奇跡!ウルトラの父


データ

脚本は田口成光。
監督は筧正典。

ストーリー

ウルトラ5兄弟は死んだ。
「これは夢だわ」美川隊員。
「残念だがこれは非情な現実だ。ウルトラ5兄弟が我々の前に帰ってくることはもうないだろう」と竜隊長。
「すまない。エースがきっと助けてくれると思って。エースを渡せなんて言っちまって」と山中。
「TACよ降伏せよ。地球を我々に引き渡せ」ヒッポリト。
「断る。地球は我々人間のものだ。TACは自分達の土地を守り抜く」と隊長。
弱気な吉村に「ウルトラ兄弟は自分の星でもない地球のために死んだんだ。勝つんだ」と山中。
車で基地へ戻るTAC隊員たちを止める一般人。
「攻撃を止めろ。これ以上町を破壊されたくない。第一ウルトラ5兄弟を倒した相手に勝てるはずないじゃないか」と住民。
「これは人間と宇宙人の戦いです。我々が負けたら心まで宇宙人に渡すことになるでしょう」、
「我々隊員たちの5つの魂を失っても地球に住む36億の魂を渡さなければ我々の勝ちです」と隊長。
基地に戻った隊員たちは星人の正体をスモッグに投影したものと結論し、本物を見つければ何とかなると細胞破壊銃で攻撃することにする。
北斗と南の席に花を置こうとする美川。
隊長は2人は生きてる気がするとそれを制止する。
竜は事故死したドライバーの家に行き、父親を殺したのが星人であることを伝える。
それを聞いたひろしは「TACが星人と戦わなかったらエースも父ちゃんも死なずにすんだ」と言う。
しかし隊長は「何の理由もなく地球を自分のものにしようとする星人を許すことは出来ない。誰かが自分の大切なものを取ろうとしたら怒るだろう。私達は怒らなければならない」。
「でも星人は強いんだよ」。
「星人にも我々にも命がある。命と命を交換すれば必ず勝てる」。
竜はひろしの姉から運転手の持っていたお守りを渡される。
「父が20年間無事故だった命のお守りです」。
星人がA地区に出現。
隊長はエネルギーの半分しか入ってない銃をもって星人に挑むことにする。
「エネルギーが足りない分接近して撃つ。危険が伴うので私がやる」と隊長。
山中らには町の星人と戦って本体を安心させるよう命令する。
その間に隊長が谷間の星人を攻撃するのだ。
出動を命じる隊長。
その時梶が「私も出動させてください。私だけ生き残るわけには行きません」、
「我々は死にに行くのではないぞ」、
「わかってます。連れて行ってください」。
隊長は車で谷へ、梶ら隊員はファルコンで空へ。
「ウルトラ兄弟はいない。地球人を助けてくれるものはいないのだ。素直に我々の言うことを聞け」。
町で暴れる星人を攻撃するTACだが案の定弾は命中しない。
その頃竜は谷間でカプセルを使い自分を投影する星人を発見。
破壊銃を撃つがカプセルを破壊するのが精一杯だった。
秘密を見破ったと怒る星人。
山中らは隊長を援護するため星人を攻撃するが撃墜されてしまう。
「私の秘密を知った素晴らしい能力を褒め称えよう。だが私を困らせるほどの力はないようだな」。
「我々ヒッポリト星人の力を見せてやろう」。
炎に巻かれるTAC隊員。
あわや全滅かというその時、空から青い光が。
地上に激突した光から現れたのはウルトラの父だった。
ウルトラの父はウルトラアレイで星人を攻撃。
TAC隊員たちを取り巻く炎を消火し、エースのタールを洗い流す。
優勢に戦いを進める父であったが、長旅の疲れかヒッポリトに反撃を許し、力尽きようとしていた。
最後の力を振り絞った父はエースにタイマーの残りのエネルギーを分け与える。
復活したエースに慌てる星人。
エースは間髪入れず星人を攻撃し、最後はふらつく星人をメタリウム光線で大爆破。
遂に星人を倒すことに成功した。
と同時に兄弟たちを封じ込めていたタールも消える。
エースは残りのエネルギーを兄弟たちに分け与え、無事を喜びあうがすぐに死んだ父を見て悲しみに沈む。
父の亡骸は兄弟たちがウルトラの星へ運んで行った。
それを見送る隊長たちの下へ北斗、南が駆けつける。
2人の無事を喜ぶ隊員たち。
北斗とともにひろしの家へ行った隊長はひろしにお父さんの形見のお守りを渡す。
空には1番星が。
「おとうさーん」。
素直な心を取り戻したひろしの声が夜空にこだました。

解説(建前)

ヒッポリト星人は一応私と我々を使い分けてるので、どうやら本国から派遣された先兵というのが正解のようだ。
しかし何故に今回カプセルを使わなかったのだろう。
これはカプセルの用意が切れたか、ヒッポリト自身の超能力が切れたか。
自分の影に攻撃させるくらいだからこの星人はかなりの妖術使いと思われる。
とすると、カプセルも超能力で作り出しているのか。
いや、やっぱりカプセル自体は罠として仕掛けていただけで、それがなくなったと見るのが妥当だろう。
そしてカプセルで閉じ込めた後は触覚からの光でタールを操っていたので、タール自体は星人の妖術なのだろう。
だから星人を倒した後兄弟たちが解放されたのだ。
しかしヒッポリト星人は長旅で疲れてたとはいえ、父まで倒すのだから相当強い。
それを圧倒したエースも実はかなり強いと考えられるだろう。

助かった北斗と夕子の言い訳は星人に捕まってた。
それしかないでしょうな。
何故エースは父の残り少ないエネルギーで星人に勝てたのか。
これはエースが父に比べてエネルギー効率がいいというのが正解でしょう。
またエースは地球人と合体してる関係上、地球では力をより発揮できるとも考えられる。
父自身エネルギー切れだけでなくヒッポリトにやられたのが力尽きた原因なので、他の兄弟も空を飛ぶ力だけは残っていたのだろう。
宇宙へ出れば太陽エネルギーが補給されて復活できる。
死んだ父はウルトラの国で復活したというのは言うまでもない。

感想(本音)

竜隊長が大活躍し、主役の2人がほとんど出ない今回。
しかしそのテーマは正義とは、人間の誇りとは、といったなかなかに重いテーマであった。
もちろん父と子のテーマ、田口氏得意の少年の心の成長も大きなテーマになっている。

しかしシリーズ中これほどまで地球人が追い詰められた話はあったのだろうか。
「さらばウルトラマン」ではウルトラマンが倒された後、すぐにペンシル爆弾でゼットンを倒し事なきを得ているし、「セブン暗殺計画」ではまだセブン救出の余地があった。
「ウルトラマン夕日に死す」はかなり絶望的であったがサターンZという切り札もあり、まだ可能性は残されていた。
しかしウルトラ5兄弟全滅の絶望感たるや何たるものだ。
攻撃が突き抜ける星人、5兄弟さえ倒す星人。
細胞破壊銃で何とかなる相手ではあるまい。
まさに魂をぶつけるしかない、いやそれで倒すことも実際不可能なのだ。
こうなりゃ竜隊長の言ってることはただの玉砕にしか聞こえない。
案の定、星人のカプセルを破壊してもその後何の策もなかった。
結局はお守りで神頼み、人事を尽くして天命を待つ。
かくして現れた父のおかげで地球の平和は守られたのだった。

こういう防衛隊の無力を描いたこの作品は、ゼットンを倒した科特隊やセブンを助けた警備隊の活躍を描いた1期ウルトラファンからはすこぶる評判が悪い。
曰く、もう少しTACを活躍させてもよかったのではと。
しかし本エピソードのテーマが地球防衛軍の活躍を描くことになかったのは話を見れば一目瞭然だろう。
それではこのエピソードのテーマとは。
それは前述の通り、人間の誇り、正義である。
すなわち、絶対たる悪に対して心まで売り渡しては駄目だ。
人間は誇りを失った時心まで失うのだと。
ある意味、1億玉砕、ナショナリズム的な発想ではあるが、話はそんな次元にはなく1人1人の心の問題。
悪に負けてはいけないという少年少女へのメッセージなのだ。

そして物語内では当然ひろしにそのメッセージは向けられている。
ひろしは田口氏得意の屈折した少年(エレドータスとかね)。
幼くして両親を失い、社会を恨んでいる。
そしてまさに心まで悪に屈しようとしている少年であった。
ひろしは竜の説得に頑なな心を溶かし始める。
そして我が身を犠牲にして兄弟たちを助けたウルトラの父の話を聞き、自分の父親も空から自分を見守ってくれてるんだと素直な心を取り戻すのである。

かように本作は人間の心の問題、父と子の情愛を描き、ただのイベント篇に終わらない重厚なメッセージ性をも備えた作品に仕上がっている。
しかしその意図がどれだけ実現したかは実はかなり心許ない。
やはりTACの無力は結局ウルトラ一族への依存ばかり目立って不甲斐なさだけが目に付くし、少年も最後急に良い子になった感じで唐突さは否めない。
魂と魂を交換しというのもどうも観念論に終わってる嫌いがある。

しかしながら本作が心をテーマにしていると考えたら、それらはさして重要ではないことに気付くだろう(少年はちょっと問題あるが)。
ウルトラの父の出現は御都合主義との批判はあろうが、5兄弟を倒した敵をTACが倒してしまったらそれこそ御都合主義の謗りは免れまい。
そもそもあれほどの強敵をTACが倒すことは不可能なのだ。
もちろんエースを救出しという展開は可能だが、それではあまりにも2番煎じだし、都合がいいと思われる。

世の中不可能なことはいっぱいある。
誰もが努力したらイチローや松井になれるわけではないのだ。
問題はそういうことに挫けない心。
家庭環境の悪さに挫けない心。
何でも他人のせいにしてはいけない。
自分達の土地は自分で守る。
その気持ちこそ大切なのである。

また誰も完璧なものはいない。
ウルトラ兄弟ですら完璧ではないのだ。
ウルトラ兄弟すら負ける理不尽。
TACの無力さとともに絶対なものはこの世の中にない。
そういうメッセージをも感じ取ることが出来る。
子供向けのメッセージではあるが内容はかなり大人びたものだ。

その他気になった点。
エース復活後のエースのテーマ挿入は初の試みだったが、まさにピッタリハマってて戦いを大いに盛り上げるのに成功していた。
隊長が銃を撃つ時崖が崩れたり、途中で車が止まったり、イマイチ演出意図不明な場面が目立った。
戦いの困難さの演出だろうが、個人的にはずしてたと思う。
あと、スペースがミサイルに追いかけられ「天国と地獄」(運動会の曲)がかかる所もイマイチ演出意図不明。
決戦ムードを盛り上げてるのか、話が重いのでコミカルにしてるのか。
個人的にはあまりいらないと思うが、ある意味あの状況での能天気な選曲は絶望的な雰囲気が逆説的に強調され良かったかもしれない。

隊長はすぐエースや兄弟たちが死んだことにしたがる。
頼ってはいけないという隊長としての心構えか。
しかしその割りに炎に包まれてる時、お守りをギュッてしてたな。
決戦に行く梶が1番ポイントが高かったのは衆目の一致する見解だろう。
カプセルを破壊されて激昂する星人。
冷静な態度の裏のどす黒い本性が垣間見えた気がした。

本作はエース最大の盛り上がりでかつ最大の問題作といえたが、今見返してみるとそのメッセージ性も見逃せないものがある。
ここまで人間対宇宙人という図式を展開した話はなかったのではないか。
そしてそれは最初から敵わない前提でなお心の問題を説いている非情に難しいテーマでもある。
もちろんその辺りの消化不良は否めないので、とかくイベントばかりが目に付くが、個人的にはかっこいい竜隊長の活躍もありとても心に残るエピソードの1つである。
もちろん田口氏の作品でも上位に指名されるべきストーリーであろう。


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