データ 脚本は田口成光。 監督は筧正典。 ストーリー スポーツクラブで懸垂をする子どもたち。 その中で最後まで懸垂を続けていた生徒松本一郎は、両親が海外にいることから叔父の家に預けられていた。 その叔父の名はマイティ松本。 プロボクシングの世界ヘビー級チャンピオンであった。 ある日ゲンたちMAC隊員は街中に出現したケットル星人と格闘していた。 星人は身軽で格闘術に優れ、MAC隊員たちは次々に倒されていく。 逃げ出した星人を追うゲン。 そこへロードワーク中のマイティ松本が通りかかった。 「そいつを捕まえてくれ」とゲン。 それを聞いた松本は星人にボクシング技で殴りかかる。 しかしそれを交わす星人。 さらに星人は松本を締め上げ、松本はそれが元で命を落としてしまう。 落ち込む一郎。 それを見たゲンは「叔父さんの仇は俺が取る」と一郎に約束する。 基地に戻ったゲンはダンに叱責される。 「一体お前がついていながら何たるザマだ」とダン。 謝るゲンに「わたしに謝ったところで何の解決にもなりはせん。謝る前にお前はケットル星人を倒さねばならん。それがお前の役目だ」とダン。 「しかし悲しみにくれる一郎君をこのまま放っておくわけには行きません」とゲン。 「星人を倒すのがお前の役目なら、悲しみにくれる人間を救うのもお前の役目ではないのか。他人の力を頼りにするな」とダン。 その頃スポーツクラブでは、父親と親しげにしているあきらを見て嫉妬した一郎が、あきらに父親の悪口を言い喧嘩になっていた。 それを仲裁するゲン。 一郎は泣きながら、叔父さんはMACに協力して死んだんだとゲンに言う。 責任を感じたゲンは、星人打倒のために空手の練習に励む。 星人出現の報を聞き現場に駆けつけるゲン。 星人はゲンの銃撃も交わし、一郎の叔父の眠る墓地の方へ向かう。 そこには一郎と叔母が墓参りに来ていた。 偶然星人と出くわす二人。 星人は叔母を殴り、叔母を死なせてしまう。 ゲンは星人と格闘するが、星人に羽交い絞めにされる。 そのピンチをダンの銃が救った。 ダンは一郎の叔母の死をゲンに告げ 「少年の心は閉ざされ、誰の心も言葉も信じないだろう。立て、立つんだ。少年の心に光を蘇らせることが出来るのは、お前しかいない」とゲンに言う。 一人懸垂をする一郎。 それを励ますゲン。 しかし一郎は「僕ばかし頑張ることはないさ。おゝとりさんもMACも頑張ってないじゃないか。皆頑張っていれば叔父さんも叔母さんも死ななかったんだ」と言う。 「君にはお父さんもお母さんもいる。僕は父も母も兄弟も皆星人に殺された。でもいつまでも悲しんだりはしていなかった。皆を殺した星人を倒さなければならなかったんだ。星人は力も強く頭もいい、かなり手ごわい相手だ。ただ倒さねばならない。そうしなければ、僕の命がない。今度星人が現れたら必ず僕が倒す。君はそれまでに30回懸垂をするんだ」とゲン。 懸垂30回に挑戦し続ける一郎。 しかし一郎は鉄棒から落ちそうになる。 それを受け止め「星人も落ちるんだ」と気付くゲン。 ゲンは投げ上げたサンドバッグを受け止める特訓を始めた。 そこへ星人出現の報が。 技を会得したゲンは星人に挑みかかる。 ゲンは星人に一撃浴びせるも、星人は巨大化してしまった。 レオに変身するゲン。 工場の煙突をヌンチャクにして戦うレオ。 しかしヌンチャクを破壊され、レオはケットル星人の槍攻撃に苦戦する。 そこへ一郎が現れた。 「俺だって懸垂30回に挑戦して勝ったんだぞ」と一郎。 それを聞いたレオは反撃。 最後はレオキックで止めを刺す。 一郎はアメリカ在住の両親の下へ行くことになった。 今度は懸垂100回に挑戦すると一郎。 それを見送るゲンたち。 解説(建前) ケットル星人は何者か。 ケットル星人が戦ったのは専らMAC隊員。 とすると、やはり対MAC対レオ用に送り込まれてきたと考えるのが妥当であろう。 松本夫妻は偶々それに巻き込まれただけの純粋な被害者ということになる。 感想(本音) 正直に言ってしまえば、この脚本は酷いの一言に尽きる。 ちゃんとチェックが入ったのかと疑問に思わざるを得ない。 ネタが切れてきたのか、時間がなかったのか。 レオの敗北特訓の初期フォーマット、少年の挫折と成長。 両者はいずれも田口脚本の基本要素なのだが、どうもそのまとまりが悪い。 と言うか、完全に消化不良で作品化されてしまったという印象を受ける。 問題点は色々あるが、以下少しずつそれを見ていくことにしよう。 まず気になるのはやはりゲンが松本に星人を捕まえてくれるように頼むシーン。 MAC隊員ですら敵わないのに、一般人に頼む神経はどうかしている。 結局松本は星人に殺されてるし。 もうこれはミスというレベルを超えているだろう。 エース30話の北斗のミスも酷かったが、今回はそれどころではない。 下手すりゃ刑事責任を問われても仕方ないであろう。 話の展開上必要だったのではあろうが、何故こういう風にゲンに責任のある形で松本を死なせたのか大いに疑問が残るところである。 さらに問題を感じるのは、松本の奥さんである一郎の叔母まで死なせた点。 最初このエピソードを見直したとき、奥さんの死にうっかり気付かなかった。 それほど必然性のない展開と言えよう。 これはやはり一郎が失ったのが叔父一人では弱いから叔母も死なせたのであろうが、それなら何故初めから親を死なせなかったか。 最後に救いを持たせるためだったのかもしれないが、何の落ち度もない夫妻が一人はゲンの完全な逸脱行為から、もう一人もMACが星人を逃がしたことから犠牲になるのではとてもMACが正義の組織には見えない。 叔母が死んだ直後山の中で懸垂をするのも頭おかしいし、大急ぎで話の要素を切った張ったしただけなのではないかと思わざるを得ない強引な展開である。 また星人についても相変わらず行動原理が謎。 解釈ではおそらくマグマ星人等が派遣してきたのだろうということにしたが、どう考えても話の都合に合わせて出没してるだけ。 特訓の成果も巨大化でおじゃんだし、これだけかみ合ってない脚本も珍しい。 さらに星人と戦うMAC隊員もほとんど素手だし、一応街中だから銃の使用を控えてるという解釈も成り立つが、これもあれだけ圧倒されては説得力はないだろう。 さらに言うと、銃を使ってるシーンでも一般人の危険を考えずに連射している点、腑に落ちないところである。 とまあ、以上納得できなかった点。 正直あまり脚本を悪く言いたくなかったが、あまりにも問題なので言わずにいられなかった。 色々制作側の事情もあろうが、やはり後世に残るウルトラの1作品だけにもう少しクオリティを上げて欲しいというのが本音である。 子どもが見たら気にならないのかもしれないが、ウルトラシリーズにはそこまで志を下げて欲しくないので、今さらながら苦言を呈しておきたい。 以下、その他気になったところ。 あきら少年は見覚えがあると思ったら、多分ゴルゴダ星のエピソードの時の少年ですね。 あれから2年なので少しお兄さんになってました。 今回は特訓は何故かゲン一人。 次のエピソードといい、ダンが忙しかったのでしょうか。 今回はMAC隊員はほとんど空気。 出番は多かったのですが、見せ場はありませんでした。 空手の特訓シーンにはレオの中の人、二家本さん出演。 まあ一瞬なのでよくわかりませんでしたが。 正直誉められたエピソードではない本話。 それについては上で散々書いたので、最後に少しレオのシリーズ構成に関して触れておこう。 今回名前がはっきり出たわけではないが、ゲンは久々にマグマ星人のことについて言及している。 ゲンはマグマ星人を倒さねばならない、倒さないと自分の命がないとまで言っている。 これはかなりの決意だ。 「今度星人が現れたら必ず僕が倒す」というセリフもケットル星人のことだけでなく、当然マグマ星人のことも含んでいる。 すなわち本話の時点ではまだ、マグマ星人に対するリベンジが重視されていたのである。 しかし結果はご存知の通り、マグマ星人は単なる一宇宙人として倒されてしまう。 これはシリーズ構成としては痛かった。 この話の時点ではゲンはマグマ星人をかなりの強敵と認識しており、マグマ星人がシリーズを通じての巨大な敵であることが示されていた。 結局それをストーカー星人として倒してしまうのだから、シリーズ構成の失敗は明白であろう。 この時期のレオには様々な問題が発生していたことも推測される。 石油危機による制作費の高騰に視聴率の低迷。 さらには何年も続けてきたことによるネタ切れに、人材の枯渇。 さらには怪獣ブームの終焉。 レオを取り巻く環境は極めて厳しいものとなっていた。 そのような状況ではシリーズ構成の迷走なども仕方ないのであろうか。 本話はそういうレオを取り巻く負の側面がもろに出てしまったエピソードといえるであろう。 |