっき眠ってしまって夢を見たんだ」と影。 喉が渇いたという影に水を渡すアンヌ。 恥ずかしいから後ろを向いていてくれと影。 水を飲み終えた影に街の様子を尋ねるダンとアンヌ。 「私の街は君たちの街とはだいぶ違うんだ。もちろん工場はあるさ。想像もできない巨大な工場がね。そこで何でも作るんだ。驚いちゃいけない。水も空気もだ」。 「工場が止まれば数時間内に全市民は窒息死しちゃう。我々の都市は自然の力を一つも受けていないんだ」と影。 「その花は工場でこしらえたんだろ」。 部屋に飾ってある造花に興味を持つ影。 「君たちの科学もどうやら、私たちの都市にだいぶ近づいてきたようだな」。 笑う3人。 その時アマギから通信が入った。 大変なことになったという。 本部に駆け付けるダン。 そこへ宇宙からの通信が入った。 「こちらはペガッサ市。地球の軌道変更をお願いします」。 「ペガッサ市は動力系統に重大な故障をきたしました。宇宙空間都市ペガッサ市の機長室より送信しています」。 「今から80時間の間、地球の軌道変更を要請します」とペガッサ市。 ペガッサ市は太陽系の引力によりやがて地球の軌道に入るという。 事態を重く見た参謀は緊急配備を命令。 思い当たったダンはアンヌの部屋へ戻り、影にこのことを問いただす。 自分がペガッサ星人であることを否定する影。 「その声、受信したペガッサの奴の声とそっくりだ」とダン。 「発声器を使っているんだ。そのペガッサ市民もこれと似た発声器を使っているんだろう」。 「それじゃ教えてくれ。君はペガッサ市のことは知らないか」とダン。 「知っている。名前だけは。ペガッサ星が消滅する前に、脱出したペガッサ星人が宇宙空間に素晴らしい大都市を建設した。それが宇宙都市ペガッサ市だ」と影。 都市を作ってる物質の密度は地球の約8万倍だと影。 「大変だアンヌ。ペガッサ市は見かけより8万倍の大きさと考えていいんだ。それが地球とぶつかるんだ。地球は木端微塵に砕けるぞ」とダン。 「何を慌てているんだ。彼らの言うとおり暫く地球の軌道を変えてやればいい。ただそれだけのことじゃないか」と影。 「馬鹿を言え。地球の軌道をどうして変えるんだ」。 「なんだって!おい!地球は自分で動けないのか?勝手に動いているものの上に人間は乗っかってるだけなのか?それだったら、野蛮な宇宙のほとんどの星と同じじゃないか」。 言ったきり黙りこむ影。 急いでキリヤマたちを呼ぶダン。 影を撃つよう命じるキリヤマ。 それを止めるアンヌとダン。 「この中に潜んでいる奴は、我々に危害は加えません」とダン。 「とっても臆病な小さな弱い生き物なんです」とアンヌ。 命令を取り下げるキリヤマ。 警備隊は懸命にペガッサ市に連絡を取ろうとするが、反応はない。 ペガッサ市の位置をキャッチする警備隊。 「やはりペガッサ市を破壊する以外に地球を防衛する方法はない」とマナベ参謀。 「残念ですが、どう考えても」とキリヤマ。 ペガッサ市の動力系統の修理が間に合わなければ、恐るべき科学力でペガッサは地球を破壊するだろうと参謀。 ペガッサを破壊する前に市民を地球へ迎え入れてやりましょうと提案するダン。 「ペガッサ市は予定の時間に計画通り爆破」と参謀。 ホーク1号で発進する隊員たち。 そこへ本部から電報が入った。 爆破中止命令に喜ぶダン。 しかし内容は、ホークの爆弾ではペガッサ市の破壊は不可能なので別の爆撃艇が出動したとのことであった。 残念がる隊員たち。 しかしホークにはペガッサ市民を地球まで安全に誘導するという任務が与えられた。 「わー」。 大喜びするダン。 「どうだ、ダン。栄光ある任務だろ」とキリヤマ。 「はい、隊長」。 ペガッサ市近くへ到着するホーク。 ペガッサ市へ向けて避難を勧告するダン。 しかしペガッサからは何も応答はない。 必死で呼びかけるダン。 爆破時間が迫り、ペガッサ市から離れるようにと爆撃艇から指令が入ってきた。 やむを得ず引き返すホーク。 「残念だが、地球が生き残るためにはこうするより」とキリヤマ。 悔しがるダン。 予定時刻に爆破されるペガッサ市。 その頃アンヌの部屋では影がアンヌを呼び出していた。 「アンヌさん。誰もいませんね」と影。 確認すると豹変する影。 「地球はもうおしまいだ。お前はすぐ地球から逃げるんだ。ダンも連れて行け」。 「どうしたの」とアンヌ。 「私は今から地球を爆破する。悲しいことだが、これが私の任務なのだ。万一地球が軌道を変えなかったとき私は地球を破壊する目的でやってきた」。 「あなたは、ペガッサの人なのね」とアンヌ。 「事故を起こしたためペガッサ市との連絡は取れないが、私は愛するペガッサを守るために、地球を破壊しなければならない。悲しいことだ。しかし私は地球を爆破する」。 影の中から姿を現す星人。 急いでダンに連絡するアンヌ。 星人を追うダン。 星人は用意していた爆弾を地球の中心に向けて発射する。 そこへ到着するダン。 「何をしているんだ。この穴はなんだ」とダン。 「ペガッサから運んできた爆弾だ。間もなく地球の中心に届くだろう。そして地球を粉砕するんだ」と星人。 「何のために」。 「私たちの愛するペガッサ市を守るためだ」。 「ペガッサは破壊したよ」とダン。 「嘘だ。地球人の貧弱な科学であの強大な宇宙都市を」。 「地球が無事なのは、ペガッサが爆破された何よりの証拠じゃないか」。 「私たちの計算では、地球がペガッサと衝突するまでまだ十分時間がある」。 「僕は見たんだ。ペガッサの最期を」。 「何ていうことをするんだ。ペガッサは宇宙が生んだ最高の科学なんだ。私はとっくに地球を破壊する準備を終わっていた。アンヌの部屋からでもこの爆弾を地球の中心にぶち込むことができたんだ。それをしなかったのは、最後の最後まで私たちの科学の力がこの事態を何とかしようと」。 「復讐してやる」と星人。 セブンに変身するダン。 銃で攻撃する星人。 交わしてアイスラッガーを放つセブン。 アイスラッガーが当たり逃げ出す星人。 地球の中心へ向かう爆弾を地面に潜って取り出すセブン。 それを空高くで爆破させる。 夜、パトロールに出るダンとアンヌ。 街灯の光の中に、物影を見つけて驚くアンヌ。 「どうしたの」とダン。 それを指さすアンヌ。 「ダークゾーンだな」。 「私ね、あれから暗闇を見ると、あのペガッサの人が私たち人間を怖がってその中に小さくなっているような気がしてしょうがないの」。 「僕もだ」。 「ダンも。そう」とアンヌ。 「もう一遍あいつに会いたいな」。 「ええ、何処行ったのかしら」。 「帰る所がなくなって、地球の上を走り回っているのかもしれないぞ。夜の暗闇と一緒に」とダン。 解説(建前) ペガッサ星はなぜ滅んだのか。 ペガッサが消滅するとき宇宙に脱出できたのは一部のペガッサ星人だけだった。 このことから星の消滅は比較的急な話だったと思われる。 となると、天変地異か核戦争か。 星人が星を動かすことに拘っていたことから前者が有力と思われるが、いずれにせよ最初から巨大宇宙都市があったわけではなく、たまたま脱出用の宇宙船に乗り込めた一部の住民や宇宙コロニーなどにいたペガッサ星人が協力して巨大宇宙都市を建設したと考えるのが妥当であろう。 このことは、ペガッサ市が宇宙を放浪している一因とも考えられる。 すなわち脱出後のペガッサ市民はどこか別の太陽系の軌道に乗ることを潔しとせず、あくまで自律的に宇宙を彷徨うことを選択していた。 これも星が動けないため滅んだトラウマであろう。 また、ペガッサ星人は空気、食料から何まで工場で作っていた。 当然これだけのことをするにはエネルギーが必要だが、ペガッサ市はそれも自然に頼らず核融合などを使って自前で調達していたのであろう。 食料とエネルギーが無限に作れるのなら、内部で争いが起こる可能性は低い。 永遠の命を研究していたことからも、ペガッサ市民は総じて知的レベルは高く、争いを好まない性質だと思われる。 感想(本音) ウルトラセブンを象徴するエピソード。 特撮やアニメを語るときによく「大人の鑑賞に耐える」という言葉が出てくるが、このエピソードこそまさにその言葉が当てはまるエピソードと言えよう。 正直、子供の頃はこの話はあまり面白くなかった。 というか、よくわからなかった。 大人になった今こそ、その凄さが理解できるのである。 と、大上段の感想から始まったが、今回は何と言ってもアンヌのかわいさに尽きるだろう(笑)。 アンヌと言えば満田氏というくらいアンヌに拘る同氏だが、アンヌの人間的な魅力を最も引き出した氏の功績は大きい。 アンヌの部屋には大きな人形があったり、こじゃれた食器類、造花などとても女性らしい部屋になっている。 まあ、宇宙人に驚いて悲鳴を上げたり、妙に宇宙人に肩入れして裏切られたりと警備隊員としてどうかというツッコミも可能だが、単に優秀なだけではないアンヌの魅力を描いたからこそセブンは名作たりえたのだと思う。 私も子供の頃、この話に代表されるようなSF的な話はあまり理解できなかったが、アンヌの魅力と言うのは何となく理解できていた(笑)。 セブンが単なるマニア受けする作品ではなく子供にも広く人気があったのは、やはりそういう人間的なドラマ部分がしっかり描けていたからであろう。 初代マンのフジ隊員も人間的な魅力は描かれてはいたが、アンヌとの違いはやはりヒロインとして意識して描かれているか否かという点。 ダンとアンヌの関係性をしっかり描いたというところがセブンの新しさでもあり、魅力だと思う。 ただ、アンヌとダンの演技についてはまだまだな部分も大きい。 特にダンの演技の固さは画面を見ていてもヒシヒシと伝わってくるほど。 満田氏によると、ダンとアンヌの芝居を見て演技が固いと思った氏は前日から一緒にリハーサルしたという。 そのおかげか2人のシーンはまずまずだったが、件のペガッサ市破壊のシーンのダンの演技は正直酷かった。 ほとんどコントだが、これは一説によるとダンの設定年齢が実際の森次氏の年齢よりかなり低かったからともいう。 ただ、ここは思い切って変更するなりカットするなりしても良かったのではないかと思う。 と、ここまではあくまで子供番組視点での本話の魅力を語ってきたが、ここからは大人視点での魅力を語ってみよう。 まあ大人と言っても主に10代半ばくらいだと思うが、本話のプロットは本当に素晴らしい。 後に妖精ゴランやウルトラの星が地球に衝突するというシチュエーションはあったものの、本話は文明の衝突をテーマにしている点、これらとは比較にならない緊迫感があった。 また、地球を防衛するため結局ペガッサ市を破壊する警備隊。 そのことを星人に告げるダンの哀切。 故郷を失って復讐する星人。 この辺りは本当に涙が出そうになる。 子供の頃は星人の態度が豹変したことから悪い奴なのかと思い、セブンが星人を逃がしたことに違和感があったのだが、今見るとセブンが星人を見逃したことがよくわかる。 おそらくアイスラッガーも威力をセーブして撃ったのだろう。 ラストのダンとアンヌの会話はペガッサ市を破壊した割には軽い気もするが、それが返って哀しみを助長する。 まあ、制作側はそこまで考えたわけではなく雰囲気を暗くしないためのラストだろうが、星人の心情を思うとやり切れない話である。 ところで星人は何処へいってしまったのであろうか? あの頭のいい星人が地球のどこかでひっそり暮らしてるとは考えにくい。 あるいは地球に復讐するために爆弾を作っているのではないか。 ただ、星人も馬鹿ではないからいくら復讐したところで仲間が返ってこないのはわかってるだろう。 ダン、アンヌに友情を感じ、二人に地球を脱出するよう助言した星人のことだから、地球人が悪い者ではないのは理解してるはず。 願わくはダン、アンヌの友人として地球で暮らして欲しいものだが、やはりああいう経緯があってはそれもできないだろう。 文明の衝突は友情をも引き裂いてしまう。 これは現在の世界にも当てはまるテーマである。 ただ、本話においてはやはり悪いのはペガッサの方だ。 そこは見落としてはならない。 ペガッサ市が自律的に宇宙を彷徨うのは勝手だが、地球の軌道に入ったのは完全にペガッサの責任だ。 警備隊のとった行動は正当防衛として当然是認されるであろう。 まして警備隊側はペガッサ市の移民を受け入れる用意までしていた。 警備隊としてはやれることは全てやったと評価できる。 ではペガッサ側はなぜ警備隊の提案を無視したのか。 この点についてははっきり描かれていないので推測するしかないが、やはりソガの言うとおり地球人の科学を見くびっていたと考えるのが素直であろう。 これは星人の発言からも伺われる。 星人はペガッサを宇宙が生み出した最高の科学と言い、またダンとアンヌに自分たちの科学について自慢げに語っているように、ペガッサの科学に心酔していた。 おそらく星人の仲間たちもペガッサの科学に絶対の自信を持っていたのであろう。 ただ、計算外のことに地球はこと破壊に関してはペガッサと同等の科学力を持っていた。 科学を盲信するものは科学によって滅ぼされるというアイロニー。 「君たちの科学もどうやら、私たちの都市にだいぶ近づいてきたようだな」と星人。 ペガッサの悲劇は決して他人事ではない。 地球に侵入した星人は最初怯えていたけど、これは演技だろうか? しかし、ダンとアンヌはあっさり星人の言い分を信用しすぎ。 警備隊員としては正直甘すぎると思う。 ところで星人は何のために警備隊に侵入したのだろうか? まあ、普通に考えれば厳重な警戒網を突破して侵入してる時点で拘束すべきなのだが、それは置いておこう。 おそらく星人の宇宙船にトラブルがあって怪我をしたというのは本当だろう。 ペガッサ市と連絡が取れなくなった星人は何としても本国の情報を得たいと思った。 でないと、地球を爆発していいかわからないからだ。 そこで星人は警備隊基地に侵入したのである。 星人が地球人を怖いと言ったのも、あながち嘘ではなかろう。 しかしダンとアンヌの人柄を知り、地球人が高度な文明を持つ知的で紳士的な種族だと知った。 星人が妙に饒舌になったのも少し安心したからであろう。 ペガッサの科学力により衝突は回避できると信じていた星人。 しかしそれが叶わないとわかり星人は黙り込んでしまう。 おそらく星人はこの時自らの身を犠牲にしてでもペガッサを守る決意を固めたのであろう。 急にドスの利いた声でアンヌに地球を脱出するよう勧告する星人。 星人と2人の間に友情が成立していたのは間違いない。 過去に人間と怪獣の友情らしきものは初代マンのピグモン等で描かれていたが、宇宙人との友情を描いたのは本話が初めてではなかろうか。 そういう意味では新しいウルトラへの一歩を踏み出した作品として評価できるであろう。 その他気になった点。 星人の飄々とした語り口が面白い。 特にダンとアンヌに対して「あんたがた」というところがツボだった。 アンヌの前で正体を現し街中を走り出す星人。 何故か走り方が妙にかわいい(笑)。 アンヌはかわいいが、やっぱりアップだと肌荒れが気になる。 これが後に干された伏線であろうか。 本話の脚本は若槻文三氏。 当サイトでは先にレオでの若槻氏を取り上げたが、セブンにおける氏は王道SF的な作品で、セブンの所謂大人の鑑賞にも堪える部分を担当していた。 硬軟問わず、骨太な娯楽作品を書く氏の存在はウルトラの世界を広げるのに大いに貢献したといえるであろう。 また監督の満田氏は、アンヌの部屋や動く影の演出など細部に拘る演出だけでなく、シリーズ通してのダンとアンヌとの関係性をしっかりと描ききった。 本話はそういうセブンのSF的な魅力、人間ドラマとしての魅力が最もよく出た作品として、まさにセブンを代表するエピソードと評価できる。 |