死を呼ぶ赤い暗殺者


データ

脚本は阿井文瓶。
監督は山本正孝。

ストーリー

「ノーバ。お前の番だ。飛んでこい。お前の持ってる猛毒ガスが今こそ必要だ」。
10番目の円盤ノーバが地球へ向けて発進した。
流れ星を見つけて喜ぶあゆみ。
「あゆみ。お茶を飲んだらすぐ宿題するのよ」といずみ。
「もう一つ流れ星があるまで待って」とあゆみ。
「流れ星の光が消えないうちに願い事をするときっと叶うのよ」とあゆみ。
しかしいずみは図画の宿題をやってしまわないと明日の授業参観で恥ずかしいことになるとあゆみを窘める。
「お母さん。明日一番綺麗な着物を着て来てね」とあゆみ。
それを寂しそうに見つめるトオル。
「トオルくんもまだ描いてないんでしょう」といずみ。
それを聞いて部屋を出て行くトオル。
その頃地球へ到着したノーバは小型化してその姿を隠していた。
二階の部屋であゆみと一緒に絵を描くトオル。
しかしなかなか筆が進まない。
「トオルくん。早く描かないと間に合わないわよ」とあゆみ。
「間に合わなくてもいいよ。僕には授業参観に来てくれるお父さんもお母さんもいないんだからね」。
何かを描き始めるトオル。
そこへいずみが様子を見に来た。
「何これ?」
トオルの描いた絵を見て尋ねるいずみ。
「自画像」。
そう答えるトオル。
画用紙には赤いテルテル坊主みたいな絵が描かれていた。
さらに黒く背景を塗りつぶすトオル。
「僕の顔だよ」とトオル。
「やめなさい」。
トオルの筆を止めるいずみ。
「ほっといてよ」とトオル。
「トオルちゃん、やめなさい。どうしてお姉ちゃんの言うことが聞けないの」といずみ。
そこへゲンが現れた。
部屋を飛び出すトオル。
トオルの描いた絵を見せるいずみ。
「叱るつもりじゃなかったんだけど」。
家の外へ出たトオルは流れ星に向かって願い事をする。
「お父さんを返して。お母さんを返して。カオルを返して。返して」。
むせび泣くトオル。
「光が消えないうちに願い事をすれば叶うんだろ?願い事を叶えてくれ」とトオル。
泣きじゃくるトオル。
トオルは道端に落ちていたテルテル坊主を拾いあげる。
「テルテル坊主か」。
その時、テルテル坊主の目が光る。
「それでも曇って泣いてたら、お前のその首ちょんと切るぞ」。
歌いながら歩道橋を降りるトオル。
「そうだ。明日は雨を降らしてくれよ。お前は天気を良くするのが仕事だろうけど、その反対だってできるだろ」。
公園の木にテルテル坊主を括りつけるトオル。
「いいかい、晴れじゃないよ。大雨だよ。授業参観なんかなくなっちまうくらいの大雨」。
そこへゲンがトオルを呼びにきた。
「じゃあ、いいね。大雨だぜ」。
テルテル坊主の目が光る。
「トオルは男の子だろ。だからそんなことくらいでメソメソしちゃダメだ」とゲン。
明日の授業参観に行ってあげるとゲン。
それを聞いて喜ぶトオル。
すっかり機嫌を直すトオル。
一方、木に照らされたテルテル坊主は絡んでくる酔っ払いに赤いガスを吹きかけていた。
ガスを浴びた男は木のベンチを真っ二つにし、暴れだす。
次の日の朝、ニュースで首に赤い鎖を巻いた男女が暴れていると聞いたゲンは、調査のため街へ出かけようとした。
「授業参観には来てくれるの?」とトオル。
「トオルくん。おばさんがね、トオルくんのところにもちゃんと行ってあげるわよ」と咲子。
「トオル。俺は行かなくちゃいけないんだ。わかるな」とゲン。
出て行くゲン。
それを聞いて家を飛び出すトオル。
追いかけるあゆみ。
トオルは学校へは向かわず、テルテル坊主のある公園へ向かった。
ブランコに乗って学校へ行こうとしないトオル。
説得するあゆみ。
しかしトオルは言うことを聞かない。
諦めて一人で学校へ行くあゆみ。
トオルは昨日のテルテル坊主が赤くなっているのに気づく。
「お前、なぜ赤くなったんだ?」
テルテル坊主を叩くトオル。
「雨降らしてくれて頼んだじゃないか。なぜ頼みを聞いてくれなかったんだ?頼みを聞いてくれることができずに恥ずかしくて赤くなったのか?」とトオル。
「首をちょん切るぞ。頼みを聞いてくれなかったんだからな」。
ハサミを取り出すトオル。
しかしトオルがテルテル坊主の首を切ろうとしても、テルテル坊主は動いて上手く切れない。
すると急にテルテル坊主の目が光った。
巨大化するテルテル坊主。
巨大化したテルテル坊主はトオルの肩に乗り、トオルを操るように街へ向かわせる。
「本当かい。本当にお父さんやお母さんに会わせてくれるのかい」とトオル。
テルテル坊主を肩に乗せたトオルとすれ違った老人が急に倒れた。
それを見た警官がトオルを呼び止める。
しかし警官はテルテル坊主の赤いガスを浴びて発狂した。
「逮捕する。逮捕。逮捕」。
警棒を振り回し、拳銃を乱射する警官。
「お父さんだ。お母さんだ。カオルもいる。テルテル坊主、ありがとう」。
円盤生物ノーバは父母のいないことを悲しんで虚ろな気持ちになっていたトオルに取り付いた。
そしてトオルに幻を見せながら自分を運ばせ、街中に赤い猛毒ガスを撒いたのだ。
ガスを浴びた人々は気持ちが荒れすさび、相手構わず喧嘩を始める。
トオルを見つけた警官たちは、拳銃でトオルを撃とうとする。
「やめろ。待ってください。相手は子供じゃないですか」。
警官を制止するゲン。
しかし 「そんなこと言ってるうちに、被害が広まるばかりだぞ」と警官。
そこへいずみと咲子もやってきた。
「待ってください。この子は私の子供です」と咲子。
「私の弟です」といずみ。
警官たちと揉み合うゲン。
咲子といずみはトオルのもとへ向かう。
「危ない。行っちゃダメだ」とゲン。
トオルに近づく二人。
しかし二人に向かってノーバが赤いガスを吐く。
倒れる二人。
「トオルくん、お母さんの言うことが聞けないの」。
「お母さん?」とトオル。
「そうよ。私はね。トオルくんのお母さんのつもりよ」と咲子。
手を差し出してトオルの方へ向かう咲子。
後ずさりしながら苦しむトオル。
トオルの首を締め付けるノーバ。
咲子にガスを浴びせるノーバ。
ゲンは高くジャンプして背後からノーバを蹴り飛ばした。
トオルから離れるノーバ。
その場に倒れるトオル。
トオルを助け上げる、いずみと咲子。
警官がノーバに一斉射撃をするとノーバは巨大化した。
手のムチを使って街を破壊するノーバ。
赤いガスを街中に吐くノーバ。
ノーバは防衛軍の戦車や戦闘機を破壊する。
トオルを抱えて逃げるいずみと咲子。
その時レオが現れた。
ノーバが回転を始めると辺り一面に雨が降り始める。
雨の中戦うレオとノーバ。
宙に浮くノーバ。
ノーバの目から出る光線を浴びてレオは倒れる。
さらに手のムチがレオの首を絞める。
投げ飛ばされるレオ。
光線技で反撃するレオ。
最後は腕から光線を出しノーバを撃破した。
すると辺り一帯が晴れ上がる。
意識を取り戻すトオル。
「おばさん。僕どうしたの?」とトオル。
「この子はもう。心配ばっかりかけて」と咲子。
「おばさん、ごめんなさい」。
咲子に抱きついて泣くトオル。
雨の美山家。
あゆみと一緒にテルテル坊主を作るトオル。
「本当に明日は天気にしておくれよ。みんなでピクニックに行くんだからね」。
テルテル坊主に話しかけるトオル。
翌日、みんなの願いが叶い、空は晴れ渡る。
楽しげにピクニックに出掛ける美山家。

解説(建前)

ブラック指令はなぜノーバを呼び寄せたか。
ノーバは人々を凶暴にする猛毒ガスを持っていた。
指令自らもそれが必要だと言っている。
恐らく指令の狙いは人間同士を争わせることにより、秩序を無茶苦茶にし侵略しやすい状態を作ることにあったのであろう。

また、そのような騒ぎがあればレオも現れる。
レオが何処に住んでるのかおよその目安はついていただろうから、トオルの家の近所にノーバを潜伏させた。
またノーバ自身も水晶を通じて指令の意図を理解していたのだろう。
ノーバはトオルに家族と会わせると催眠をかけて利用した。
追い詰められると巨大化するなど、かなり自分の意志で行動できるようだ。

トオルがノーバそっくりの自画像を描いたのはなぜか。
単なる偶然とも考えられるが、これはやはりノーバが町に潜伏していたのと無縁ではないだろう。
ノーバは巨大化しない限り自ら移動することはできない。
おそらくノーバは電波を発して自分が利用しやすい人間を探していたのだろう。
たまたま授業参観の件で鬱屈するトオルと波長があった。
お互いが感応し合った結果、トオルの絵にノーバが描かれたのである。

感想(本音)

本話の脚本は阿井文瓶氏。
円盤生物シリーズでは「まぼろしの少女」以来の脚本となる。
どうやら阿井氏に与えられたテーマはトオルのトラウマとその克服。
前回のラストも美山家との家族の絆が強調されていたが、あれだけで克服できるほどトオルの背負ったものは軽くなかった。
授業参観という否応なく孤独を突きつけるイベント。
父親のいないあゆみもかわいそうな境遇ではあるのだが、あゆみには母や姉がいる。
しかし天涯孤独のトオルには身内と言える存在はゲンしかいないのである。
そのゲンにも授業参観を断られたトオル。
遂にトオルはノーバの操り人形になってしまうのだ。

ほとんどの方がお気づきだと思うが、前回のマユコと今回のトオルの立ち位置は似ている。
マユコは素性はわからなかったものの、自らが持っているフランス人形に操られて殺人を行っていた。
一方トオルは自分の肩に乗っているノーバに操られて街の人を狂わせて行った。
二人に共通するのは恐らく親がいないという点であろう。
トオルは自らがマユコになることにより漸くトラウマを克服することができたのである。

しかしマユコは最後までブリザードに支配されたままだったのに対し、トオルは正気に戻ることができた。
この2人の運命を分けたものはいったい何か。
それはおそらく家族の存在であろう。
すなわち自分を思ってくれる存在がいたか否か。
マユコには最後まで家族や知り合いらしきものがいなかった。
一方トオルにはゲンをはじめ、咲子、いずみ、あゆみという自分のことを思ってくれる本当の意味での家族がいた。
ノーバがトオルを完全に支配できなかったのも、そのためであろう。

トオルはウルトラシリーズ屈指の過酷な境遇に苦しむ少年である。
「帰ってきたウルトラマン」の坂田次郎も同様に過酷な境遇にいたが、ここまで苦しむことはなかった。
この辺りは次郎くんの強さでもあろうが、制作者側があえてそこまで描こうという意志を持ってなかったのもあるだろう。
しかしトオルに関してはシリーズ全般を通じて容赦なくその過酷な境遇を描いてきた。
それを投げっぱなしにせず、ここまでトオルのトラウマを掘り下げて描いたスタッフ及び阿井氏の熱意が、円盤生物シリーズをただの侵略ものではない名作にしたと言っても過言ではなかろう。

本話はやはりノーバの存在感抜きには語れない。
愛嬌のある見た目とは異なり、ノーバはかなり強敵である。
テルテル坊主とタコさんウィンナーを足しただけのようなやっつけ感のあるデザインの割にはシンプルな格好良さもあり、後にメビウスで再登場したのも頷ける。
また着ぐるみでありながら宙吊りになって空から光線を発するなど、レオとのバトルは円盤生物シリーズの集大成的なものとなっている。
全面真っ赤な雨の降る中、光学合成もふんだんに使って戦う2人。
残りの2話がそれほどバトルには力を入れていないのもあり、ある意味クライマックスとも言えるシーンであった。

ゲンはトオルの願いを無視して街に調査に行ってしまった。
ある意味ゲンのこの行動がトオルを追い込んだともいえるが、この行動は適切だったのであろうか。
結果論的にはそのせいで騒ぎが余計に大きくなったというのはあるが、あの時点ではそこまで考えるのは不可能であろう。
街が大騒ぎになってるのを見たゲンは円盤生物の存在を疑った。
経験則的に円盤生物は市民を直接狙ってくるからゲンの推理は妥当である。
そしてそう考えた以上はほっておくわけにもいかない。
ゲンは当然トオルがそれをわかってくれると考えたのであろう。
しかしトオルのトラウマはゲンの予想を遥かに超えるところまで達していたのだ。

その他気になった点など。
咲子は授業参観でトオルのところにも行ってあげると言っていたが、トオルとあゆみは同じクラスではなかったか。
まあ、これは単に二人の座席が離れてるため、途中で移動してあげるくらいのものと解釈するしかないだろう。
そう深く考える必要はない。
街でトオルを呼び止めた警官は、阿井氏の話のよるとご本人だとのこと。
バカボンの本官さんよろしく銃を乱射していたが、怪我人等は出なかったのであろうか。
しかし暗い話の中、ノリノリでコミカルな演技をしてる阿井氏の熱演は笑える。

本話はクレジットに「ブニョ」と出ているにも関わらず、恒例の指令がブニョを呼び寄せるシーンがなかった。
これはブニョの飛行体を作っていなかったというのもあるだろうが、演出上ブニョをシークレットにすることにより強敵感を煽っていたのもあるだろう。
まあ、その後の予告でこれでもかとばかりに扮装した蟹江氏が出てくるが(笑)、次回を見る限りはその狙いは一応当たったと思われる。
或いは予告に出てくるからクレジット通りと言えるかもしれないが(笑)。
また、それに関連してか、本話はブラック指令の登場は最初のノーバ招聘のシーンだけであった。
大林氏のスケジュールの都合であろうか?

トオルがテルテル坊主の首を切ろうとしてテルテル坊主がそれを避けるシーンはコミカルで面白かった。
しかし、トオルの歌ってたテルテル坊主の歌は初めて聞いた。
昔の子供はテルテル坊主が晴れにできなかったら首をちょん切っていたのだろうか?
酔っぱらいがテルテル坊主を殴って逆にガスをかけられるシーンはちょっとホラーっぽい演出。
突然赤くなるテルテル坊主というのは怖い。
個人的にはこういう静から動への演出は好きである。
最後咲子がトオルに近づこうとして倒れるシーン。
なぜいずみにやらせなかったのか?(笑)。

本話は何と言ってもトオル役の新井氏の演技が見ものであろう。
泣いたり怒ったり拗ねたり、色々な感情を表さないといけないが、どれもステレオタイプな子役の演技になっていないところが素晴らしい。
最近のウルトラにはこういう子役レギュラーがいないが、もう少し市井で暮らすウルトラマンというのも見てみたいものである。
しかし、当時のウルトラは杉田かおるなんていう当時の芦田愛菜レベルの子役が使えるくらいビッグコンテンツであった。
何とも隔世の感である。

本話の見所はやはり咲子といずみがトオルの本当の家族であると身を投げ出したところにあろう。
なぜ2人が血の繋がらないトオルにそこまでできるのかはわからないが、医師である咲子の夫と看護師である咲子自身の信念であろうか。
そこにはキリスト教的博愛主義というようなものがあるように思う。
母性を全面に打ち出したタロウに比べると、レオはその反動として父性を全面に打ち出して始まった。
ただ、その結果としてゲンやトオルにこれ以上ない過酷な試練を与えたのは間違いないであろう。

ただ父性ばかり要求しては人間ダメになってしまう。
大事なのはやはりバランスでありトオルが最後に母性に守られる結末になったのは、結果論かもしれないが番組上は良かったであろう。
ただ、それで終わってしまってはヒーローものとしては失格。
ゲンの問題も含め、ラスト2話でシリーズは総決算されることになる。
それはさておき、円盤生物の侵略を描きつつ、トオルのトラウマ克服を見事に描ききった本作は十分名作の評価ができるであろう。
見過ごされがちだが、レオ後半の阿井脚本のクオリティの高さは見直されるべきではないか。


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