ウルトラの星に祈りを込めて


データ

脚本は田口成光。
監督は筧正典。

ストーリー

宇宙ステーション5が謎の宇宙船の攻撃を受け破壊されてしまう。
TACは地球に入ってきた宇宙船を迎撃。
北斗もアローで攻撃するが突如宇宙船から放たれた赤い光に全身の力が抜け、アローはキリモミ状に降下。
宇宙船は山中らの攻撃により爆破されるが、北斗はアローでの失敗を責められる。
北斗は「変な音がして全身の力が抜けたようになった」というが、信じてもらえない。
「飛行機に問題がない以上君に原因があると考えなければならない」と隊長。
結局北斗は山中の指導の下、もう一度飛行訓練を受け直すことになる。
TAC基地では宇宙船を撃墜した祝勝会が開かれるが北斗の気は晴れない。
しかし北斗は川原で自分を見つめ直し、明日の飛行訓練に気持ちを切り替えていた。
同じ日、ダンはトラックに轢かれそうになったアキラという少年を助ける。
アキラは熱が高く香代子は病院に連れて行くというが、アキラは生まれつきだからと言ってそれを断る。
夜中、北斗の部屋にダンが訪れアキラが熱を出したから見て欲しいと言われる。
北斗はダンの部屋に寝かされているアキラに会うが、急に耳鳴りがして気分が悪くなった。
そのまま部屋に帰った北斗は朝まで寝込んでしまい、山中からの連絡で漸く目を覚ます。
アキラを怪しんだ北斗はダンに手紙を書き、少年に変わった所があればTACに連絡して欲しいと伝える。
ダンはアキラを誘い、マンションの屋上から飛行訓練を見ていた。
「あの飛行機もうすぐ墜落するよ。だってあんなに下手なんだもん」。
「そうかもしれないね」とダン。
すると少年は急に飛行機の方を指差した。
そして指をぐるぐる回すと、飛行機もそれに連れてぐるぐる回りだす。
異常に気づいたダンはアキラを制止し、掴みかかるがアキラは正体を現した。
「超獣人間コオクスだ。TACを全滅させてやる」。
ダンを投げ飛ばすとアキラは姿を消した。
その頃北斗は飛行訓練のミスを山中に責められていた。
隊長も「疲れで神経がやられてるんじゃないか」と言い、北斗を地上勤務にする。
その時ダンから電話が掛かってきた。
ダンは山中に「アキラ君が超獣人間だ」という。
しかし山中は取り合わない。
「ダンは正常です。あの少年の近くに行くと飛行訓練と同じように力が抜ける」と北斗。
しかし隊長は「やっぱり地上勤務だ」と言う。
地上勤務になった北斗は次の機会に備え、1人ロープにぶら下がりキリモミに耐える訓練をしていた。
ダンはウルトラの星に向けて「エースに超獣人間の武器を教えてあげて下さい。超獣は指の先から変な光を出しているのです」と言う。
その頃TAC基地近くまで来ていたアキラは超獣人間コオクスに変身。
TACは出動するが、北斗は基地に待機を命ぜられる。
レーダーに向かう、コオクス。
迎え撃つ山中らだったが、コオクスの指から出る怪光線に全身の力が抜けキリモミ状に落下。
隊長機も同様に落下する。
それを見た北斗は独断で出撃。
赤い光線を浴びキリモミ状になるが、訓練の成果でそれに耐えミサイルで反撃した。
しかしコオクスの攻撃にアローも墜落。
北斗はエースに変身する。
エースはコオクスの怪光線に大ピンチになるが、その時ウルトラの星からサインが届いた。
ダンの祈りが通じたのだ。
コオクスの指先を狙え。
エースはコオクスの両手をエースギロチンで切断し、とどめのメタリウム光線でコオクスを倒す。
基地に戻った北斗は山中に謝られる。
隊長も命令違反については緊急事態であり不問に付する。
仲間の信頼を取り戻した北斗は恩人のダンを連れ街に買い物に出掛けたのであった。

解説(建前)

お馴染み、まず超獣人間コオクスとは何者か。
目的が北斗を混乱させTACを全滅させるという明確なもので、直接北斗やTACに恨みがあるように見える。
とすると、やはりヤプールと何か関係があるのでは。
あの宇宙船もおとりのようにも見え、地球侵略等よりTAC壊滅を直接の目的にしているようにも感じられる。
とするとダンや香代子に近付いたのも計画通りということになろう。
エースの正体が北斗と知っていた可能性も高い。

結論としてはヤプールの残党と考えるのが素直であろう。
少年に変身した姿がバキシムの時と同じというのも有力な証拠だ。
ただ気になるのはコオクスが子供そのもので大人が変身してるとは考えにくい点。
ヤプールにも子供ヤプールがいるのか、それともヤプールが作り出した別の生物か。
超獣人間という呼称からはもしかすると、ヤプールが宇宙生物と人間の子供を合成して作り出したのかもしれない。
とすると、知能が低いのも頷ける。
何れにせよ、その目的といい謎が残るキャラである。

ダンの祈りがウルトラの星に通じたのは何故か。
これは北斗を通じて「ダンは仲間」とウルトラの星で認知されていたからではないか。
ゾフィーやセブンは常にエースを見守っており、その親友ダンも認知されていたものと考えられる。
まあダンに特殊能力があるとも考えられるが。
北斗はアキラに近付くだけで耳鳴りがする。
これはアキラの持つ音波みたいなものを感じ取る能力が他より優れているからではないか。
その後遺症は相当酷く、山中との飛行訓練でも全く精彩を欠いてしまった。

感想(本音)

子供心に怖かった話。
何と言ってもあの少年が怖い。
演技とは思えないほど魔少年ぶりが板についている。
あの北斗を見る目はもう悪でしかない。

今回は全編に渡って重い雰囲気の話になっている。
最後の買い物シーンだけが救いか。
夕子降板後のエースはとかく、雰囲気が重い。
やはり番組の華であるヒロイン降板の影響は大きいものだ。
帰ってきたウルトラマンではそこまで影響を感じなかっただけに、その差は興味深い。
これは帰ってきたウルトラマンでヒロイン的役割を演じていたのは実はアキちゃんより次郎君だったことを物語る。
ダンは次郎君に比べると、イマイチ華がない(ダンファンの人すいません)。

今回脚本は田口氏。
上原、市川両エース降板後の後を継ぐニューエースとして申し分ない仕事をしている。
「帰って来た」のころはやや脚本家としての力量不足を感じさせたが、今回は実質メインライターとしてその実力を如何なく発揮。
特にまだキャラが固まってないダン君を無理なく活躍させた氏の功績は大きいだろう。
北斗のミスも全編に渡って展開されており、30話のような消化不良にはなっていない。
シリーズ全体の構成及び、本エピソードの構成ともに上手くまとめられており、氏が脚本家として確実に成長しているのがわかる。

今回の注目は何と言っても超獣人間コオクスであろう。
氏得意の子供の魔性がまたしても描かれている。
市川氏も子供の持つ残酷性を「ふるさと地球を去る」や「悪魔と天使の間に」で描いていたが、いずれも大人から見た子供という視点で描かれており直接子供の残酷性を描いてはいなかった(子供は大人が思うほど天使じゃない)。
しかし田口氏は子供の魔性を直接描く。
この辺りの視点は現在の少年犯罪にも繋がるものであり、氏が「レオ」において展開した無差別殺人といい、田口氏がかなり現代的な視点を持っていたことを窺わせ興味深い。
この辺り若いライター(当時)の独特の視点であろうか。
もっとも氏は児童文学の分野に興味を持っていたようだから、その辺りの視点から来ているのかもしれない。
少年の屈折や無邪気な残酷性といったものは氏がかなり意識していたテーマなのであろう。

では恒例ツッコミを少し。
川原で気を取り直した北斗の走り方は妙に笑える。
ロープにぶら下がってキリモミに耐える訓練をする北斗。
そんなので効果あるのかと思ったら意外に効果があって驚いた。
しかしその後あっさり撃墜されたが。
しかしあれだけ大爆発して平然と戻ってくる北斗を見て誰も不思議に思わないのか。
調べればアローのパラシュートが使われてないことくらいわかりそうだが。
一応カモフラージュのために変身直前にパラシュートを開いているのかもしれない。

ダンに自分の名前を聞かれてアキラ君、「そう、星野アキラ」。
て、急に思いついたのか?
モロボシダンといい、宇宙人は急に名前を聞かれると星の字を入れたくなるようだ。
コオクスに変身するアキラ君の掛け声。
「イェーイ」って。
ダンは手紙のウルトラサインを見てエースからの手紙だと言う。
て、よくウルトラサインを知ってるな。
しかし少し考えれば北斗の手紙ってことくらいすぐわかるだろ!
まったく、ウルトラに出てくる子供は…。
山中は相変わらず怒鳴ってばかりだが、その端々に彼の優しさを垣間見ることが出来る。
TACは山中以外キャラが立ってないだけに、余計に彼のキャラが目立ちますね。

今回は前回とは打って変わって硬派な侵略物になっている。
しかも少年の不気味さ、コオクスの謎、ダンの活躍が上手くミックスされており、北斗のミスという典型的なストーリーを軸に見応えある仕上がりになっている。
まさにエースの本筋を押さえ、新たなキャラも活躍させる。
ツッコミどころも少なく無難にまとまっており、少し不気味な雰囲気もありなかなかの好編だと思う。
エース中期は完全に田口氏がメインなのがよくわかる一作である。


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